43 / 51
四十三輪目
しおりを挟む
「あれ? 朝、車で行ったっけ?」
「ううん。もう日も暮れてきたからこっちの方が安全だと思って」
マンションを出て、すぐ近くにいるという場所へ向かえば。
そこには車に乗った夏月さんの姿が。
仕事場が近くの時は車じゃなく公共機関を使うと聞いていて、今日は近場だから車は乗っていかなかったと記憶していたけども。
助手席に座り、話を聞いてみればわざわざ一度家に帰って、車で迎えに来てくれたっぽい。
「ありがとね」
「私が好きでしてることだから」
これまでも買い物に行く時など何度かこうして乗せてもらっているが、未だに慣れない。
頻度が少ないというのもあるけど、このシチュエーションが自分にブッ刺さる。
俺は車に興味が微塵も湧かず、特に必要性も感じていないので免許は取っていないため。
逆のパターンは永遠に来ないのだが。
「家帰ってからご飯作り始めることになるから、遅い時間になるし……どこか食べに行く?」
「んー、今日は遅くなっても優君のご飯が食べたい気分!」
「なるべく早く作るよう頑張るよ」
手料理が食べたいと言ってくれるのは嬉しいが、早く作れるものとなると今の自分じゃだいぶ限られてくる。
野菜炒めかチャーハンか。
昼と一緒になるけど麺類もあるな。
どうするか迷っているうちに、あと五分とかからず家に着いてしまう。
もともと一駅隣と大して距離もないため、仕方ないと言えば仕方ない。
冷蔵庫の中を見てパッと閃いたものを作ろう。
昼と似通った感じになってしまったが、夕食のメニューにはカルボナーラとコンソメスープ、簡単なサラダを。
ペペロンチーノとかスパゲッティの方がもっと早くできたが、カルボナーラがふと食べたくなってしまったのだ。
夏月さんは大変満足した様子であったが、それは夕食のメニューが良かったというよりも俺が作ったからだと思ったのは自意識過剰だろうか。
「あ、夏月さん。こっち」
「えぅ?」
食事も済み、風呂も食べる前に入っている。
いつでも寝られるよう皿の片付けや洗濯物など、夏月さんと二人でさっさと終わらせたはいいが、寝るにはまだ早い時間。
『あ、優君に渡したいものがあるんだ』
と口にして渡したいものとやらを取りに行き、戻ってきた夏月さんが隣に座ろうとするのを止め。
自身の股の間に座らせ、後ろから腰に手を回して抱き締める。
「え、あ、ゆ、優君? んふっ……んんっ、コホン」
普段こういったことをそんなにしないからか、驚きと照れでテンパっているのが伝わってくる。
かくいう俺もそれほど余裕があるわけでは無い。
同じシャンプーやボディーソープを使っているはずなのに、なぜ夏月さんからはこんなにもいい匂いが香ってくるのだろうか。
「えへ、えへへ。優君、今日は甘えん坊さんな気分なのかな」
「うん、そうかも。……ごめんね、疲れてるのに」
「全然! もっとしてくれてもいいんだよ? ……ゆ、優君が嫌じゃなければ私からもしていい、かな?」
「大丈夫だよ」
「ふへっ……ん、明日からのやる気も出てきた!」
むんっ、とやる気を出している可愛らしい夏月さんだが。
ふと、手に持っている紙に目がついた。
「夏月さん、それは?」
「あ、そうだった。これ、優君に」
力を込めて持っていたからか、少しシワのできている紙を受け取って見てみれば。
「え、これって」
「そう、関係者用のチケット。優君にも生で見て欲しくて、話したら貰えたの」
それは六月末の土日に行われるライブのチケットであった。
嬉しいと思う反面、なんだかズルいようにも思えてしまう。
「ありがとう。楽しみにしてるね」
でも、俺に見て欲しくて夏月さんがしてくれたことなのだ。
抱く後ろめたさなど些細なことである。
☆☆☆
二週間が経ち、六月も半ば。
『Hōrai』のライブまで残り二週間となったのだが。
『月居秋凛、医師より適応障害の診断を受け、一定期間活動休止』
ふと目に止まったネットニュースに、このような事が書かれていた。
「ううん。もう日も暮れてきたからこっちの方が安全だと思って」
マンションを出て、すぐ近くにいるという場所へ向かえば。
そこには車に乗った夏月さんの姿が。
仕事場が近くの時は車じゃなく公共機関を使うと聞いていて、今日は近場だから車は乗っていかなかったと記憶していたけども。
助手席に座り、話を聞いてみればわざわざ一度家に帰って、車で迎えに来てくれたっぽい。
「ありがとね」
「私が好きでしてることだから」
これまでも買い物に行く時など何度かこうして乗せてもらっているが、未だに慣れない。
頻度が少ないというのもあるけど、このシチュエーションが自分にブッ刺さる。
俺は車に興味が微塵も湧かず、特に必要性も感じていないので免許は取っていないため。
