望む世界

不思議ちゃん

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終わらない始まり

そういうこと

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「……別れの挨拶でもする仲じゃないだろ」

 建物から出たところで東郷が壁に寄りかかり、立っていた。

「何も言う気は無い。『探索』は1人でも生きていけると分かってる」
「そう」

 少し離れたところで、早くしろよといった雰囲気を隠そうとしない薫がこちらを見て不満そうにしている。

 ほんと、どうして東郷がここにいるのか意図が全然分からないが、話がないのならもう行ってもいいよな。

 創作物によくある意思疎通なんて現実じゃ無理に決まってる。
 あっても前提として共闘で強い敵と戦うってのがあるはず。

 そんな事してないし、そもそも興味ない。
 例外はいるが、その人と会える確率はどんなものだか。

 ただ、時間の無駄だったな。

「何話してたの?」
「知らん」
「時間の無駄だったね」
「全くだ」

 薫はどこか似てる部分があるのか、楽ではあるが。
 意図も大体はきちんと伝わるし。

「見つけた【ゾンビ】はもらってもいい?」
「あまり派手にやらかさなければ好きにしていい」
「彼処にいても建物の中でずっと暇してたからさ。おにーさんが来てくれてすごく嬉しいよ」
「武器の消耗は最小限に抑えておけよ」
「分かってる分かってる。私としてはやれたら十分だから」

 ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべながら持ってたナイフを鞘にしまい、トンカチを器用に回し始める。

「遊びすぎて疲れたとか言っても置いてくからな」
「たぶん、おにーさんより持久力あるよ?」
「それも含めて言っている」
「……あー、自信ないかも」

 まあ、そうなる頃には俺も休憩を挟んでると思うが、それを言う必要はないだろう。

 出てから10分ほど歩いているが、【ゾンビ】の影すらない。

 【変異種】が連れてた【ゾンビ】はここらのを集めたやつだったのか。
 そこらを知ることはできない。

 【変異種】の叫びによって起こる変化も期待してるのだ。
 つまらない事はしないで欲しい。

「おにーさんの名前、いつ教えてくれる?」
「別に呼び方なんていまのままでいいだろ」
「んー、一応、聞いておきたくて」

 その『一応』にどれだけの気持ちが込められてるのか。

 その片鱗を感じ取った気がした。

「……不動うごかずあゆむ
「…………」
「教えてと言ったのはそっちだぞ」
「まさか今、教えてくれるなんて」

 素直に教えたのが意外なのか、隠す事なく驚いた顔で俺を見てくる。

「あの時、名前言わなかったのは気に入らなかったからだ。ただの子供っぽい理由だよ」
「ってことは私のこと、気に入ってくれてるんだ?」
「……じゃなきゃ連れてかないだろ」
「んふふ──いたっ」

 イラッときたので頭を軽く叩いた。
 避けなかったってことは、そういうことだろう。
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