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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》

82話 喉薬とわたし

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「依頼ですか?
  前に言っていた護衛の件ですか?
  と言うか、なんでわたしがこの店に居るとわかったのですか?」

「この店に居るのはギルドの受付嬢さんに聞きました。
  護衛もお願いできれば嬉しいのですが、今回依頼したいのは調薬です」

  さすが個人情報保護法など皆無の異世界です。

「薬ですか」

「はい、スモッグトータスと言う魔物をご存知ですか?」

「たしか、甲羅から毒煙を出す亀ですよね。
  知ってますよ、見た事は無いですけど」

「はい、その魔物です。
  最近、知り合った冒険者の方にスモッグトータスの毒煙により、声を出せなくなった方がいるのです。
  私はその方に薬の入手を頼まれたのです」

「なるほど、分かりました。
  その方は声が出せない以外に毒煙の影響は受けていませんか?」

「はい、私が聴いた限り、声が出せない以外は健康だそうです」

「それなら問題ありません。
  スモッグトータスの毒煙は吸い込んだ量によって症状や治療法が変わります。
  声を失っただけなら殆ど煙を吸わなかったのでしょう。
  しかし、ある程度希少な材料が必要ですし、手持ちにない材料は採取する必要があります。
  調薬には少し時間とお金がかかりますよ?」

「構いません。
  必要経費は別として、調薬代……依頼の報酬なのですが、現金の用意も有りますし、もし、ユウさんが経費を請求しないのならこれを報酬にする事もできます」

  ロキさんがマジックバックから手のひらサイズ布の包みを取り出しました。
  経費を請求しないと言う事は素材代はわたし持ちと言う事です。
  そんな交渉をすると言う事はあの包みの中身に自信があるのでしょう。

「キマイラの牙です」

「この依頼を受けます!」

  なんと包みの中身はキマイラの牙でした。
  こんなレアアイテムをどうやって手に入れたのでしょうか?

「喉薬を求めている冒険者が迷宮都市ダイダロスにあるAランクダンジョンで手に入れた物です。
  最近、ユウさんが探し求めている、いくつかの素材の1つだとお聞きしました。
  それにこの素材の希少性故、まだ、入手されていないと思ったのです。
  スモッグトータスの毒煙にやられた喉を治す薬を作って下されば、このキマイラの牙を差し上げます」

「分かりました。
  直ぐに材料となる薬草を採取にいきましょう」

「ありがとうございます。
  では、ギルドで依頼の受理をしましょう」

「はい」

  ロキさんと連れ立ってギルドに向かうと、先程の内容で依頼を受けたわたしは、その足で門から出て、モモに乗って採取に向かいました。
  ロキさんは依頼から戻ったばかりなのだから、明日にした方が良いのではないかと言ってくれましたが、別に疲れていなかったのでそのままガストの街を飛び出しました。

  街道の近くで野営した翌日、小川を辿り、山を登っていたわたしは、頂上付近で、ようやく目的の薬草を見つけました。
  あの薬草が有れば、あとは街の店で売っている素材でスモッグトータスの毒煙で傷付いた喉を癒す薬を調合する事が出来ます。
  薬草を丁寧に採取し、アイテムボックスにしまったわたしは、ガストの街に戻る為、下山しようと歩き始めます。
  歩き始めて直ぐに、アイアンアントが3体、わたしの行く道を塞ぎました。
  アイアンアントは鉄の様に硬い攻殻を持った、体長1メートルくらいの蟻です。
  3~10体くらいの小隊を組み行動するEランクの魔物です。
  この手の集団で行動する魔物は、数によってランクが変動します。
  今回は3体なので、Eランクのままです。
  身体は鉄の様に硬いですが、火に弱いので、対処法を知っていれば危険はすくないのです。
  これが上位種のスチールアントやシルバーアントなら面倒でした。
  わたしは魔力を込めた水龍の戦斧で、アイアンアントを両断して行きます。
  切れ味が上昇した水龍の戦斧は硬い攻殻をなんの抵抗も無く叩き斬る事が出来ます。
  残り1体となったので少し試してみたい事が有ります。 
  そう、必殺技です。
  わたしはアイアンアントから距離を取ると水龍の戦斧に魔力を込めて行きます。
  凝縮された魔力が光を放ち、輝く刃を振り上げて、アイアンアントに全力で振り降ろします。

「必っ殺! 愛暗々徒豪露死アイアンアントごろし

  水龍の戦斧はアイアンアントを打ち砕きました…………地面ごと。
  なんと、わたしの必殺技はアイアンアントを倒すとそのまま地面を砕いたのです。
  恐らく地下に空洞でも有ったのでしょう。 
  足もとが崩れ落ちてしまったわたしはそのまま地下へと落ちて行くのでした。
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