望む世界

不思議ちゃん

文字の大きさ
上 下
61 / 91
◾︎が◾︎◾︎◾︎◾︎

何かやばい

しおりを挟む
 【ゾンビ犬】の速さは【地雷型変異種】と同等かそれ以上にあり。
 速いだけなら『人型』よりやり難いだけで、そこまで手こずる相手ではない。

 何が厄介なのかといえば、未来を見ている薫の攻撃を避けている点だろう。
 完全ではないが、少なくとも致命傷を貰ってはいない。

 動物としての本能……直感が働いているのか、それとも別の要因があるのか。

 ──ヴゥゥゥゥッ

 俺に向かってきた大型犬はすぐに飛びかかって来ることはなく。
 警戒したような声を出しながら一定の距離から近づいてこない。

「……はぁ」

 視界の端では薫が左前足を切り落としたのが見える。

 足が万全の状態で保たれていた均衡だ。
 すぐに倒して、こちらに来るだろう。

 何故、こいつが襲いかかってこないのか分からないが、このまま睨めっこをしていても終わらない。

 壊れかけの鉈はずっと持っていても仕方ないため、こいつで使い潰してもいいか。

 呼吸を整え、上体を少し前に倒しながら走り出せば。
 それを待っていたとばかりに【ゾンビ犬】は俺の右手側へと回り込み、飛びかかって来る。

 体を捻りながら左手に持つ鉈を振るえば、噛み付こうと伸ばされた首を落とし。
 頭のなくなった胴体は俺の横を通り、地面へ横たわっている。

「…………へ?」

 思わず間抜けな声が出てしまったが、脳の理解も追いついていない。

 薫の方を見てみれば、トンカチで頭を砕いているところだった。

 未来が見えてる薫が手こずっているのに、俺は歯ごたえが何もない。
 消化不良よりも、よく分からない気持ち悪さが胸の辺りにある。

「おにーさん。考えるのは後にして早くここを離れよう」

 気付けば荷物をまとめた薫が側におり、手には俺の荷物が握られていた。

「何かやばいのが近づいてる」
「戦いたくないの?」
「……今はそんな気分になれない」

 よく分からないが、薫のテンションが低い。

 俺が荷物を受け取れば、さっさと先へ行こうとする薫の姿がある。

 …………。
 薫の言う『何かやばい』とやらに興味がある。

「おにーさんっ!」

 後をついてこない俺に気づき、その意図まで分かったであろう薫は焦った声を出し、駆け寄って来る。

「お願いだから早く行こう!」

 俺としてもいきなり戦うつもりはない。
 どこかに隠れて様子を伺う。

 それを伝えても不安そうなため、薫は別の建物の中に移動して一切姿を現さないという条件で納得してもらい。

 俺はマンションのベランダから観察させてもらうとしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

401号室

ツヨシ
ホラー
その部屋は人が死ぬ

AstiMaitrise

椎奈ゆい
ホラー
少女が立ち向かうのは呪いか、大衆か、支配者か______ ”学校の西門を通った者は祟りに遭う” 20年前の事件をきっかけに始まった祟りの噂。壇ノ浦学園では西門を通るのを固く禁じる”掟”の元、生徒会が厳しく取り締まっていた。 そんな中、転校生の平等院霊否は偶然にも掟を破ってしまう。 祟りの真相と学園の謎を解き明かすべく、霊否たちの戦いが始まる———!

怨念板

コメディアンホラーニシヤマ
ホラー
怨念板それは死霊などが集まってできた動く板。

無名の電話

愛原有子
ホラー
このお話は意味がわかると怖い話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

追っかけ

山吹
ホラー
小説を書いてみよう!という流れになって友達にどんなジャンルにしたらいいか聞いたらホラーがいいと言われたので生まれた作品です。ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。

殉哀

にゅるにゅる
ホラー
間違いではないが正しくもない恋愛のしかた。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...