上 下
358 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第3部《交錯する戦場》

14話 グリント帝国新人兵士 ククイ

しおりを挟む
  ククイは初めての戦場の空気に飲まれていた。
  グリント帝国の兵士の4男として生まれたククイは、成人すると父や長男、次男と同じ兵士になった。
  商人となった3男以外は皆、兵士である。
  見習いを卒業し、帝都第3兵士隊に新兵として配属されたのは、つい数ヶ月前のことであった。
  そこにこの戦争である。
  ククイはグリント帝国の兵士として出兵した。
  初めは同期の新兵達と手柄を立て出世する、敵将の首を取って騎士になるなどと息巻いていたものだ。
  しかし、実際に戦争が始まり血と鉄の匂いが充満し始めた頃にはそんな気概は消え失せて、ただ生き残る為だけに必死に戦っていた。
  すでに同期の新兵の中からも戦死した者も居る。
  ククイは同じ隊の長兄と兄の同期である先輩と共に最前線でたたかっていた。

「はっ!」

「やぁ!」

  3人は訓練でもチームを組んでおり、連携の練度も十分だった。
  2日目の朝から戦い、太陽が頂点に達しても戦い続けていた。



「ぐぁぁあ!」

  すぐ横に居た別の隊の兵士が悲鳴を上げて崩れ落ちる。
  目の前に居たのは無骨な鎧に身を包み、肉厚な大剣を手にした魔族だった。

「ぬぉりゃあ!」

  咆哮と共に大剣を大きく振るうと、周囲にいた連合軍の兵士や冒険者が一撃で命を落として行く。

「くっ、強いぞ!」

「遊撃の冒険者に任せて退くんだ!」

  魔族の中にいる特出した強者の相手には遊撃に選ばれた冒険者が当たるとの通達があったのだ。
  兄の指示でククイと先輩は撤退に移ろうとする。

「逃がさん!」

  撤退しようとした気配に気が付いたのか魔族は鋭い踏み込みで迫って来た。

「う、うぁあ!」

  ククイは思わず悲鳴を上げ、死を覚悟する。

  ギンッ!

  しかし、死は一向に訪れる事はなかった。
  魔族の刃を受け止めてくれた人が居たのだ。
  彼は全身鎧に身を包み、分厚い盾を手にしている。
  鎧の冒険者はククイ達を背に庇い大剣を持った魔族を睨みつけた。

「俺はAランク冒険者鉄壁のジェノス、この俺が相手だ!」

「面白い、魔王グレース様の配下グラトンだ。
  かかって来い!」

  お互いに名乗りを上げた2人は激しく戦い始めた。
  その姿を目にしたククイの胸に、憧れと悔しさが込み上げてくる。
  それは、強さへの憧憬と弱い自分の不甲斐なさだった。
  
  2人の強者の戦いは鉄壁のジェノスの勝利に終わった。
  周囲を鋭く見回すジェノスに一言礼を言おうとククイが一歩近づいた時だった。

「破砕弾」

  ジェノスの鎧が粉々に砕けたのだ。
  しかも、砕けた鎧の破片は死の礫となって周囲の兵士や冒険者の命を奪って行く。
   腹に大穴を開けたジェノスはその場に崩れ落ちる。
  それを成したのは大柄な魔族の男だった。

「我こそは魔王グレース!
  さぁ、人間の兵士達よ、我が首を掲げ英雄となる者はいないか?
  我こそはという者は我が前に立つがよい」

  大柄な魔族は自らを魔王と名乗った。
  あまりの衝撃にククイは気が遠くなる思いだった。
  
「ククイ!ククイ!しっかりしろ!」

  ククイは兄の声に意識を戻す。

「あ、兄……さん……ごぼっ……」

  ククイは口から血を吐き出す。
  目線をズラせば自分の身体が血塗れになっている事に気付く。
  そしてすぐ近くには顔の上半分が吹き飛んでしまった先輩の姿があった。

「む、若き人間の兵よ、これも戦場の理りだ。許せ」

  グレースは腰から剣を引き抜きククイとククイを抱き上げる兄を目掛けて振り下ろす。

  ギンッ!

  しかし、またもや乱入する者が居た。

「こいつの相手は私がするわ。
  あなたはその子を救護所に連れて行きなさい」

「……は、はい!」
   
  乱入者の言葉に返事を返した兄は、ククイの身体を支えて急いで救護所に向かった。

  グレースはすでに興味はないとばかりに、急いでその場から離れる2人の兵士に手出しはしなかった。
  グレースの視線は乱入して来た女に注がれている。

「娘、尋常ならざる使い手と見受けるが、何者だ?」

「Sランク冒険者リゼッタよ」

  その言葉を聞いた魔王グレースは歓喜の声を上げる。

「そうか!
  お主があの『至高の冒険者』か!
    素晴らしい、この俺にその力を見せてみろ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...