神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ

文字の大きさ
上 下
112 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》

106話 愚痴とわたし

しおりを挟む
  まさか王族と出会う事になるとは思いませんでした。 
  流石に王族には辺境伯家のメダルも効果はないでしょう。
  しかし、わたしはそこまで心配はしていませんでした。
  フレイド様からこの国の王族について世間話程度には聞いています。
  その情報が正しいなら、いきなり無茶を言ってくる事はないでしょう。

「ギュッ!」

  オリオンが戻って来ました。
  両足には、わたしが落としたワイバーンの死体と男が1人捕まっています。
  
「あら、この者は?」

「恐らく今回のワイバーン襲撃の実行犯です」

  わたしのマッピングスキルで森の中に居たのを見つけてオリオンに捕まえて来て貰いました。
  あの数のワイバーンを指揮するには、それなりに近い距離に居る必要があります。
  現在、この辺りの森の中に居る人間はあの男1人だけです。
  まず間違いないでしょう。
  間違えていたら……すみません。

「こいつは!」

  男を捕縛しようとした団長さんが驚きの声を上げました。

「知っているのですか?」

  「ナーバット子爵が重用している召喚術士です。
  名前は確か……アロンだったかと」

「そう、ナーバット子爵には後日話を聞く必要があるわね。  
  取り敢えず、牢に入れておきなさい」

「はっ!」

  謎発言がありましたね。

「この飛空船には牢があるのですか?」

「ええ、飛空船に備え付けの物ではなく今回の為に持ち込んだ物だけどね。
  今、私たちは罪人を王都に護送しているのよ」

「罪人の護送ですか?
  なぜ、王女様がそんなことを?」

「いろいろ事情があるのよ」

  おや、これは聞かない方が良い感じでしょうか?

「すみません、詮索するつもりは有りません」

「ああ、大丈夫よ、別に秘密って訳ではないわ」

「そうなのですか?」

「ええ、ユウちゃんだったわね。
  あなた、怪人108面相ってしってる?」





  点検の為、近くの平原に着陸した飛空船の甲板の上で、無表情なメイドさんが入れてくれた紅茶を飲みながら、テスタロッサ様の話を聞きます。
  なんでも、最近貴族を狙って財産を盗み出す義賊が現れているそうです。
  義賊は怪人108面相を名乗り、貴族の屋敷に予告状を送りつけ、財産と貴族が行なった悪事の証拠を盗み出し、白日の元に晒す事で不正を働いた貴族を潰しているらしいです。
  そして、盗み出した貴族の財産のほとんどは、匿名で教会や孤児院に寄付されるそうです。
  寄付されているのが、盗まれたお金だと言うのは公然の秘密です。
  怪人108面相ですか、まぁ、日本人ですよね。
  とうとう、わたし以外の2人の内の1人の情報を手に入れました。
  恐らく、『異世界に行ったからチートで義賊になって世直しします』みたいな感じでハッチャケたのでしょう。
  そして、怪人108面相は、テスタロッサ様のいく先々に現れては、悪質な不正を働く貴族から盗みまくっているのだそうです。

「なぜ、テスタロッサ様の行く先々で犯行を行うのでしょうか?」

「テレサって呼んで良いわよ?  
  推測でしかないけど多分、不正を暴いた貴族をしっかりと裁く為でしょうね」

「街の衛兵ではダメなのですか?」

「衛兵を管理しているのは貴族だからね。
  不正の証拠を衛兵に持って行っても貴族に握り潰されるだけなのよ。
  その点、私は王族だから、確かな証拠が有れば貴族だろうと、捕らえる事が出来るし、街の管理者が捕まっても街を管理維持する事が可能なのよ」

「なるほど、それで怪人108面相はテレサ様の立ち寄った街で犯行を行うのですね」

「ええ、お父様は国王として、滅多な事では王都を離れる事は出来ないし、お母様はお父様の補佐を務めていらっしゃる。
  弟はまだ、学院に通って勉強中だからね。
  私が地方を回ったりしなければならないのよ。
  少し大きな街に立ち寄る度に怪人108面相の予告状が届いて足止めをくらうのよ」

「無視は出来ないのですか?」

「貴族が民を守るように、私達、王家は貴族を含むすべての国民を守る義務があるわ。
  つまり、明らかに不正をしているバカな貴族でも、証拠がない以上は守らなければならないのよ。
  怪人108面相はそれもわかってて私を利用しているんでしょうね」

「苦労されているのですね」

「まぁ、守るって言っても冒険者を何人か雇って簡単に警備してもらっているだけなんだけどね。
  守ってるよってアピールが大事なのよ。
  正直、不正の証拠が出て来てからが私の本番よ」

「ははは…………」

  王女様の愚痴が止まりません。
  怪人108面相を名乗る日本人!
  お前はやり過ぎだ!
  わたしが愚痴を吐きまくる第1王女様に相槌をうっていると団長さんがやってきました。
  あまり、顔色が優れませんね。
  トラブルでしょうか?

「テスタロッサ殿下、船体に異常はない事が確認出来たのですが、隊の者が何人がワイバーンの毒棘にやられ危険な状態です。
  どうか、近くの街で治療をさせて下さい」

「近くの街っていっても、この辺りにはミルガンの街くらいしか無いわね。
  あの街ではワイバーンの毒の治療が出来る程の医師や薬師は居なかったはずよ。
  全速力で王都に向かった方が良いんじゃないかしら」

「………………王都まで全速力で約5日、それまで騎士達の体力が持つかの勝負ですね」

「致し方ないわ、兎に角急ぎなさい」

「あの、もし良かったら私が解毒薬を調合しましょうか?」

「なに⁉︎」

「ユウちゃん、そんな事まで出来るの?」

「はい、ワイバーンの毒なら手持ちの素材で解毒薬を作れますよ」

「ユウちゃん…………たしかガストの街を拠点にしているって言ってたわね」

「はい」

「もしかして、ユーリアちゃんの病気を治した薬師ってユウちゃん?」

「そうですよ」

「そう、なら腕前は申し分ないわね。
  あなたの事は、フレイド卿から伺っているわ。
  是非、騎士達の治療をお願い出来るのかしら?」

「はい、お任せ下さい。
  では、団長さん、病人のところに行きましょう」

「あ、ああ」

  わたしは団長さんを押して病人のところに急ぎます。
  早く、苦しんでいる騎士達を救いたいからですよ。
  テレサ様の愚痴が面倒になったからではありません。
  嘘じゃないです‼︎













しおりを挟む
感想 890

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...