上 下
366 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第3部《交錯する戦場》

22話 内通者 リゼッタ・A・ドラゴン

しおりを挟む
ギンッ!

ギンッ!

ギギンッ!!

  夜の帳が下り、周囲に布陣していた兵士達が自陣へと戻った後、戦場の中心ではリゼッタとグレースの戦いが今だに続いていた。
  
「はっはっは、至高の冒険者よ、これならばどうだ!」

  グレースは鋭く剣を振る。
  その攻撃を僅かに身を引いて避けたリゼッタだったが、胸の鎧を切り裂かれてしまう。
  リゼッタは、もはや本来の目的を果たせなくなった鎧を引き千切る様に投げ捨てる。

「面白い事をするわね」

  グレースは、剣に込めていた魔力を操作して一瞬の間だけ魔力の刃を作り出した。
  これにより、グレースの剣は擬似的に刀身が伸び、躱した筈のリゼッタの鎧を斬り裂いたのだ。

「ふふふ、これからが本番さ」

「はぁ、私はそろそろ帰って休みたいんだけどね。
  夜更かしはお肌に悪いのよ?」

「そいつは申し訳ない。
  だが、今日の所は俺に付き合って……な、なんだ⁉︎」

  言葉の途中、グレースの足元に魔方陣が現れる。
 
「どうなっているんだ⁉︎」

  戸惑うグレースだったが、足元の魔方陣は御構い無しに発光する。
  ひときわ強い光を放った後、其処にはリゼッタ1人が取り残されていた。
  
「………………」

  リゼッタはしばらく剣を構えていたが、特に何も起こらない事を確認すると剣を納めた。

「今のが例のスクロールによる強制転移かしら?
  という事はこの戦争も大詰めね」

  小さく呟くとリゼッタは連合軍の陣地へと戻って行った。



  翌朝、リゼッタの下に各国の指揮官がやって来た。

「おはようございます、リゼッタ殿。
  何やら今朝は妙な雰囲気ですな」

「しかり、昨日ならばもう敵軍も布陣して、攻め入る姿勢を見せていた時間、こうも静かだと、逆に不気味に思いますな」

「…………そうね」

  日が昇っても魔族軍が攻め入る様子がない事を不思議に思う指揮官達におざなりな返事を返したリゼッタだったが、この隙に攻め込むべきだと言う指揮官の意見を却下する。

「相手に動きが見えない内は無理に攻め込むのは危険よ。
  防衛の陣を敷いて待機してちょうだい。
  敵が攻めて来たら防御、それ以外は待機よ」

「リゼッタ殿はどうされるのです?」

「私はミノス砦に向かうわ、いくつか報告をしなければならないし」

  そう言うとリゼッタは、指揮官の1人に緊急時の前線の指揮を預け、数人のお供を引き連れて後方にあるミノス砦へと向かって行った。




  ミノス砦に到着するとリゼッタは国王達に面会を要請した。
  すぐに許可が出た為、リゼッタと副官のクルス、そして、共について来たエルフの魔法使いと獣人の戦士の4人がミノス砦の廊下を進む。
  
「おや、リゼさんではないですか」

  前方から歩いて来た黒髪の少女が親しげに近寄って来た。

「あら、ユウちゃんも砦にきていたのね」

「はい、クルスさんも無事で良かったです」

「ははは、僕はリゼッタさんの指示で雑用をこなす係ですからね。
  あまり危険な仕事のしないのですよ」

  クルスも数日ぶりに会った恩師と会話を交わす。

「ユウ先生もこれから面会ですか?」

「はい、何やら今朝から魔族の様子がおかしいですからね。
  一応、雇い主に報告をと思いまして」

「そう、なら私達と一緒に行きましょ」

「はい」

  リゼッタ達はユウと連れ立って謁見の間……そう呼ぶには少々無骨な広間に足を踏み入れる。
  其処には半円状に並べられた席に各国の代表が座り、リゼッタ達を出迎えた。

「リゼッタよ。
  此度の活躍、大義である。
  して、今日はどの様な要件で来たのだ?」

  半円の中心に座る連合の盟主であるグリント帝国の皇帝ハイランドが尋ねる。
  すると、リゼッタは1歩前に踏み出すと、まるでそれが格式高い正式な所作であるかの様に優雅に剣を引き抜いた。
  
「はい、本日は…………この戦争を終わらせに参りました」

  輝く美しい剣を手にしたSランク冒険者は楽しそうに、ニヤリと笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神々の間では異世界転移がブームらしいです。《サイドストーリー》

はぐれメタボ
ファンタジー
《番外編》 神々の間では異世界転移がブームらしいです。の番外編です。 《マーリンさんの学業奮闘記》 大賢者イナミの弟子、マーリンは師匠の命令でミルミット王国の学院に入学する事になった。 マーリンは、そこで出会った友人達と事件に巻き込まれて行く。 《迷宮都市の盾使い》 ミルミット王国最大の迷宮都市ダイダロスで迷宮に挑む冒険者達と全身鎧を身に付けた謎の冒険者の物語り。 《炎の継承者》 田舎に暮らす少年、カートは憧れの父親の背中を追って成長して行く。 《盃を満たすは神の酒》 エルフのジンとドワーフのバッカスは2人組の冒険者である。 彼等は神が醸造したと言われる伝説の酒を探して旅を続けていた。 そんな彼等が居た帝国の街に、とてつもない数の魔物が迫っていた。 《1人と1振り》 冒険者のヴァインはある日、奇抜な冒険者アークと出会う。 やがて共に旅をする様になった2人はミルミット王国のある街でとある依頼を受ける事になった。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

王女殿下は家出を計画中

ゆうゆう
ファンタジー
出来損ないと言われる第3王女様は家出して、自由を謳歌するために奮闘する 家出の計画を進めようとするうちに、過去に起きた様々な事の真実があきらかになったり、距離を置いていた家族との繋がりを再確認したりするうちに、自分の気持ちの変化にも気付いていく…

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...