上 下
357 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第3部《交錯する戦場》

13話 ガスト辺境伯家執事長 シルバ

しおりを挟む
  憤怒の形相を浮かべていたシルバだったが、自らの立場を思い出し軽く息を吐き出すと、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
  そして、相手の魔族がエバンスと名乗った事を思い出したシルバは自らも名乗る事にする。

「私はガスト辺境伯家に仕えるシルバと申します」

  シルバは優雅に、しかし隙を見せない様に礼を取る。
  シルバがこうして敵対者に対しても礼節を持って接するのは、ひとえに辺境伯家への忠義故のことだった。
  従者であるシルバの恥は、主人であるガスト辺境伯の恥となる。
  その為、シルバは常に辺境伯家に仕える者として相応しい振る舞いを心掛けていた。
  そんなシルバは、エバンスに対峙したままいつも胸のポケットに入れていたポケットハンカチーフを抜き取る。
  それは、シルバが辺境伯家に仕える事になった時に、20年前の戦争で名誉の戦死を遂げた先代のガスト辺境伯から与えられた物である。
  エバンスはその動きを警戒しているが、シルバは構う事なく、フレイド辺境伯から貰った片眼鏡モノクルと最近、アルベルトから貰った万年筆を取り出す。
  シルバは、それらをユーリアへと差し出した。

「ユーリア様、申し訳ございませんが少しの間、お預かり頂いてもよろしいでしょうか?」

「シルバ……」

  ユーリアは受け取った品々を見て、それらがシルバがいつも身に付けている辺境伯家の紋章が入った逸品である事に気が付いた。

「何がしたいんだジジイ、形見か何かか?」

  小馬鹿にした様なエバンスの言葉に、剣を握る手に力が入る。
  そして、自身が辺境伯家に仕える者である証を全て外したシルバは怒気と殺気を撒き散らしながら吼える。

「調子によるなよ、クソガキが!!!」

  身体強化の魔法を使ったシルバは地面を砕きながらエバンスとの距離を詰める。

「 ⁉︎ 」

「死ね」

  ドガッ!

  シルバの剣を受け止めたエバンスはその衝撃で数メートル弾き飛ばされた。

「ぐっ!」

  剣を受け止めた腕が痺れているエバンスは慌ててシルバを探す。
  しかし、目の前には驚きで目を丸くしている小柄な少女だけだ。

「 ⁉︎ 」

  エバンスは自身の勘に従って右に身体を投げ出した。
  すると、つい先程までエバンスの、身体があった場所に剣が叩きつけられる。 

「何がどうなってやがる!」

  エバンスは混乱していた。
  シルバの先程までの動きと今の動きがまるで違ったからだ。
  今までは洗練された剣術で戦っていた。
  エバンスはそれを見ていたし、一合打ち合ってシルバがとても綺麗な剣術を使う事に気が付いていた。
  しかし、今のシルバの動きは強力な身体強化を使って力任せに剣を振るう豪剣だった。

「はぁぁ!」

「す、ストーンピラー」

  雄叫びを上げて大振りの一撃を放つシルバの目の前に大きな石柱を作り出す。
  これで剣が止まった所で懐に飛び込むと考えていたエバンスだったのだが、その予定は水泡と化した。

「ぬぁあ!」

  なんと、シルバは力任せに魔力の篭った石柱を切り裂いたのだ。

「ぐぁっ!」

  エバンスの胸は石柱ごと深く切り裂かれた。
  
「ぐっ」

「終わりだ、大人しく死ね!」

  エバンスは激痛が走る身体に鞭を打ち、なんとか剣を頭上に掲げた。
  
「はっ!」

パリンッ!

  エバンスの剣は叩き折られ、右肩から左腰に掛けて袈裟懸けに斬り裂かれる。
  エバンスは消えゆく意識の中、自らが逆鱗に触れた事を後悔する。




「ふぅ、お見苦しい所をお見せしました。
  ユーリア様」

  深呼吸したシルバはいつもの笑顔を見せ、ユーリアに預けていた物を受け取り再び身に付ける。
  
「おっと」

「シルバ!」

  ユーリアは、ふらついたシルバを慌てて支えた。

「すみません、私ももう歳ですな」

  シルバとユーリアが下で戦う冒険者達に視線を移すとら逃げ出した魔物に冒険者達が勝鬨をあげる。
すでに大勢は決したようだ。
  
しおりを挟む
感想 890

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れスキル「両替」が使えないとスラムに追い出された俺が、異世界召喚少女とボーイミーツガールして世界を広げながら強くなる話

あけちともあき
ファンタジー
「あたしの能力は運命の女。関わった者に世界を変えられる運命と宿命を授けるの」 能力者養成孤児院から、両替スキルはダメだと追い出され、スラム暮らしをする少年ウーサー。 冴えない彼の元に、異世界召喚された少女ミスティが現れる。 彼女は追っ手に追われており、彼女を助けたウーサーはミスティと行動をともにすることになる。 ミスティを巡って巻き起こる騒動、事件、戦争。 彼女は深く関わった人間に、世界の運命を変えるほどの力を与えると言われている能力者だったのだ。 それはそれとして、ウーサーとミスティの楽しい日常。 近づく心の距離と、スラムでは知れなかった世の中の姿と仕組み。 楽しい毎日の中、ミスティの助けを受けて成長を始めるウーサーの両替スキル。 やがて超絶強くなるが、今はミスティを守りながら、日々を楽しく過ごすことが最も大事なのだ。 いつか、運命も宿命もぶっ飛ばせるようになる。 そういう前向きな物語。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...