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三十八輪目
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「そう言えば今日、夏月さんの帰り遅いんだっけ……」
その後も月居さんについての話は無いまま金曜日を迎え。
本日の仕事を終えて夕食を作ったのはいいが、夏月さんから『遅くなるから先に食べてて!』と連絡が来ていたのを思い出した。
個人的な意見だが、自分で作った料理を一人で食べるものほど不味いものはないと思っている。
夏月さんと同棲始める前までも自炊は最低限で、大半は買ってきたものだったり。
たまにアレンジ加えたりとかだったし。
物欲というものが他の人よりも無いため、エンゲル係数が多少高くなろうと問題は無かった。
夏月さんが帰ってくるまでまだ時間があるし、暇を潰すため取り敢えずテレビをつける。
価値観が変わる前と多少の違いはあるものの、見覚えのある番組ばかりであるが、男性の出演者が殆どいない。
チャンネルを回せば男性の居る番組もあるが、席が女性と少し離れてたりする。
そういえば、ふと男性アイドルグループはどうなっているのだろうかと思い、スマホで調べてみたが。
存在しているものの人はそれほど多くなく。
俺が言えたことでは無いが、顔面偏差値も価値観の変わる前より低い気がした。
これなら俺でも入れると思うのは自意識過剰だろうか。
新しくデビューするが、一ヶ月後には引退。
って流れも多く、女性に対する免疫がある男性の少なさがよく分かる。
まあ、種があんな値段するんだもの。
無理に表出てまで働く必要性は無いよね。
長く続いているのはすごい女好きか、種が無くて働くしかないのか。
あれ、繁殖能力が無いと分かると女性から見向きされないんだっけ……?
まあ、アイドルなんて顔が良ければどうとでもなるか。
特に価値観の変わったこの世界なら尚更。
もしかしたら種無しってのを隠してる人もいるかもしれないし。
今まで特に気にも留めてこなかったことだが、こうして少し意識してみるだけで随分と世界は面白いことになっている。
過去の偉人を調べるだけで満足してたのが勿体ない。
「……ん、…………くん?」
「ん…………」
声を掛けられながら体を揺さぶられ、目を開ければ目の前には夏月さんの姿が。
「あれ、おかえり」
「ただいま……じゃなくて! こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」
「あー……」
どうやらいつの間にやら寝落ちしていたようで。
壁にかけられた時計に目をやれば、二十三時になろうとしていた。
「どっか体調悪い?」
「いや、夏月さんの帰り待ってたら寝落ちしてた。ご飯にする? それともお風呂?」
固まった体を伸ばしながら聞いてみたが、個人的にはお風呂入ってもらってる間にご飯の温め直しをしたいところ。
だというのに、夏月さんから返事がなく。
どうしたのかと見てみれば、何か言葉の続きを待っているようであった。
「夏月さん?」
「うぇっ!? えっ、あ、うん、それじゃお風呂からにしようかな!」
顔を赤くさせ、どこか照れているようだったが……何だったんだろう。
風呂場に向かう夏月さんの背を見ていても分からなかったが、作ったものの温め直しをしている時。
「あ」
ふと、思い当たる節が。
もしかして『ご飯にする、お風呂にする、それとも私?』という事では無いだろうか。
そう思うとこれが正解に思えてくる。
したいと思ってくれているのは嬉しいといえば嬉しいのだが、あのセリフを言うのは恥ずかしい。
それに俺は明日休みでも夏月さんはそうじゃないため、夜も遅いしどのみち無しだ。
食事の準備を終えたところで夏月さんも風呂から出てきたけれど、何だかいつもより少し長く入っていたような。
「あれ、優君も今からご飯?」
「うん」
「遅くなるから先に食べてって連絡したのに」
「一人じゃなくて夏月さんと一緒に食べたかったからさ。外で済ませてくるなら先に食べてたけど」
そしたらきっと、コンビニでおにぎりとかカップ麺買って済ませるんだろうな。
なんて思っていたら急に夏月さんが抱きついてきた。
「いまの優君、すっごく女の人を殺しにかかってきてたよ」
「え、殺し……?」
「私、いますぐ子供が欲しい気持ちになっちゃった」
「や、あの、それは俺としても嬉しいけど、やっぱりライブを楽しみにしてる人たちもたくさんいるし、ね?」
「……うん、あと一年我慢する」
殺しにかかるって、物理的じゃなくそういった意味ね。
ちょっとした言葉でも違った意味に取られかねないと思うと、下手な発言ができない気もするが。
そんな事を気にしてすれ違ったりするのも嫌だし、これも良いものだと思うことに。
未だギュッと抱きついてくる夏月さんに愛おしさを抱き、俺からもギュッと抱きしめ返す。
「……んっ」
「夏月さん?」
「ううん。大丈夫」
