Nodding anemone

不思議ちゃん

文字の大きさ
上 下
6 / 51

六輪目

しおりを挟む
「ん? 君は……え、男?」
「は、はい。男ですけど……」
 
 まさかまさかの登場にまた変な声を口から漏らしてしまった。
 いま、目の前に推しが二人もいるだなんて、俺はこの後に死ぬ未来が待ってるのだろうか?
 
「ちょ……ハル、ついに手を出したの?」
「ち、違う違う! 昨日スタジオで会って、ファンって言ってくれた子なの!」
「それはそれでアウトなんじゃ……?」
 
 何やら目の前で二人が話しているけども、そんな姿をすぐそばで見られるなんて。
 ステージ上では仲良くてもプライベートでは……ってたまに聞く話だが、楽しそうに二人が話しているのを見れて幸せである。
 
 なのでファンとしてはずっとここに居たいところなのだが、推しのプライベートの邪魔をするのは個人的にいただけないので帰り支度をしていると。
 
「あ、あっ、桜くん待って!」
「この後、何か用事でもあるのかな?」
「い、いえ、特には。お二人のプライベートを邪魔するのもあれなので、帰ろうかなと思って」
「全然邪魔じゃ無いよ!」
「そうそう。私も君とお話ししてみたいし」
 
 そう口にした常磐さんは自然な動きで高瀬さんの隣に腰掛け、ずっとこちらの様子を伺っていた店員さんに声をかけて注文をしている。
 
 高瀬さんは困ったような、助かったような不思議な表情をして常磐さんを見ていたが、俺に見られている事に気付き、照れた笑みを浮かべた。
 
 あっ!! 可愛い!!!
 そんな素敵な笑顔を向けられたらまた変な声が漏れてしまう!
 
「──ふへっ」
 
 結局、我慢しきれず漏れてしまったが、二人は他のことに意識を向けていたのか気付いた様子はなかった。
 
「ね、君は何がきっかけでハルのファンになったの?」
 
 推しの! 顔が近い!!
 
「ふぁ……え、えっと、お二人も担当しているアニメの前作のFinal Liveに行く機会がありまして……。そこから声優に興味が出て、その……『Hōrai』の中でも高瀬さんと常磐さんが推しと言いますか……」
「え、私もなんだ! ありがとね!」
 
 公開告白みたいな恥ずかしさを覚えながらもなんとか言い切れば、常磐さんが感謝の言葉を口にしながら俺の手を握ってくる。
 
 俺は突然の出来事に何も言葉を返すことができず、にやける頬を押さえるのでいっぱいいっぱいなのだが。
 はたして本当ににやけ顔を抑えることが出来ているのか不安だ。
 
「か、夏月! 私もまだなのにそんなのずる…………その行動もアウトだと思うなっ!」
「ごめんごめん。つい嬉しくてさ。だからそんなに怒らないでよ」
 
 短くない時間手を握られていたが、自分から離すタイミングを切り出すのは嫌だなと思っていたら。
 高瀬さんが常磐さんに何か言いながら離されてしまった。
 
 手に残る温もりや感触だけで一ヶ月は戦えそう。
 なんならこのシチュエーションで半年は無敵だ。
 
「でもほんと、必然的に男性のファンはなかなか会えないから嬉しいよ」
「え、そうなんですか? 男性ファンの方が多いと思いますけど」
「そうなの? 男性ファン専用の何かあるのかな? ハル、何か知ってる?」
「ううん。聞いた事ないよ」
「だよね」
 
 俺の一言で何やら変な空気が流れてしまったが、この話を続けるのは良くないと、これ以上深掘りする事なく話題を移す事に。
 
「そういえば、今日は二人で会うために池袋ここへ?」
「いえ、昨日高瀬さんから貰ったサインをしまう額縁を買いに。新規垢からきたDMでここにきたら、高瀬さんだった。って感じです」
「ハル、こんないい子じゃなかったら終わってたよ?」
「そ、それはそうなんだけど……。夏月なら我慢できた?」
「そりゃ出来ないけど……あ、そうだ! ね、連絡先交換しようよ!」
 
 二人でまた話してると思ったら、連絡先の交換をしようと唐突に言われた。
 隣にいる高瀬さんも驚いた顔をしているし、常磐さんの思いつきなのだろうか。
 
 果たして本当にしてもいいのか考えるところなのだが、考えとは別に体は正直なようで。
 俺の手にはスマホが握られており、常磐さん、高瀬さんの連絡先が追加されていた。
 
 追加された二人の連絡先を見て、今だに実感が湧かない中。
 常磐さんの口からさらにとんでもない言葉が出てくる。
 
「このままここでゆっくり話してるのもいいんだけど、私の家が近いし。そこに移動してノンビリしない?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜合体編〜♡

x頭金x
恋愛
♡ちょっとHなショートショートつめ合わせ♡

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...