望む世界

◾︎が◾︎◾︎◾︎◾︎

根拠のない勘

　隠れてから数分が経ち、何かを引きずるような音が聞こえてきた。

　重いものを引きずっているように聞こえ、戦った大きな【変異種】よりも倍以上の背丈がありそうな気がする。

　音が大きくなってきたのでベランダから顔を少しだけ出し、聞こえてくる方を見ていれば。

　十字路の曲がり角から大きな影が姿を現わす。

　近くにあるビル４階建てとほぼ同じ大きさということは…………１５、６メートルはあるって事になる。

　…………いやいやいや。
　いくら【異能】があるとはいえ、今の状態で相手するのはほぼ無理だろう。

　日本には海外ほど重火器が手に入るわけじゃない。
　そんなのでこれを相手にしろとか。

　こいつがボスならまだ納得できるが、そうじゃないと思っている。
　根拠のない勘だが。

　近づいてくるにつれて細かいところまで見えてきた。

　ゲームなんかでよくあるような、複数の【ゾンビ】が集まってできているタイプだ。

　ああいうのって、どうやって動いているのか少し気になってる。

　目鼻口の部分は空洞みたいになっており、何の為に作られ、徘徊してるのか。
　その推測すら難しい。

　一応は人型であるが、歩くときに足が上がっておらず。引きずって進んでいる。

　動きはそれほど早くないものの、大きさが大きさな為に１歩がでかく、逃げられるかどうかは微妙なところだろう。

　加えて今はただ徘徊しているだけである。
　排除する対象を見つけた時、動きが変わる可能性もないとはいいきれない。

　…………。
　観察するだけといった約束だが、ちょっかいをかけたい気持ちが出てきてしまった。

　大きさが大きさなため、もしかしたら薫にまで被害がいくもしれないが……。

　いや、流石にやめておくか。
　あれの相手をするのは銃なんかの強い武器なり、強い【異能】がなければ厳しいだろう。

　考え込んでいるうちに近くまで迫っていた。

　そもそも空洞の目で見えているのか気になるところだが、念のために顔を引っ込め、過ぎていくのを待つ。

　近くを通り過ぎる時。
　存在感というか、プレッシャーのようなものを感じた気がした。

　けれど薫のようになるまで精神が揺さぶられる程ではない。
　あの時の様子はどこか切羽詰まったみたいだった。

　……こいつが原因ではない？

　もしかしてまだ、何かあるのか？