逆のパターンは永遠に来ないのだが。
「家帰ってからご飯作り始めることになるから、遅い時間になるし……どこか食べに行く?」
「んー、今日は遅くなっても優君のご飯が食べたい気分!」
「なるべく早く作るよう頑張るよ」
手料理が食べたいと言ってくれるのは嬉しいが、早く作れるものとなると今の自分じゃだいぶ限られてくる。
野菜炒めかチャーハンか。
昼と一緒になるけど麺類もあるな。
どうするか迷っているうちに、あと五分とかからず家に着いてしまう。
もともと一駅隣と大して距離もないため、仕方ないと言えば仕方ない。
冷蔵庫の中を見てパッと閃いたものを作ろう。
昼と似通った感じになってしまったが、夕食のメニューにはカルボナーラとコンソメスープ、簡単なサラダを。
ペペロンチーノとかスパゲッティの方がもっと早くできたが、カルボナーラがふと食べたくなってしまったのだ。
夏月さんは大変満足した様子であったが、それは夕食のメニューが良かったというよりも俺が作ったからだと思ったのは自意識過剰だろうか。
「あ、夏月さん。こっち」
「えぅ?」
食事も済み、風呂も食べる前に入っている。
いつでも寝られるよう皿の片付けや洗濯物など、夏月さんと二人でさっさと終わらせたはいいが、寝るにはまだ早い時間。
『あ、優君に渡したいものがあるんだ』
と口にして渡したいものとやらを取りに行き、戻ってきた夏月さんが隣に座ろうとするのを止め。
自身の股の間に座らせ、後ろから腰に手を回して抱き締める。
「え、あ、ゆ、優君? んふっ……んんっ、コホン」
普段こういったことをそんなにしないからか、驚きと照れでテンパっているのが伝わってくる。
かくいう俺もそれほど余裕があるわけでは無い。
同じシャンプーやボディーソープを使っているはずなのに、なぜ夏月さんからはこんなにもいい匂いが香ってくるのだろうか。
「えへ、えへへ。優君、今日は甘えん坊さんな気分なのかな」
「うん、そうかも。……ごめんね、疲れてるのに」
「全然! もっとしてくれてもいいんだよ? ……ゆ、優君が嫌じゃなければ私からもしていい、かな?」
「大丈夫だよ」
「ふへっ……ん、明日からのやる気も出てきた!」
むんっ、とやる気を出している可愛らしい夏月さんだが。
ふと、手に持っている紙に目がついた。
「夏月さん、それは?」
「あ、そうだった。これ、優君に」
力を込めて持っていたからか、少しシワのできている紙を受け取って見てみれば。
「え、これって」
「そう、関係者用のチケット。優君にも生で見て欲しくて、話したら貰えたの」
それは六月末の土日に行われるライブのチケットであった。
嬉しいと思う反面、なんだかズルいようにも思えてしまう。
「ありがとう。楽しみにしてるね」
でも、俺に見て欲しくて夏月さんがしてくれたことなのだ。
抱く後ろめたさなど些細なことである。
☆☆☆
二週間が経ち、六月も半ば。
『Hōrai』のライブまで残り二週間となったのだが。
『月居秋凛、医師より適応障害の診断を受け、一定期間活動休止』
ふと目に止まったネットニュースに、このような事が書かれていた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
男女比1対99の世界で引き篭もります!
夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公!
前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!!
偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~
いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。
橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。
互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。
そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。
手段を問わず彼を幸せにすること。
その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく!
選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない!
真のハーレムストーリー開幕!
この作品はカクヨム等でも公開しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる