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三十一輪目
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樋之口さんが何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
一度落ち着くためというか、自分のペースを戻すためというか。
飲み物でも飲んで、間を入れたはいいものの。
その様子を何も言わずに見てくる樋之口さん。
メンバーの中で夏月さんと高瀬さんがツートップの最推しであるのは確かだが。
基本的に箱推しの優柔不断な俺であるため、当然、樋之口さんも推しである。
だから……こう、なんと表現したらいいか分からない感覚に陥りつつあった。
このまま時間をかければ流してくれるのではと少し期待していなくも無いが、男女間でこの話題をぶっ込んできたという事はその可能性も低いだろう。
肌と肌を重ねるのは男女で同棲しているのだからまあ分かりそうなものだが、まさか夜明けまでしていたことを当てられるとは──。
「…………盗撮?」
「そんな事しないわよ」
思わず漏れてしまった呟きだが、しっかりと聞かれていたようで。
特に慌てることが無いのは盗撮していてもバレない自信があるからなのか、はたまた本当にしていないのか。
「シーツなんかが洗濯されて外に干してあって、寝室の方から消臭剤の匂いがしたらそんなもんだって気付くでしょ?」
「えっ……じゃあ、高瀬さんや月居さんにも?」
「あの二人が気付くわけないじゃない」
「そんなもんですかね」
「そんなもんよ」
樋之口さんに知られていたってのも衝撃的だが、あの誕生日会にいた全員に夏月さんとの情事を知られていたと思ったら居た堪れない。
…………で。
樋之口さんは今日、何の用で来たのだろう。
まさかこの話をするためだけ……?
今更だが、俺と夏月さんが致してるのを知ってるぞ、と話はされたが。
果たしてあれは質問だったのだろうか。
「それで、どうなのかしら」
「どう……とは?」
「私は三番目だろうと、文句は無いわよ?」
「三番目……?」
急に何の話だろうか。
話題が変わったのは何となく分かる。
けどそれについて行けていないため、オウム返ししか出来ていない。
「えっと……すみません、何の話でしょう……」
「何って言われても──あっ」
正直に分からないと告げ、何の話をしているのか教えてもらおうと思ったのだが。
何かに気付いた様子の樋之口さんは急に黙ってしまった。
……いや、何か呟いているようだが、声が小さ過ぎて聞き取れない。
一言、『遠回しに断られてる』とか聞こえた気がしたが、俺は一体何を断ったのだろう……?
「あの……」
「ねえ、優くん」
「あ、はい」
互いに齟齬があるような気がして、認識のすり合わせをしようと思ったのだが。
それよりも樋之口さんの方が早かった。
「なんなら私、愛人でもいいけど?」
「…………」
「…………」
「…………」
一度落ち着くためというか、自分のペースを戻すためというか。
飲み物でも飲んで、間を入れたはいいものの。
その様子を何も言わずに見てくる樋之口さん。
メンバーの中で夏月さんと高瀬さんがツートップの最推しであるのは確かだが。
基本的に箱推しの優柔不断な俺であるため、当然、樋之口さんも推しである。
だから……こう、なんと表現したらいいか分からない感覚に陥りつつあった。
このまま時間をかければ流してくれるのではと少し期待していなくも無いが、男女間でこの話題をぶっ込んできたという事はその可能性も低いだろう。
肌と肌を重ねるのは男女で同棲しているのだからまあ分かりそうなものだが、まさか夜明けまでしていたことを当てられるとは──。
「…………盗撮?」
「そんな事しないわよ」
思わず漏れてしまった呟きだが、しっかりと聞かれていたようで。
特に慌てることが無いのは盗撮していてもバレない自信があるからなのか、はたまた本当にしていないのか。
「シーツなんかが洗濯されて外に干してあって、寝室の方から消臭剤の匂いがしたらそんなもんだって気付くでしょ?」
「えっ……じゃあ、高瀬さんや月居さんにも?」
「あの二人が気付くわけないじゃない」
「そんなもんですかね」
「そんなもんよ」
樋之口さんに知られていたってのも衝撃的だが、あの誕生日会にいた全員に夏月さんとの情事を知られていたと思ったら居た堪れない。
…………で。
樋之口さんは今日、何の用で来たのだろう。
まさかこの話をするためだけ……?
今更だが、俺と夏月さんが致してるのを知ってるぞ、と話はされたが。
果たしてあれは質問だったのだろうか。
「それで、どうなのかしら」
「どう……とは?」
「私は三番目だろうと、文句は無いわよ?」
「三番目……?」
急に何の話だろうか。
話題が変わったのは何となく分かる。
けどそれについて行けていないため、オウム返ししか出来ていない。
「えっと……すみません、何の話でしょう……」
「何って言われても──あっ」
正直に分からないと告げ、何の話をしているのか教えてもらおうと思ったのだが。
何かに気付いた様子の樋之口さんは急に黙ってしまった。
……いや、何か呟いているようだが、声が小さ過ぎて聞き取れない。
一言、『遠回しに断られてる』とか聞こえた気がしたが、俺は一体何を断ったのだろう……?
「あの……」
「ねえ、優くん」
「あ、はい」
互いに齟齬があるような気がして、認識のすり合わせをしようと思ったのだが。
それよりも樋之口さんの方が早かった。
「なんなら私、愛人でもいいけど?」
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