小さな声を漏らし、少し身体を震わせてる気がするけど。
大丈夫だというなら大丈夫だろう。
その後も月居さんについての話は無いまま金曜日を迎え。
本日の仕事を終えて夕食を作ったのはいいが、夏月さんから『遅くなるから先に食べてて!』と連絡が来ていたのを思い出した。
個人的な意見だが、自分で作った料理を一人で食べるものほど不味いものはないと思っている。
夏月さんと同棲始める前までも自炊は最低限で、大半は買ってきたものだったり。
たまにアレンジ加えたりとかだったし。
物欲というものが他の人よりも無いため、エンゲル係数が多少高くなろうと問題は無かった。
夏月さんが帰ってくるまでまだ時間があるし、暇を潰すため取り敢えずテレビをつける。
価値観が変わる前と多少の違いはあるものの、見覚えのある番組ばかりであるが、男性の出演者が殆どいない。
チャンネルを回せば男性の居る番組もあるが、席が女性と少し離れてたりする。
そういえば、ふと男性アイドルグループはどうなっているのだろうかと思い、スマホで調べてみたが。
存在しているものの人はそれほど多くなく。
俺が言えたことでは無いが、顔面偏差値も価値観の変わる前より低い気がした。
これなら俺でも入れると思うのは自意識過剰だろうか。
新しくデビューするが、一ヶ月後には引退。
って流れも多く、女性に対する免疫がある男性の少なさがよく分かる。
まあ、種があんな値段するんだもの。
無理に表出てまで働く必要性は無いよね。
長く続いているのはすごい女好きか、種が無くて働くしかないのか。
あれ、繁殖能力が無いと分かると女性から見向きされないんだっけ……?
まあ、アイドルなんて顔が良ければどうとでもなるか。
特に価値観の変わったこの世界なら尚更。
もしかしたら種無しってのを隠してる人もいるかもしれないし。
今まで特に気にも留めてこなかったことだが、こうして少し意識してみるだけで随分と世界は面白いことになっている。
過去の偉人を調べるだけで満足してたのが勿体ない。
「……ん、…………くん?」
「ん…………」
声を掛けられながら体を揺さぶられ、目を開ければ目の前には夏月さんの姿が。
「あれ、おかえり」
「ただいま……じゃなくて! こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」
「あー……」
どうやらいつの間にやら寝落ちしていたようで。
壁にかけられた時計に目をやれば、二十三時になろうとしていた。
「どっか体調悪い?」
「いや、夏月さんの帰り待ってたら寝落ちしてた。ご飯にする? それともお風呂?」
固まった体を伸ばしながら聞いてみたが、個人的にはお風呂入ってもらってる間にご飯の温め直しをしたいところ。
だというのに、夏月さんから返事がなく。
どうしたのかと見てみれば、何か言葉の続きを待っているようであった。
「夏月さん?」
「うぇっ!? えっ、あ、うん、それじゃお風呂からにしようかな!」
顔を赤くさせ、どこか照れているようだったが……何だったんだろう。
風呂場に向かう夏月さんの背を見ていても分からなかったが、作ったものの温め直しをしている時。
「あ」
ふと、思い当たる節が。
もしかして『ご飯にする、お風呂にする、それとも私?』という事では無いだろうか。
そう思うとこれが正解に思えてくる。
したいと思ってくれているのは嬉しいといえば嬉しいのだが、あのセリフを言うのは恥ずかしい。
それに俺は明日休みでも夏月さんはそうじゃないため、夜も遅いしどのみち無しだ。
食事の準備を終えたところで夏月さんも風呂から出てきたけれど、何だかいつもより少し長く入っていたような。
「あれ、優君も今からご飯?」
「うん」
「遅くなるから先に食べてって連絡したのに」
「一人じゃなくて夏月さんと一緒に食べたかったからさ。外で済ませてくるなら先に食べてたけど」
そしたらきっと、コンビニでおにぎりとかカップ麺買って済ませるんだろうな。
なんて思っていたら急に夏月さんが抱きついてきた。
「いまの優君、すっごく女の人を殺しにかかってきてたよ」
「え、殺し……?」
「私、いますぐ子供が欲しい気持ちになっちゃった」
「や、あの、それは俺としても嬉しいけど、やっぱりライブを楽しみにしてる人たちもたくさんいるし、ね?」
「……うん、あと一年我慢する」
殺しにかかるって、物理的じゃなくそういった意味ね。
ちょっとした言葉でも違った意味に取られかねないと思うと、下手な発言ができない気もするが。
そんな事を気にしてすれ違ったりするのも嫌だし、これも良いものだと思うことに。
未だギュッと抱きついてくる夏月さんに愛おしさを抱き、俺からもギュッと抱きしめ返す。
「……んっ」
「夏月さん?」
「ううん。大丈夫」
小さな声を漏らし、少し身体を震わせてる気がするけど。
大丈夫だというなら大丈夫だろう。
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