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四十輪目
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エントランスで月居さんと会い、驚いたものの用があると伝えたら。
「……あ、上がっていく?」
とお声がけを頂いたので現在、月居さんの家にお邪魔しているのだが。
飲み物の用意をしてくれている月居さんを見る限り、体調が悪いようには見えない。
夏月さんが嘘を言っていたとも思えないので、たぶん月居さんが仮病を使ったのだろうと思うけど……。
「お待たせー」
「ありがとうございます」
いただいた飲み物を一口飲み、さてどうするかと悩む。
夏月さんとお付き合いしているとはいえ、月居さんからしてみれば俺はグループメンバーの恋人ってだけで何かしら関わりがあるわけでもない。
誕生会の時に会って話した程度である。
聞いた通りただの体調不良であったなら看病して終わりなのだが、今回は意外とデリケートな問題のような気もする。
「優くん……でいいのかな?」
「あ、はい。お好きに呼んでいただけたら」
「それなら優ちゃん、かな。私のことも秋凛でいいよ」
ちゃん付けで呼ばれるなんて中学入るくらいまで、それも母親だけであったので変な感じがする。
好きに呼んでと言った手前、諦めて受け入れるしか無いけど。
「今日はどうしたの?」
「あー、その、つきお……しゅ、秋凛さんが病欠だから見舞いに行ってほしいと夏月さんに頼まれまして」
「あ、そっか……」
口にこそ出していないが、その表情が"やらかした"となによりも語っていた。
俺も馬鹿正直に答えるべきでは無いのは分かっていたが、他にいい答えがあったわけでもないので仕方がない。
「その、ね」
そう口にして俺から視線を外し、しばらく指をモジモジと弄っていたが。
一つ息を吐き、どこか懺悔しているような雰囲気を感じさせながら話し始めた。
「…………褒められたことじゃないんだけど、何だかちょっと、仕事に行きたくなくて」
「なら別に、行かなくてもいいと俺は思いますけど」
「…………へ?」
別に話さなくてもよかったのに、わざわざ理由を話してくれたので俺も思ったことをそのまま口にする。
「そういった理由で休むのは悪いみたいな感じですけど、それで無理して鬱になるよりはいいんじゃないですかね」
「私、別に鬱とかじゃないよ?」
「なってからじゃ遅いって話ですよ。初期なんてみんなそんなもんです。……あ、食材持ってきたんで台所借りますね」
「あ、うん」
買ってきたもの、ずっと外に出しっぱなしであった。
それほど時間が経っていたわけでもないし、痛みやすいものもない。
今日の気温もそれほど高くないので火を通せば大丈夫だろう。
おにぎりとパンはテーブルの上に出し、食材を持って台所へ。
「……………………」
うっ、俺は何故あんなにもクールぶった感じで偉そうに話したのだろう。
後悔と恥ずかしさで声を上げながら床を転げたいが、自分の家でないのでそれは叶わず。
なんならそれを行えば月居さんに見られ、更なる恥の上塗りをする羽目に。
それによく考えれば今、俺は月居さんの家にお邪魔しているんだよな……。
夏月さんで感覚がだいぶ狂っている気がする。
いや、まあ、いまだにふとした時それを思い出して胸が幸せでいっぱいになるのだが。
それだけじゃ足らず、夏月さんをギュッと抱きしめたりもしているのだが。
あー、幸せすぎる。
「つき……秋凛さんはアレルギーとか苦手な食べ物ありますか?」
「特にないかなー? 優ちゃんはこれから何作ってくれるの?」
「うどんと、簡単なスープでも。足りなかったらさっきテーブルに出したおにぎりやパンを食べる、みたいな」
「何か手伝う事あるかな?」
「一人で大丈夫なので、ゆっくりしててください」
自分から会話を振ったりするのが苦手なコミュ障であるため、あまり知らない人と二人きりになるのは遠慮したい。
高瀬さん、夏月さん、樋之口さんは向こうから話題を振ってくれるのでとても助かっているのだが。
秋凛さんはどちらかといえば会話は受け身な感じがする。
男であるのならばまだ大丈夫なのだが、女性相手はちょっと……。
なので手伝いは遠慮したのだが。
「…………」
「…………」
「…………」
