Nodding anemone

不思議ちゃん

文字の大きさ
上 下
26 / 51

二十六輪目

しおりを挟む
 驚きからまだ呆然としている二人は、夏月さんに引っ張って奥へ連れて行ってもらう。
 玄関の鍵を閉め、靴を並べようとしたらそれはすでに高瀬さんがやってくれていた。

「ありがとうございます」
「ううん、気にしないで」

 最後にもう一度戸締まりを確認し、高瀬さんとリビングへ向かえば。

「か、夏月ちゃん、さっきの男の人は何なのかな?」
「いい? 正直に答えなさいよ。ウソをついたと思ったら制裁が待っているからね」
「……それ、どのみち制裁を受ける未来しか無いんじゃ」
「シャラップ! 夏月に拒否権なんかないのよ!」

 そこには再起動を果たした二人に詰め寄られている夏月さんの姿が。
 リビングに入ってきた俺と高瀬さんに気が付き、目で助けを求めてくるけど、あの場にどう割って入ればいいか分からないため。

 ごめん、とジェスチャーを返して飲み物を用意するためキッチンへ向かう。

「ゆ、優くんについてはハルもよく知ってるよ!」
「えっ!? 夏月、私のこと売るの!」

 高瀬さんも俺の後に続こうとしていたが、そうはさせまいと速攻で夏月さんに売られていた。

「私よりも先に装飾品プレゼントされてるんだからいいじゃん!」
「それとこれとはまた別じゃないかな! 夏月もネックレスと指輪貰ったんでしょ! あっ! 左手の薬指につけてる!」

 俺がいなくなった、と言っても見える範囲にいるのだが、リビングでは夏月さんと高瀬さんの楽しそうな声が聞こえてくる。
 楽しそうと思いながらも俺に被害がこないよう、祈りながらそちらを見ることはないのだが。

 飲み物は何がいいのか聞くのを忘れていたため。
 取り敢えず人数分のコップと、いくつか適当に飲み物をトレイにのせてリビングへと戻っていく。

「…………」

 そういえば、途中から静かになったなと思っていたが。
 トレイを持ち、リビングへと戻った俺の目にとても面白い光景が入り込んできた。

 ソファーに座る月居さんと樋之口さん。
 そして床に正座している夏月さんと高瀬さん。

 本来ならばソファーに座っている方が優位なのだろうが、目に映る光景では夏月さんと高瀬さんの方に余裕が見える。

 ってか、今日は夏月さんの誕生祝いで集まったのでは。

「……あの、みなさん何飲みますか?」

 少し声をかけにくい状況であるけども、このままというわけにもいかず。
 高瀬さんたちが持ってきてくれた食べ物も未だ袋に入ったままである。

 普段の流れがどういったものなのか俺はサッパリ分からないため、任せようにもこの状況じゃ無理だ。

「あ、コーヒーで」
「私はリンゴジュースをお願いしようかな」
「桜くん、私もコーヒーをお願い」
「優くん、コーヒーと牛乳を一対一で!」

 意外にも、声をかけると先程の状況など無かったかのように反応が返ってきた。
 高瀬さんと夏月さんも普通に正座をやめ、月居さんや樋之口さんと共に食べ物をテーブルに並べていく。

「食事が始まったら、またゆっくりと話を聞かせてもらうから。……もちろん、君にもね」
「へ? あ、はい」
「あ、冬華ちゃん、ポイント稼ぎですか」
「秋凛、変なこと言わないで」

 ウインク付きで唐突に話を振られたから心構えが出来ておらず、気の抜けた返事になってしまった。

 どんな事を聞かれるのか分からないが、やっぱりメンバーに男が出来るのはマズかったのだろうか。
 玄関での反応も含めて考えてみると、夏月さんと高瀬さんは俺のことをメンバーに伝えていないようだったし。

 少しでもいい印象を持ってもらえるよう頑張らねば。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。 果たして、阿宮は見知らぬ世界でどう生きていくのか————。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

処理中です...