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第21話 オティリオの告白
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夕食前に身体を清めて着替え終わったところで、オティリオが部屋に入ってきた。
ドラジス国の王子イザベルを逮捕したことにより、ディアーク王の側近であるオティリオは、真夜中まで事実確認に追われているらしく、なかなか会えなかった。
「今日は早いですね」
俺が言うと、オティリオは首を左右に振る。
「様子を見に来ただけ。また戻らないといけない。ゲリン、寝てないと駄目でしょ」
オティリオは、寝台から出ていた俺に目くじらを立てた。
「もう大丈夫です。明日には、金ノ宮に戻ろうと思ってます」
「金ノ宮に戻ってもいいけど、まだ安静にしないといけないからね。ほら、ここに座って。額の傷は綺麗に消えたみたいだね」
寝台に座ったオティリオの隣に、俺も腰をおろす。
俺の前髪を触り、額を確認するオティリオは、唐突にさらりと告げた。
「このまま、僕と婚約しない?」
そして、額に伸ばしたオティリオの手が頬に移動して、オティリオの顔が近寄ったかと思えば、唇に唇を軽く重ねていた。
あっという間に。
俺は目を開けたまま呆然としてしまう。
「やっぱり嫌じゃない。お前はどう?僕のキスは嫌か?」
「は?殴っていいですか?」
わざとらしく手のひらを握って拳を作る。
オティリオが心外とばかりに、唇を手で隠した。
「そんなに嫌?」
「嫌とかいう問題ではなく、何を考えてるんですか?」
また、面倒事を押し付けようとしているのか。
「何にも考えてないよ。兄上から聞いたんだ。カスパーが十歳になるまでに番がいなければ、護衛を辞めないといけないんでしょ?それなら、僕と番になればいいんじゃないの?」
俺は、瞬きを繰り返した。
「……殿下は今でもマイネを好きなんですか?だから、そんな無茶苦茶な発想になってるんですか?」
「好きだけど、性的に好きかって聞かれたら違うし、今の話とは関係がない。ゲリンこそ忘れられない人がいるんじゃないのか?」
オティリオに指摘された俺は、言葉に詰まる。
「どうしてですか?」
「なんとなく、お前ぐらいの容姿をしていたら、番がいないのはおかしい」
「前職のオメガ病院は、アルファの立ち入りを禁止してました。アプト領にいた二十歳から三十歳の間で、結婚してないアルファと親しくなることがなかっただけです」
俺は否定した。
ダイタは、唯一のアルファだから記憶に残っているだけだ。
上書きするアルファに出会わなかっただけで、忘れられなかったわけではない。
「ゲリンがそう言うなら、それでもいい。さっきの番の話だけど、ゲリンのこと、わりと好きだよ。もしゲリンに番になる人が現れなかったら、僕がなるよ」
「……そんな約束していいんですか?」
「うん。いいよ」
あまりにもあっさりと返事があり、俺は苦笑する。
オティリオは言い募った。
「二人とも結婚してなかったら、一緒になろう」
「軽いですね」
「いい考えだと思うんだけどな。僕とのキスは嫌だった?答えてよ」
「急すぎて、わかりませんでした」
嫌悪感はなかったが、正直に答えたくない。
「何それ、誘ってんの?」
近寄るオティリオの胸を右手で押すと、その手をオティリオが握りしめた。
「ルシャード兄上とマイネみたいな運命の番とまではいかないけど、もし番になったらゲリンを大切にするよ」
オティリオは、そう告げると、握った俺の手を引き寄せて優しく抱きしめた。
頬にオティリオの唇が当たる。
ルシャードがマイネにだけに向けるひたむきな溺愛と執着心。
俺は素直に羨ましいと思っている。
同じような熱量でないにしても、オティリオの告白に驚いた。
抱きしめられて、オティリオのアルファの匂いを感じた。
オメガほどではないが、アルファにしては甘い匂いだ。
王弟でありながらも、気さくで人当たりが柔らかく、一緒にいて居心地が良いオティリオのことを嫌いではない。
「頭の片隅にでも覚えておいて」
オティリオは囁く。
その後、イザベルはイリス領での人攫い及び奴隷商の代表として悪事が明るみになった。
ドラジス国でも証拠物件が揃ったらしく、奴隷となったイリス領の獣人の子を探し出し解放される動きがあるそうだ。
アンゼル王国では違法薬とされる発情誘発剤についても、密売をしていたことがわかった。
使節団と侍従の中にいた奴隷商の仲間は、俺が倉庫で見たブロックと短躯男だけだったとされ、その他の者はドラジス国に送り返されたと聞いた。