リビングへと戻らず、秋凛さんはすぐそばでジッと俺の作業を見ている。
…………夏月さん、助けて。
「……あ、上がっていく?」
とお声がけを頂いたので現在、月居さんの家にお邪魔しているのだが。
飲み物の用意をしてくれている月居さんを見る限り、体調が悪いようには見えない。
夏月さんが嘘を言っていたとも思えないので、たぶん月居さんが仮病を使ったのだろうと思うけど……。
「お待たせー」
「ありがとうございます」
いただいた飲み物を一口飲み、さてどうするかと悩む。
夏月さんとお付き合いしているとはいえ、月居さんからしてみれば俺はグループメンバーの恋人ってだけで何かしら関わりがあるわけでもない。
誕生会の時に会って話した程度である。
聞いた通りただの体調不良であったなら看病して終わりなのだが、今回は意外とデリケートな問題のような気もする。
「優くん……でいいのかな?」
「あ、はい。お好きに呼んでいただけたら」
「それなら優ちゃん、かな。私のことも秋凛でいいよ」
ちゃん付けで呼ばれるなんて中学入るくらいまで、それも母親だけであったので変な感じがする。
好きに呼んでと言った手前、諦めて受け入れるしか無いけど。
「今日はどうしたの?」
「あー、その、つきお……しゅ、秋凛さんが病欠だから見舞いに行ってほしいと夏月さんに頼まれまして」
「あ、そっか……」
口にこそ出していないが、その表情が"やらかした"となによりも語っていた。
俺も馬鹿正直に答えるべきでは無いのは分かっていたが、他にいい答えがあったわけでもないので仕方がない。
「その、ね」
そう口にして俺から視線を外し、しばらく指をモジモジと弄っていたが。
一つ息を吐き、どこか懺悔しているような雰囲気を感じさせながら話し始めた。
「…………褒められたことじゃないんだけど、何だかちょっと、仕事に行きたくなくて」
「なら別に、行かなくてもいいと俺は思いますけど」
「…………へ?」
別に話さなくてもよかったのに、わざわざ理由を話してくれたので俺も思ったことをそのまま口にする。
「そういった理由で休むのは悪いみたいな感じですけど、それで無理して鬱になるよりはいいんじゃないですかね」
「私、別に鬱とかじゃないよ?」
「なってからじゃ遅いって話ですよ。初期なんてみんなそんなもんです。……あ、食材持ってきたんで台所借りますね」
「あ、うん」
買ってきたもの、ずっと外に出しっぱなしであった。
それほど時間が経っていたわけでもないし、痛みやすいものもない。
今日の気温もそれほど高くないので火を通せば大丈夫だろう。
おにぎりとパンはテーブルの上に出し、食材を持って台所へ。
「……………………」
うっ、俺は何故あんなにもクールぶった感じで偉そうに話したのだろう。
後悔と恥ずかしさで声を上げながら床を転げたいが、自分の家でないのでそれは叶わず。
なんならそれを行えば月居さんに見られ、更なる恥の上塗りをする羽目に。
それによく考えれば今、俺は月居さんの家にお邪魔しているんだよな……。
夏月さんで感覚がだいぶ狂っている気がする。
いや、まあ、いまだにふとした時それを思い出して胸が幸せでいっぱいになるのだが。
それだけじゃ足らず、夏月さんをギュッと抱きしめたりもしているのだが。
あー、幸せすぎる。
「つき……秋凛さんはアレルギーとか苦手な食べ物ありますか?」
「特にないかなー? 優ちゃんはこれから何作ってくれるの?」
「うどんと、簡単なスープでも。足りなかったらさっきテーブルに出したおにぎりやパンを食べる、みたいな」
「何か手伝う事あるかな?」
「一人で大丈夫なので、ゆっくりしててください」
自分から会話を振ったりするのが苦手なコミュ障であるため、あまり知らない人と二人きりになるのは遠慮したい。
高瀬さん、夏月さん、樋之口さんは向こうから話題を振ってくれるのでとても助かっているのだが。
秋凛さんはどちらかといえば会話は受け身な感じがする。
男であるのならばまだ大丈夫なのだが、女性相手はちょっと……。
なので手伝いは遠慮したのだが。
「…………」
「…………」
「…………」
リビングへと戻らず、秋凛さんはすぐそばでジッと俺の作業を見ている。
…………夏月さん、助けて。
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