上 下
349 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第3部《交錯する戦場》

5話 グリント帝国宮廷薬師長ガボン

しおりを挟む
  とうとう、人類連合軍と魔族軍の戦闘が始まった。
  つい先程最前線の兵達が刃を交えたのだ。
  その鬨の声はガボンが居る後方の陣地まで、地響きの様に響いて来た。
  ガボンが居るのはミノス砦と前線の中間に設営された陣地だ。
  そこには治癒魔法使いや薬師などが集められ、救護所として機能している。
  少し前からは、ちらほらと負傷者が運び込まれ始めた。
  まだ、そんなに数は居ないがその内手が回らない程の負傷者が運び込まれて来るだろう。

「ガボン薬師長、毒を受けた兵が居ますので解毒をお願いします!」

「わかった」

  ガボンは自分を呼びに来た部下について行く。
  治癒魔法での解毒はかなりの高等魔法であり、また魔力の消費も激しい為、毒を受けた者はなるべく薬で治療する方が効率が良かった。
  ガボンは毒で苦しむ兵士の様子を観察する。

「コレはポイズンラットの毒だな」

  毒を特定したガボンは手早く解毒薬を調合する。
  長年の経験に裏打ちされたその技術は、淀みなく解毒薬を作り上げて行く。
  
「ほら、出来たぞ。
  飲ませてやれ」

「はい」

  部下に解毒薬を手渡したガボンは、別の負傷者のところに足早に駆けて行った。



「ふぅ」

  ようやく波がさった頃、ガボンは一息ついて杯の水を飲み干した。
  前線では一旦両軍が離れ、次の衝突に備え態勢を整えている。
  魔族は強靭な身体と高い魔力を持っている種族ではあるが、数では連合軍の方が圧倒している。
  その為、全体的には連合軍が有利に見えるが、魔族の中にも特出した実力者がいる様で、強大な力を持つ魔族の周囲では多大な被害が出ている。
  
「ん?」

  不意にガボンの頭上を影が過ぎった。
  上を見上げたガボンのすぐ近くに巨大な鳥型の魔物が舞い降りて来た。
  周囲に居た薬師や治癒魔法使いは慌て距離を取り、陣地の警備をして居た兵士達が魔物を取り囲み槍を掲げた。

「武器を下ろせ!
  彼女は敵ではない」

  ガボンは兵士達へ叫んだ。
  その鳥型の魔物は何度か見せてもらった事があった。

「すみませんね、驚かせてしまったみたいで」

  巨大なサンダーバードから飛び降りて来たのはこの辺りでは珍しい黒髪に黒い瞳の少女だった。
  少女はリュウガ王国の戦装束の上に夜空を写し取った様な漆黒のローブを身に纏っている。

「久しぶりじゃなユウ殿」

「ガボンさん、お久しぶりです」

「ユウ殿も治療要員として雇われたのかのぅ?」

「いいえ、わたしは戦闘要員ですよ。
  もし、強力な毒などを使われたら治療に回りますが、戦争ではあまりコストの掛かる毒は使われないらしいですからね」

「そうか、ユウ殿の技術を勉強させて貰えるいい機会だと思ったのだがな」

「すみません、わたしはリゼさんに頼まれて次の衝突で特に強力な魔族を各個撃破して行く事になっているのですよ」

「ふむ、では何故こちらに?」

「ああ、それは…………リリ」

「は、はい、師匠!」

  ユウ殿が呼ぶとサンダーバードの背中から少女が1人飛び降りて来た。
  背丈はユウ殿と変わらないが、容姿はこの国でよく見る物だ。

「わたしの弟子のリリです。
  辺境で待っているのは嫌だと言うので連れて来ました。
  辺境の街で待たせて置くより、目の届く場所に居る方が安心ですからね。
  それに、ここでなら多くの経験を積めますしね」

「ユウ殿の弟子か…………羨ましいな」

「ご迷惑はかけませんので使ってやって下さい」

「わかった。
  ワシはガボンじゃ、よろしくなリリ嬢ちゃん」

「はい、よろしくお願いします」

  ユウ殿はリリ嬢ちゃんを残してサンダーバードに乗って飛び立って行った。

「さて、リリ嬢ちゃん。
  すぐに怪我人がわんさかやって来る。
  急いで準備するぞ」

「はい!」

  ガボンはリリを連れて天幕へ駆けて行った。
しおりを挟む
感想 890

あなたにおすすめの小説

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...