30 / 51
三十輪目
しおりを挟む
夏月さんの誕生日会をしてから早くも一週間が経った。
土日祝日が完全に休みな俺とは違い、夏月さんは職業的にそうではなく。
「…………なーにしよっかな」
本日は家に俺一人という状況である。
思わず独り言も漏れてしまう。
今朝、仕事に向かう夏月さんを玄関で見送る時。
靴を履いたところで行きたくないと駄々をこね、仕事を休むと言い始めたのには驚いた。
まさか、いってらっしゃいのキスをする事になるとは。
嬉しいのだが、やはり恥ずかしさもそれなりにある。
夏月さんがとても嬉しそうにしながら仕事に向かったのはいいけど、雰囲気的に毎日やる感じだな……。
これまで休みの日も一緒にいれたのはスケジュールを調整してくれていたからであり、本来これが正しいはずなのだ。
なのだが、あまりに濃い時間を過ごしたためか。
今まで一人の時、どうやって時間をつぶしていたか分からない。
いつもより少しおざなりであるが、最低限の掃除は済ませ。
何をするでもなくソファーに寝転がり、このまま寝ようかなと思っていたが。
「…………?」
部屋にチャイムの音が鳴り響き、のそりと身体を起こす。
何か頼んでいたものでも届く予定があったかなと思いながらモニターを見てみれば。
そこには……。
「…………どなたでしょう」
『樋之口よ。先週、誕生日会のとき居たでしょ。……まさか、忘れられてる?』
「あ、すみません。今開けます」
名前を聞いて、確かにそうだなと。
髪型が違うし、マスクもしていたから言われるまで分からなかった。
……反射的にドア開けちゃったけど、別にいいのかな。
夏月さんに用があっても仕事で居ないんだけど。
連絡来ていたのに確認し忘れたかと思い、スマホを開くも特に何かあるわけでもなく。
取り敢えず、夏月さんに樋之口さんが来たと送っておいた。
「お邪魔するわ」
「どうぞ。……今更言うのもアレなんですけど、今日は夏月さん仕事ですよ」
「知ってる。用があるのは夏月じゃなくて君だもの」
俺に用があると言われても……初めて会ったのだって先週であるし、会話が無かったわけでもないが、それほど親交を深めたわけでもない。
あ、もしかしてメンバーに男ができて活動に支障が出始めたとかの文句だろうか。
もしそうなら今度、夏月さんや『Hōrai』のことについてエゴサして、本当にそうか確かめないと。
「飲み物はコーヒーで大丈夫ですか?」
「ええ、ありがと」
俺と夏月さんの男女関係について以外、話があるわけないし。
何とか穏便に出来ないかな、なんて思いながら飲み物の用意をし、運んで腰掛ける。
「それで、自分に用というのは……」
「同い年なんだから、そんなに畏まらなくてもいいのよ?」
「や、好きなグループのメンバーに対してそんなに馴れ馴れしくとかは」
「でも、夏月とは砕けた口調じゃない?」
「それは……まあ」
「春のことはまだ苗字呼びだし、砕けるには親密にならないといけないのかしら?」
どのような意図を持っての質問なのかよく分からないし、何故、高瀬さんの名前まで出るのか不思議だが、取り敢えず笑って誤魔化しておく。
「親密になるために大切なのは一緒にいる時間?」
「えーっと……」
これは遠回しに、樋之口さんは俺と親密な関係になりたいと言う事なのだろうか?
男に女心を理解できるとは到底思えないから本当のところ分からないが、自惚れないよう気を付けないと。
それに今の俺には夏月さんがいるのだから。
「それよりも、やっぱり肌と肌を重ねることかしら。たとえば──誕生日の前日から夜明けごろまでずっと交わり合う、とか」
土日祝日が完全に休みな俺とは違い、夏月さんは職業的にそうではなく。
「…………なーにしよっかな」
本日は家に俺一人という状況である。
思わず独り言も漏れてしまう。
今朝、仕事に向かう夏月さんを玄関で見送る時。
靴を履いたところで行きたくないと駄々をこね、仕事を休むと言い始めたのには驚いた。
まさか、いってらっしゃいのキスをする事になるとは。
嬉しいのだが、やはり恥ずかしさもそれなりにある。
夏月さんがとても嬉しそうにしながら仕事に向かったのはいいけど、雰囲気的に毎日やる感じだな……。
これまで休みの日も一緒にいれたのはスケジュールを調整してくれていたからであり、本来これが正しいはずなのだ。
なのだが、あまりに濃い時間を過ごしたためか。
今まで一人の時、どうやって時間をつぶしていたか分からない。
いつもより少しおざなりであるが、最低限の掃除は済ませ。
何をするでもなくソファーに寝転がり、このまま寝ようかなと思っていたが。
「…………?」
部屋にチャイムの音が鳴り響き、のそりと身体を起こす。
何か頼んでいたものでも届く予定があったかなと思いながらモニターを見てみれば。
そこには……。
「…………どなたでしょう」
『樋之口よ。先週、誕生日会のとき居たでしょ。……まさか、忘れられてる?』
「あ、すみません。今開けます」
名前を聞いて、確かにそうだなと。
髪型が違うし、マスクもしていたから言われるまで分からなかった。
……反射的にドア開けちゃったけど、別にいいのかな。
夏月さんに用があっても仕事で居ないんだけど。
連絡来ていたのに確認し忘れたかと思い、スマホを開くも特に何かあるわけでもなく。
取り敢えず、夏月さんに樋之口さんが来たと送っておいた。
「お邪魔するわ」
「どうぞ。……今更言うのもアレなんですけど、今日は夏月さん仕事ですよ」
「知ってる。用があるのは夏月じゃなくて君だもの」
俺に用があると言われても……初めて会ったのだって先週であるし、会話が無かったわけでもないが、それほど親交を深めたわけでもない。
あ、もしかしてメンバーに男ができて活動に支障が出始めたとかの文句だろうか。
もしそうなら今度、夏月さんや『Hōrai』のことについてエゴサして、本当にそうか確かめないと。
「飲み物はコーヒーで大丈夫ですか?」
「ええ、ありがと」
俺と夏月さんの男女関係について以外、話があるわけないし。
何とか穏便に出来ないかな、なんて思いながら飲み物の用意をし、運んで腰掛ける。
「それで、自分に用というのは……」
「同い年なんだから、そんなに畏まらなくてもいいのよ?」
「や、好きなグループのメンバーに対してそんなに馴れ馴れしくとかは」
「でも、夏月とは砕けた口調じゃない?」
「それは……まあ」
「春のことはまだ苗字呼びだし、砕けるには親密にならないといけないのかしら?」
どのような意図を持っての質問なのかよく分からないし、何故、高瀬さんの名前まで出るのか不思議だが、取り敢えず笑って誤魔化しておく。
「親密になるために大切なのは一緒にいる時間?」
「えーっと……」
これは遠回しに、樋之口さんは俺と親密な関係になりたいと言う事なのだろうか?
男に女心を理解できるとは到底思えないから本当のところ分からないが、自惚れないよう気を付けないと。
それに今の俺には夏月さんがいるのだから。
「それよりも、やっぱり肌と肌を重ねることかしら。たとえば──誕生日の前日から夜明けごろまでずっと交わり合う、とか」
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる