神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ

文字の大きさ
上 下
418 / 418
もう少しだけブームは続きそうです。

最終話 夜空の星々

しおりを挟む
「ウオッフ!!」

  雄叫びを上げて両腕を振り下ろすスティンガーエイプから1歩だけ距離を取り攻撃を避ける。
  その動作から流れる様に身体を回転させて、遠心力の乗った尾をスティンガーエイプの身体に叩きつけた。
  硬く鋭い体毛で覆われたスティンガーエイプだったが強力な一撃を放った尾には傷1つついてはいない。
  リザードマンとして、強靭な鱗を生まれ持っていると言ってもAランクの魔物であるスティンガーエイプの体毛を弾く程ではない。
  ならば、何故彼女の尾は無事だったのか、それは彼女の尾を包む鎧の性能がずば抜けて高いからである。
  彼女の祖父が最後に戦ったSランクの魔物、マンティコアの尾から作った尾鎧は、驚く程軽く、アダマンタイトに匹敵する程硬い。

「ウグゥ……」

  フラつきながら立ち上がったスティンガーエイプにリザードマンの女性が声を掛ける。

「あんたに恨みはない。
  けど、あんたが此処にいるのは迷惑なのよ」

  リザードマンの女性はチラリと背後に視線をやる。
  そこには、魔族の男達が鍬や鎌などを手に震えている。
  魔境の中にある小さな魔族の農村で、暴れていたスティンガーエイプをたまたま近くを通りかかった冒険者が親切心から討伐を申し出たのだ。

「獅子戸流、疾風」

  一瞬、リザードマンの姿が掻き消えた様にぶれる。
  すると、一拍置いてからスティンガーエイプの首が落ちた。

「「「わぁぁあ!!」」」
  
  喜びの声を上げる村人達にリザードマンの冒険者は笑みを浮かべる。

ガサッ!

「 ⁉︎ 」

  草を踏む事に敏感に反応したリザードマンは村人達を庇う様に剣を構える。
  その姿を見て、村人達も慌てて身構えた。
  しかし、こちらに向かって来ている者の正体を見てリザードマンは構えを解く。

「やぁ、待たせたねモミジさん」

「レス、そっちはどうだった?」

リザードマンの冒険者モミジは同じパーティに属する魔族の男レスに尋ねた。

「森で1匹、スティンガーエイプが居たよ。
  多分つがいだったんじゃないかな?  
  一応、始末して置いたけど」

「そうか、可哀想だが放置すると村人に被害が出るかも知れないしな」

「あ、あの……この度は大変お世話になりました。
  しかし……その……我々の村は貧しく……ろくにお礼も……」

「ああ、気にする事はない。
  たまたま近くに用が有っただけだからな。
  高ランク冒険者として当然の事だ」

  モミジは村長であろう男に軽く告げる。
  
「このスティンガーエイプは置いて行くから、素材を売って次に何かあった時に冒険者を雇ったりする資金にでもすると良い」

「そ、そこまでして頂いて宜しいのですか?」

「ああ、レスが倒したスティンガーエイプだけで十分な収入だ」

  そう言って素材の権利を譲ったモミジとレスは村人達に大変感謝された。

「では僕達はこれで」

「しかし、もう直ぐ暗くなりますよ?
  今晩は村に泊まって行かれた方が……」

「いや、少々寄り道をしてしまったからな。
  私達ならば心配は要らない」

  そう言うとモミジは懐から取り出した角笛を吹いた。
  すると、目の前に大きな魔方陣が現れて蝙蝠の羽を持つ巨大な蛇、幻獣であるケツァルコアトルが現れる。
  モミジがパーティメンバーでもある友人から借りている幻獣である。
  ケツァルコアトルに跨った2人は手を振る村人達に答えながら空へと舞い上がって行った。





  まるで貴族が住む様な大きな屋敷の廊下をモミジとレスは歩く。
  この屋敷はモミジとレスが所属する冒険者パーティの拠点だ。

「お帰りなさいませ、モミジ様、ネームレス様」

「ただいま、ハル」

「ただいま戻りました」

  2人に声をかけたのはメイド服を着た何処か儚げな女性だった。
  
「ハルにお土産があるんだ、ほら」

  モミジはマジックバッグから取り出した髪飾りをハルに付けてやる。

「似合うじゃないか」

「ありがとうございます、モミジ様」
  
  彼女のお陰でこの屋敷はいつも心地よい状態が保たれているのだ。
  パーティメンバーは偶にこうしてお土産を持ち帰る。

「2人とも帰って来てるのかな?」

「はい、お二人とも既に戻られております」

  ハルにお礼を言って居間に向かう。

ガチャ

「ん、ああ、モミジとレスか。
  お帰り」

  ソファに座っていた黒髪に黒い瞳の男が2人に気付く。

「ああ、コースケ。
  そっちはどうだったんだい?」

「問題なく手に入れたぞ」

  孝介はいくつかの木の実を取り出してテーブルに置く。

「流石だな」

モミジとレスもそれぞれ木の実や鉱石などをテーブルに並べた。

ガチャ

「おや、モミジ、レス、戻っていたのですね」

  新たに部屋に入って来たのはモミジ達のパーティのリーダーである少女だ。
  孝介と同じ黒髪、黒眼であり、薄いキャラメル色の肌と額に小さな角を持つ半魔族の少女ユリも懐から自分が手に入れた素材を取り出す。

「ユリ、これで優香への土産は十分じゃ無いか?」

「そうですね、これだけあればお母さんも喜んでくれるでしょう」

  数年振りに会いに行く母へのお土産を集めていたのだ。
  父への土産が無いが、何時もの事なのでユリも孝介も特に気にした様子はなかった。
  旅支度を整えたユリ達は屋敷から出る。
  
「では……」

  ユリはマジックバッグから馬車を取り出す。
  見るからに普通とは違う力を感じる馬車だ。
  ダンジョンの奥で手に入れた物で、この馬車自体がマジックアイテムである。
  そして、この馬車を引くのは…………

「契約により顕現せよ  天翔ける白馬よ  幻獣召喚『天馬ペガサス』」

  孝介の幻獣召喚魔法によって呼び出された異界の存在、ペガサスである。
  
「向こうに帰るのは久しぶりだね」

「はぁ、また優香とザジに会うのか……」

「良い加減諦めて下さい、コースケ。
  レスさんは向こうについて何か思い出したりはしませんか?」

「う~ん、どうだろう?
  でも、ミルミット王国と言う名前には何だか聞き覚えがある気がするんだよね?」

  レスはかつては額の角が有ったであろう傷跡をなでる。

「じゃあ、もしかしたら何か記憶を取り戻す切っ掛けが掴めるかも知れませんね」

  口々に言いながら馬車に乗り込んで行く。
  
「じゃあ行くぞ?」

  御者席に座った孝介はペガサスの手綱を握る。

「皆様、行ってらっしゃいませ」

  ぺこりと頭を下げるハルに手を振りペガサスは走らせる。
  すると直ぐに足場が消える。
  魔境の空高くに存在する小さな浮遊する島に立てられた屋敷から飛び出した馬車は、牽引するペガサスに引かれ空を進む。
  Sランクパーティ《夜空の星々》を乗せて……

ー完ー



【おまけ:人物紹介】


○ハル
  古代魔法文明の時代に立てられた、とある科学者の隠れ家であった屋敷に住み着いた屋敷精霊シルキー
  主人が外出中屋敷を守る。
  

○モミジ
  Aランク冒険者、獅子戸流剣術皆伝。
『嵐刃のモミジ』と呼ばれる女。
  リュウガ王国出身。
  偉大な剣士であった祖父を尊敬している。
  300年前、勇者と共に戦った女傑アマンダの血を引いている。
  グラマー。


○ネームレス(レス)
  Aランク冒険者、名無しの男ネームレス
『双刃のレス』と呼ばれる片角を失ったの魔族の男。
  パーティでは斥候役を担当。
  大怪我をして死に掛けていた所を山奥の村に住む人々に助けられるが、記憶を失い自らの名前すら思い出せない。
  記憶を失ったまま十年以上村で暮らしていたが3年程前に村を訪れたユリ達と出会い冒険者になった。
  自らの記憶を探している。


○高橋 孝介
  Aランク冒険者。
『幻魔のコースケ』と呼ばれる異世界から来た男。
  神から貰ったチートで無双しちゃった幻獣使い。
  幼馴染である優香の娘、ユリと色恋沙汰に発展してしまった事に何となく罪悪感がある。


○ユリ
  Sランク冒険者、Sランクパーティ《夜空の星々》のリーダー。
『星空のユリ』と呼ばれる半魔族の少女。
  少女とは言えない年齢だが少女としか言えない容姿。
  親譲りのフットワークの軽さで世界を巡り、数々の功績を挙げた。
  戦斧や剣、刀を始め、槍や鞭、、棍、戦輪、鎌などの数多の武器を使いこなす。
  最近は魔境の上空で見つけた空飛ぶ小島の屋敷を拠点に活動している。
  
完ー
しおりを挟む
感想 890

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(890件)

斑鳩斑/イカルガ・マダラ

誤字?
第2部 91話
【使命】依頼
【指名】では?

2022.06.17 はぐれメタボ

ご指摘ありがとうございます。
修正しました。
m(_ _)m

解除
八神 風
2020.09.29 八神 風

神々の間でメタボがブームらしいです❗️


ユウ
「暑苦しい❗️」


解除
リアナ
2020.05.03 リアナ

完結おめでとうございます。
ユウいつの間に結婚?子供?話の転回にビックリ!!
戦争が終わってからの話が楽しみだったのですが…
そこのところ読みたかったです!


解除

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。