望む世界

不思議ちゃん

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 自由時間と伝えられた少女──薫は、すぐ眠りについた歩をジッと見ていた。

 そしてナイフへと手を伸ばし、柄に触れるが……そのまま抜くことはなく。
 壁に背を預けて座り、再び眠る歩をジッと観察し始める。

「…………」

 その目は歩を見ているようで見ておらず、かといって違う誰かを重ねているわけでもない。

「…………やっぱり」

 音として発することはなかったが、口の動きから続きが『あの時の人』。と読むことができた。

「おにーさんは……覚えていないんだろうな」

 少し悲しそうな表情をしながら、短い髪をそっと撫でる。

 本当は話し、思い返して欲しいのだが。
 そうせずとも思い返して欲しいと思うのは乙女心ゆえなのか。
 ……もしくは──。

 あの時を境にバッサリと切り落としてしまった。
 後ろ姿を忘れられず、意味はないと理解していながらも共通点が欲しいと。
 少し意識して寄せた髪型。

「……私は、おにーさんのもの」

 目を閉じた薫は手に少し力が込められており、何か思い返しているようであった。

「だから……見捨てられないようにしないと」

 開かれた目は揺れており、もし見捨てられたらと考えたようだ。

 それほど長く接していなくても、歩の人となりは大体理解できるだろう。
 自分にとって益があるか、ないか。

「今回のでおにーさんにどう思われたか分からないけど、きっと……」

 そこで口を閉ざしたのは、それが事実だとしても認めたくない気持ちからだろう。

 失望されていたとしたらすでに見放されているはず。
 そこまでいかないにせよ、マイナスなイメージがついたと考えが至ったのだろう。

 誰だって人によく思われたい。
 それが自分の気に入っている、好意に近い気持ちを抱いている相手なら尚更。

 薫自身も気付かないうちにどこか歪んだ気持ちを抱きながら、眠りについた。





 寝たことで多少は気持ちの整理がついたのか。
 翌朝にまで引きずっている、なんて事は無かったが。

 本人も気付かない歪んだ気持ちは未だ残り続けている。

 果たしてその気持ちは今後、薫にどのような影響を与えるのか。



 ──歩へと◼︎を向ける日はそう遠くない。
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