イザベルは、アンゼル国で逮捕されたものの、王族の立場を考慮して、ドラジス国で投獄される判決が下された。
ドラジス国の王子イザベルを逮捕したことにより、ディアーク王の側近であるオティリオは、真夜中まで事実確認に追われているらしく、なかなか会えなかった。
「今日は早いですね」
俺が言うと、オティリオは首を左右に振る。
「様子を見に来ただけ。また戻らないといけない。ゲリン、寝てないと駄目でしょ」
オティリオは、寝台から出ていた俺に目くじらを立てた。
「もう大丈夫です。明日には、金ノ宮に戻ろうと思ってます」
「金ノ宮に戻ってもいいけど、まだ安静にしないといけないからね。ほら、ここに座って。額の傷は綺麗に消えたみたいだね」
寝台に座ったオティリオの隣に、俺も腰をおろす。
俺の前髪を触り、額を確認するオティリオは、唐突にさらりと告げた。
「このまま、僕と婚約しない?」
そして、額に伸ばしたオティリオの手が頬に移動して、オティリオの顔が近寄ったかと思えば、唇に唇を軽く重ねていた。
あっという間に。
俺は目を開けたまま呆然としてしまう。
「やっぱり嫌じゃない。お前はどう?僕のキスは嫌か?」
「は?殴っていいですか?」
わざとらしく手のひらを握って拳を作る。
オティリオが心外とばかりに、唇を手で隠した。
「そんなに嫌?」
「嫌とかいう問題ではなく、何を考えてるんですか?」
また、面倒事を押し付けようとしているのか。
「何にも考えてないよ。兄上から聞いたんだ。カスパーが十歳になるまでに番がいなければ、護衛を辞めないといけないんでしょ?それなら、僕と番になればいいんじゃないの?」
俺は、瞬きを繰り返した。
「……殿下は今でもマイネを好きなんですか?だから、そんな無茶苦茶な発想になってるんですか?」
「好きだけど、性的に好きかって聞かれたら違うし、今の話とは関係がない。ゲリンこそ忘れられない人がいるんじゃないのか?」
オティリオに指摘された俺は、言葉に詰まる。
「どうしてですか?」
「なんとなく、お前ぐらいの容姿をしていたら、番がいないのはおかしい」
「前職のオメガ病院は、アルファの立ち入りを禁止してました。アプト領にいた二十歳から三十歳の間で、結婚してないアルファと親しくなることがなかっただけです」
俺は否定した。
ダイタは、唯一のアルファだから記憶に残っているだけだ。
上書きするアルファに出会わなかっただけで、忘れられなかったわけではない。
「ゲリンがそう言うなら、それでもいい。さっきの番の話だけど、ゲリンのこと、わりと好きだよ。もしゲリンに番になる人が現れなかったら、僕がなるよ」
「……そんな約束していいんですか?」
「うん。いいよ」
あまりにもあっさりと返事があり、俺は苦笑する。
オティリオは言い募った。
「二人とも結婚してなかったら、一緒になろう」
「軽いですね」
「いい考えだと思うんだけどな。僕とのキスは嫌だった?答えてよ」
「急すぎて、わかりませんでした」
嫌悪感はなかったが、正直に答えたくない。
「何それ、誘ってんの?」
近寄るオティリオの胸を右手で押すと、その手をオティリオが握りしめた。
「ルシャード兄上とマイネみたいな運命の番とまではいかないけど、もし番になったらゲリンを大切にするよ」
オティリオは、そう告げると、握った俺の手を引き寄せて優しく抱きしめた。
頬にオティリオの唇が当たる。
ルシャードがマイネにだけに向けるひたむきな溺愛と執着心。
俺は素直に羨ましいと思っている。
同じような熱量でないにしても、オティリオの告白に驚いた。
抱きしめられて、オティリオのアルファの匂いを感じた。
オメガほどではないが、アルファにしては甘い匂いだ。
王弟でありながらも、気さくで人当たりが柔らかく、一緒にいて居心地が良いオティリオのことを嫌いではない。
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オティリオは囁く。
その後、イザベルはイリス領での人攫い及び奴隷商の代表として悪事が明るみになった。
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アンゼル王国では違法薬とされる発情誘発剤についても、密売をしていたことがわかった。
使節団と侍従の中にいた奴隷商の仲間は、俺が倉庫で見たブロックと短躯男だけだったとされ、その他の者はドラジス国に送り返されたと聞いた。
イザベルは、アンゼル国で逮捕されたものの、王族の立場を考慮して、ドラジス国で投獄される判決が下された。
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