望む世界

不思議ちゃん

文字の大きさ
上 下
11 / 91
終わらない始まり

商業施設

しおりを挟む
 2人は何やら俺に用があるらしいが、それだけ声を出せば【ゾンビ】が集まっていく。

 そうすれば俺はそこに近づくことができない。
 なので手を振って先へ進むことにした。

「おい! ふざけるな!」
「無視しないで!」

 怒鳴られているが、俺は何も悪くない。
 そう、自分の命が一番大事であるのだから。

 バカでもわかりやすいよう、2人にマンションの下を見るよう指を向ける。

 そこでようやく、【ゾンビ】が集まってきていることに気づいたらしい。

 集まっていてもいなくても、結局無視して進んだけどな。
 食料でも取って来いと言うつもりなのだろうし。

「待ってくれ! 頼む!」
「お願い! 見捨てないで!」

 状況を理解したからか、縋るように頼んでくる声が聞こえるけど。

 2人が声を出してくれてるおかげで俺は進みやすくなっている。
 【ゾンビ】が全部、2人の元へ向かっているのだ。

 中には俺を見てこっちに向かってくるのもいるけど、その数は少ない。

 ……持ち物に目覚まし時計を追加するか?
 タイマーの音で【ゾンビ】を集められるかと思ったが、投げた場合は壊れるだろう。

 置き型の時限式でしか使えないなら微妙なところか。
 爆竹の方がまだ使い道はあるかな。

 気づけば2人の声は聞こえなくなっていた。
 それだけの距離を進んだというよりは、呼びかけるのを諦めたんだろう。

 あの2人の声に反応して他からも顔を出してくるかと思ったんだが、誰もいなかったな。

 既に【ゾンビ】の仲間入りしてるのか、俺みたいに移動してどこか拠点でも作ってるのか。

 ……そういえば、この辺りにホームセンターがあったな。
 ホームセンター……で呼び方あってるよな?

 食品売り場や本屋、服屋におもちゃ売り場。家具とかもあるけど……うん。
 ショッピングモールかデパートって言うんだったっけ?

 まあ、呼称はどうでもいいか。
 服屋もあるならそこに向かおう。

 幸いにも進んでる道の途中にあるし。

 問題があるとすれば、そこに人が大勢いて面倒な事になるかもしれないってところかな。





 道中、【ゾンビ】の数があまりいないなと思っていたが、目的地の建物入り口に結構集まっていた。

 あれだけの物量なのに入れないってことは、入り口に何か置いてあるんだろう。

 置かれてなくて入れないのだとしても、あの量相手は無理だ。

 他の出入り口は立体駐車場や裏口なんかがあるけど、ほとんど似た感じなのだろう。

 一番入れる可能性がありそうなのは立体駐車場からかな。

 屋上は周りを見回すのに最適だし、そこを目指して見るか。

 この建物は広い上に8階まである。
 駐車場も同じ階数あるため、登るのもそこそこ体力持っていかれるな。

 1階、2階と【ゾンビ】が徘徊していたが、普通にスルーして登れたのだが。
 3階へと続く上り坂の途中で車が3列並べられ、道がふさがれていた。

 まあ、【ゾンビ】ならこれで大丈夫だろうけど……人相手には時間稼ぎにしかならない。

 上り坂なので少し面倒だったがボンネットに乗って車を超える。
 ここで【ゾンビ】の進行を止めたのか、3階以降は【ゾンビ】の影はないように見える。

 だけど突破された時用の時間稼ぎか、各階層に行く道を車で塞がれていた。

 そのため、体力は削られるし時間もかかるし。
 今更ながら、出入り口はコッチじゃなくて別にあるのではと思う。

 補給してきたものをここまで運ぶのはキツイ。
 裏口が当たりだったか……。

 既に6階まで登ってきたし、このまま登り切るけど。
 少し先を急ぎすぎたか。





 屋上の手前で休憩を挟み、体力を回復させる。

 可能性としてだが、いきなり襲われることもあると思う。
 バールは……しまっておかなくても言い訳すればいいか。

 トンカチも念のため取り出しやすいところに移す。
 もちろん、相手から見えない位置に隠すようにしてだ。

 小一時間ほど休んだけど満足とはいかないが、8割くらいなら逃げるくらいできるだろう。

 坂を登りきるなんてことはせず。
 顔だけ覗かせて辺りを見回す。

 【ゾンビ】はおらず、見張りとしてか2人1組でそれぞれの方角を見回していた。

 男女混合で、中学生から50代くらいの年齢幅だろうか。
 後ろ姿からだから違うかもしれないが。

「こんにちは。ここのリーダーと話をさせてもらえないかな」

 バールをしまい、姿を完全に出して声をかける。
 そこでようやく彼ら……といっても3ヶ所は距離があって声が届いていない。

 近くにいた2人が俺に気づいた。
 中学生の男の子と40代のおじさんであり、俺の姿を見て驚き、慌てていた。

「え、ええっと……君は一体……」
「おじさん! その前に連絡しないと」
「あ、ああ。そ、そうだったね」

 トランシーバーを手に、男が屋上にきたと話している。
 個人ではなく全員に話がいくのか、他の3ヶ所にいる人たちがこちらを見て集まってきた。

 ……さて、友好的な話し合いができるといいが。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

「こんにちは」は夜だと思う

あっちゅまん
ホラー
主人公のレイは、突然の魔界の現出に巻き込まれ、様々な怪物たちと死闘を繰り広げることとなる。友人のフーリンと一緒にさまよう彼らの運命とは・・・!? 全世界に衝撃を与えたハロウィン・ナイトの惨劇『10・31事件』の全貌が明らかになる!!

怪異相談所の店主は今日も語る

くろぬか
ホラー
怪異相談所 ”語り部 結”。 人に言えない“怪異”のお悩み解決します、まずはご相談を。相談コース3000円~。除霊、その他オプションは状況によりお値段が変動いたします。 なんて、やけにポップな看板を掲げたおかしなお店。 普通の人なら入らない、入らない筈なのだが。 何故か今日もお客様は訪れる。 まるで導かれるかの様にして。 ※※※ この物語はフィクションです。 実際に語られている”怖い話”なども登場致します。 その中には所謂”聞いたら出る”系のお話もございますが、そういうお話はかなり省略し内容までは描かない様にしております。 とはいえさわり程度は書いてありますので、自己責任でお読みいただければと思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

ノック

國灯闇一
ホラー
中学生たちが泊まりの余興で行ったある都市伝説。 午前2時22分にノックを2回。 1分後、午前2時23分にノックを3回。 午前2時24分に4回。 ノックの音が聞こえたら――――恐怖の世界が開く。 4回のノックを聞いてはいけない。

Dark Night Princess

べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ 突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか 現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語 ホラー大賞エントリー作品です

ウツロ氏の迷惑な名簿

三塚 章
ホラー
死人を一時的によみがえらせる人形を持って旅する青年の話

処理中です...