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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第3部《交錯する戦場》

8話 リュウガ王国戦士団剣術指南役 ヤナギ

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  黒い少女が魔族を次々と葬って行く姿を視界の端に捉える。

「くっくっく、嬢ちゃんは大暴れしとるのぅ」

  その姿にニヤリと口角を上げたのは、鱗の色が濃くなった老いたリザードマン、ヤナギだった。
  ヤナギの故郷であるリュウガ王国は最近まで大陸の国家とは正式に国交を結んではいなかった。
  しかし、最近ではミルミット王国を中心に各国と細々とした交流を持つ様になっていた。
  そこにやって来たのがこの戦争である。
  リュウガ王国は地形的に孤立している。
  その為、魔族に攻め込まれる可能性は低い。
  だが、もし大陸の国家が敗北すれば、リュウガ王国も安全とは言えなくなってくる。
  そして、感情的な事を言えば、以前魔王の襲撃を受けた報復をしたいと言う思いもなくは無い。

「死ね、トカゲ野郎!」

  魔族の指先からファイヤーボールが放たれ、ヤナギに迫る。
  ヤナギはぬらりと腰に佩びた刀を抜く。
  まるで水が滴る様な妖艶な光宿した刀でファイヤーボールを斬り裂く。

「獅子戸流、炎刃」

  斬り裂かれ、消滅する筈だった炎は新たに刃を作り出しファイヤーボールを放った魔族を焼き尽くす。

「ぬぉぉお!」

  大きなウォーハンマーを振り上げた魔族が迫ってくる。

「ふむ、儂の相手はハズレばかりじゃな」

  ヤナギは刀を鞘に納め、腰を落とす。

「獅子戸流、疾風」

  ウォーハンマーを持った魔族は一瞬にしてヤナギを見失ってします。
  つい先程まで目の前に居た筈のリザードマンの掻き消えてしまったのだ。
 
「な、何処に逃げた!」

「逃げてなどおらんよ」

「な、貴様、いつの間に」

  ウォーハンマーを持った魔族はいつの間にか自分の背後に移動していたリザードマンに驚愕する。
  するとリザードマンは手にしていた刀を再び鞘に落とす。
  すると、魔族に視線も向けずに歩き去ろうとした。

「貴様、何処に行くつもりだ!」

「煩いのぅ、死体が喋るで無いわ」

「へ……」

  ウォーハンマーが音を立て地面に落ちる。
  魔族が自分の足元に転がる愛用のウォーハンマーを視線を遣る。
  そこには苦楽を共にしたウォーハンマーとウォーハンマーを握った自分の右手が転がって居た。

「え……」

  ドサッ

  更に視線をずらすとすぐ近くに自分の左腕が落ちている。

「あ……」

  そして、魔族の身体はバラバラに崩れ落ちて行った。

「う~む、折角の大戦、出来れば儂ももう少し手応えの有る奴と殺りたいんじゃが…………目ぼしい奴は嬢ちゃんに取られてしまったのぅ」

  ヤナギはそんな魔族に興味も向けずに次の相手を探し始めた。
  


  ぶぉぉお!!


  大きな笛の音が響く。

「なんじゃ、もう撤退か」

  既に、2度目の戦いが始まった数時間が経っていた。
  辺りはすぐに暗くなる。
  此処からは夜襲への備えと休息の時間となる。
  日が落ちてしまっては敵も味方も分からなくなってしまう。
  魔族の陣地からも笛の音が聞こえると、魔族軍も波が引くように退がって行った。

「もし、嬢ちゃんに会えたら明日は儂にも敵を回す様に頼んでみるかのぅ?」

  ヤナギも自らの属するリュウガ王国戦士団の陣地へと戻って行くのだった。
  
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