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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》

106話 愚痴とわたし

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  まさか王族と出会う事になるとは思いませんでした。 
  流石に王族には辺境伯家のメダルも効果はないでしょう。
  しかし、わたしはそこまで心配はしていませんでした。
  フレイド様からこの国の王族について世間話程度には聞いています。
  その情報が正しいなら、いきなり無茶を言ってくる事はないでしょう。

「ギュッ!」

  オリオンが戻って来ました。
  両足には、わたしが落としたワイバーンの死体と男が1人捕まっています。
  
「あら、この者は?」

「恐らく今回のワイバーン襲撃の実行犯です」

  わたしのマッピングスキルで森の中に居たのを見つけてオリオンに捕まえて来て貰いました。
  あの数のワイバーンを指揮するには、それなりに近い距離に居る必要があります。
  現在、この辺りの森の中に居る人間はあの男1人だけです。
  まず間違いないでしょう。
  間違えていたら……すみません。

「こいつは!」

  男を捕縛しようとした団長さんが驚きの声を上げました。

「知っているのですか?」

  「ナーバット子爵が重用している召喚術士です。
  名前は確か……アロンだったかと」

「そう、ナーバット子爵には後日話を聞く必要があるわね。  
  取り敢えず、牢に入れておきなさい」

「はっ!」

  謎発言がありましたね。

「この飛空船には牢があるのですか?」

「ええ、飛空船に備え付けの物ではなく今回の為に持ち込んだ物だけどね。
  今、私たちは罪人を王都に護送しているのよ」

「罪人の護送ですか?
  なぜ、王女様がそんなことを?」

「いろいろ事情があるのよ」

  おや、これは聞かない方が良い感じでしょうか?

「すみません、詮索するつもりは有りません」

「ああ、大丈夫よ、別に秘密って訳ではないわ」

「そうなのですか?」

「ええ、ユウちゃんだったわね。
  あなた、怪人108面相ってしってる?」





  点検の為、近くの平原に着陸した飛空船の甲板の上で、無表情なメイドさんが入れてくれた紅茶を飲みながら、テスタロッサ様の話を聞きます。
  なんでも、最近貴族を狙って財産を盗み出す義賊が現れているそうです。
  義賊は怪人108面相を名乗り、貴族の屋敷に予告状を送りつけ、財産と貴族が行なった悪事の証拠を盗み出し、白日の元に晒す事で不正を働いた貴族を潰しているらしいです。
  そして、盗み出した貴族の財産のほとんどは、匿名で教会や孤児院に寄付されるそうです。
  寄付されているのが、盗まれたお金だと言うのは公然の秘密です。
  怪人108面相ですか、まぁ、日本人ですよね。
  とうとう、わたし以外の2人の内の1人の情報を手に入れました。
  恐らく、『異世界に行ったからチートで義賊になって世直しします』みたいな感じでハッチャケたのでしょう。
  そして、怪人108面相は、テスタロッサ様のいく先々に現れては、悪質な不正を働く貴族から盗みまくっているのだそうです。

「なぜ、テスタロッサ様の行く先々で犯行を行うのでしょうか?」

「テレサって呼んで良いわよ?  
  推測でしかないけど多分、不正を暴いた貴族をしっかりと裁く為でしょうね」

「街の衛兵ではダメなのですか?」

「衛兵を管理しているのは貴族だからね。
  不正の証拠を衛兵に持って行っても貴族に握り潰されるだけなのよ。
  その点、私は王族だから、確かな証拠が有れば貴族だろうと、捕らえる事が出来るし、街の管理者が捕まっても街を管理維持する事が可能なのよ」

「なるほど、それで怪人108面相はテレサ様の立ち寄った街で犯行を行うのですね」

「ええ、お父様は国王として、滅多な事では王都を離れる事は出来ないし、お母様はお父様の補佐を務めていらっしゃる。
  弟はまだ、学院に通って勉強中だからね。
  私が地方を回ったりしなければならないのよ。
  少し大きな街に立ち寄る度に怪人108面相の予告状が届いて足止めをくらうのよ」

「無視は出来ないのですか?」

「貴族が民を守るように、私達、王家は貴族を含むすべての国民を守る義務があるわ。
  つまり、明らかに不正をしているバカな貴族でも、証拠がない以上は守らなければならないのよ。
  怪人108面相はそれもわかってて私を利用しているんでしょうね」

「苦労されているのですね」

「まぁ、守るって言っても冒険者を何人か雇って簡単に警備してもらっているだけなんだけどね。
  守ってるよってアピールが大事なのよ。
  正直、不正の証拠が出て来てからが私の本番よ」

「ははは…………」

  王女様の愚痴が止まりません。
  怪人108面相を名乗る日本人!
  お前はやり過ぎだ!
  わたしが愚痴を吐きまくる第1王女様に相槌をうっていると団長さんがやってきました。
  あまり、顔色が優れませんね。
  トラブルでしょうか?

「テスタロッサ殿下、船体に異常はない事が確認出来たのですが、隊の者が何人がワイバーンの毒棘にやられ危険な状態です。
  どうか、近くの街で治療をさせて下さい」

「近くの街っていっても、この辺りにはミルガンの街くらいしか無いわね。
  あの街ではワイバーンの毒の治療が出来る程の医師や薬師は居なかったはずよ。
  全速力で王都に向かった方が良いんじゃないかしら」

「………………王都まで全速力で約5日、それまで騎士達の体力が持つかの勝負ですね」

「致し方ないわ、兎に角急ぎなさい」

「あの、もし良かったら私が解毒薬を調合しましょうか?」

「なに⁉︎」

「ユウちゃん、そんな事まで出来るの?」

「はい、ワイバーンの毒なら手持ちの素材で解毒薬を作れますよ」

「ユウちゃん…………たしかガストの街を拠点にしているって言ってたわね」

「はい」

「もしかして、ユーリアちゃんの病気を治した薬師ってユウちゃん?」

「そうですよ」

「そう、なら腕前は申し分ないわね。
  あなたの事は、フレイド卿から伺っているわ。
  是非、騎士達の治療をお願い出来るのかしら?」

「はい、お任せ下さい。
  では、団長さん、病人のところに行きましょう」

「あ、ああ」

  わたしは団長さんを押して病人のところに急ぎます。
  早く、苦しんでいる騎士達を救いたいからですよ。
  テレサ様の愚痴が面倒になったからではありません。
  嘘じゃないです‼︎













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