Nodding anemone

不思議ちゃん

文字の大きさ
上 下
20 / 51

二十輪目

しおりを挟む
 五月に入って最初の土曜日。
 夏月さんも本日は休みであるため、どこか出かけるでもなく一緒にゲームをしている。

 俺と一緒に遊ぶようにと買ったものがまだ幾つかあるらしく、せっかくだからと始めたはいいものの。

 この間終えたゾンビシリーズの次、六作目は二人ともやった事がなく。
 特に上手いと言える技量でも無いが下手でも無いため、今のところ死ぬ事はないがとにかく時間がかかるのに加え、とても疲れる。

「……休憩含めてお昼にしませんか?」
「……うん、そうしよ」

 時計を見ればすでに十三時を過ぎており、ゲームを始めてから四時間経っていた。
 話の展開的に次のチャプターで最後と思われるが、その前に休憩が欲しい。

 冷蔵庫の中を確認し、期限が近いものを使ってチャーハンを作る。
 本来ならもっとしっかりしたものを作りたいが、夏月さんはこれでも喜んでくれるため俺も甘えてしまう。

 それにこんなものでもまだマシだと思えてしまうのだ。
 夏月さんは食事が面倒だと思ったらゼリー飲料などで済ませてしまうらしく、冷蔵庫を初めて開けて中を見た時、ゼリー飲料しか無くて驚いた。

「あ」
「ん? 優くん、どうかした?」
「夏月さんの誕生日、来週の日曜日ですよね?」
「うん! そうだよ!」

 互いに食事を終え、空いた皿を片付けてる時にふと思い出した。
 世に出回っているプロフィールが確かならば夏月さんの誕生日はもうすぐなのだ。

 何も準備をしていないし、プレゼントも用意していない。
 どういったものが欲しいのかも分からないため、素直に直接聞こう。

「何か欲しいものとかあったりしますか?」
「私、優くんとの子供が欲しいな」
「…………それは『Hōrai』の活動が終わったらにしましょう。ライブ、自分も楽しみにしているので」
「そしたらあと一年と少し我慢しなくちゃだね」

 それを聞いて少し泣きそうになってしまった。
 前任者に合わせるのならば活動期間は六年ほど。
 『Hōrai』はいま五周年を迎えているため、そろそろだろうと思っていたが、こんな形でハッキリするとは。

「他に欲しいものとかありますか?」
「んー……優くんが私を思って選んでくれたのなら、どれも嬉しいかな」

 えへへと笑みを浮かべながらそう言われてしまえば、俺も頑張るしか無い。
 スマホを取り出し、高瀬さんへすぐさま連絡を送る。

『来週の土曜日、買い物に付き合っていただいても大丈夫でしょうか』

 これで一先ず安心である。
 一応、自分がメインで選ぶけどもアドバイスをもらうくらい見逃してくれるだろう。
 高瀬さんに夏月さんと付き合っていることをまだ伝えていないため、それも話せたらと。

「明日も休みだから、終わるまでノンストップで頑張ろうね!」
「……夕食の休憩は欲しいかな。あとお風呂も」
「お風呂に入ったら眠くなっちゃうよ?」
「なるほど?」

 六作目は四つほどストーリーが盛り込まれているので、果たして寝落ちする前に終わるだろうか。

 楽しそうにしている夏月さんを前に、拒否する選択肢を持たない俺は何処までも付き合う所存である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...