神々の間では異世界転移がブームらしいです。

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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》

145話 ランスロット、執念と練磨の日々

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「うっ、ぐぁぁあ!」

  コルダールが呪いを掛けた剣に手を触れた瞬間、激痛と共に耐え難い破壊衝動と人を斬りたいと言う渇望が芽生える。
  自我を押しつぶす様な強烈な呪いをキリナを救いたいと言う意志で押し留める。
  髪は色が抜け真っ白に変わり、目からは血の涙が流れ出す。

「あ、かっは、くっ!」

  俺は、身体が千切れる様な激痛を無視して歩き出した。
  目指したのは街道、目的は人を斬る事だ。
  彼女の呪いを解く為なら俺の全てを捨てる覚悟だった。
  俺は食事も睡眠も取る事なく、獲物を探して数日の間フラフラと街道を彷徨った。
  そして、前方から歩いてくる旅人を発見した。
  長旅と言うわけではないのか、随分と軽装だ。
  小さなカバンを持って旅用のマントを羽織っている。
  帽子を目深に被っている為、顔は分からなかったが体型から小柄な男だろう。
  俺は呪いの剣を握り閉めて駆け出した。

「 ⁉︎ 」

  俺に気づいて驚く男に剣を振り下ろす。
  そこには一切の躊躇いなどは無かった。
  
フッ

  しかし、剣は男を切り裂く事はなかった。
  男が剣の腹に手の甲を当て、斬撃を反らせたのだ。

「ぐっ!」

  俺は直ぐに刃を返して横薙ぎに剣を振る。
  だが、男は素早く後ろに退がりこれを躱した。

「なんだ、お前は?」

  男は怪訝な顔で訪ねてくる。

「あ、ぎぎ、お、お前に怨みはない……これは……ぐっ……全て俺の所為だ……っ!……俺怨んでくれ」

  男に懐に飛び込んだ俺は渾身の斬撃を放つ。
  一閃、二閃、と繰り出す斬撃は呪いの力なのかボロボロの身体から放たれた物とは思えない程の鋭さを持って男に襲いかかる。
  しかし、それさえも全て男は受け流して見せた。

「お前、呪われているな…………その剣か」

「うるさい!」

  俺は身体を突き動かす呪いに従って、連続で突きを繰り出す。
  その突きを男は次々に躱す。
  男の首から下げられて光を宿した指輪がその動きに合わせて揺れる。
  その指輪が目に入った男は目を見開く。

「コレは……まさか、お前が?」

  最後に渾身の力を込めた突きを紙一重で躱した男は、素早く剣を抱える様に手を当てる。

「ふんっ!」

バリンッ、

  男はあっさりと呪いの剣の刃を砕いた。
  
「そんな……」

「ふっ!」

「がはっ!」

  男は唖然とする俺を蹴り飛ばした。
  呪いの剣を失った俺はもう立ち上がる事は出来なかった。
  男が俺に近づいて来る。
 
「…………逃げないのか?」

「…………俺はあんたを殺そうとしたんだ。
  殺されても文句は言えないさ」

「お前、なんで呪いの剣なんかを使っていた?
  その口振りは、呪いの剣だと分かっていたのだろ?」

「………………」

  俺は男に全てを話した。
  呪いの剣を失った俺にはもうどうする事出来ない。
  呪いの力を使っても旅人の男にも勝てなかったんだ。
  もう、俺にはキリナを助ける事は出来ないのだろう。

「お前、強くなりたいのか?」

  男はそんな事を尋ねてきた。

「……強く……なりたい!」

「強くなって何をするんだ?」

「キリナを……救う……そして守る……今度こそ!」

「そうか……お前を強くしてやっても良い。
  だが、死ぬかも知れないぞ?」

「強くなれるなら……キリナを助ける事が出来るなら死んでも構わない!」

「そうか分かった。
  だが、今は休め」

「 ⁉︎ 」

  何をされたのかは分からない、だがそこで俺の意識は途切れてしまった。




「は⁉︎」

  目を覚ました俺は慌てて周囲を見回す。
  そこは村の広場だった。

「目が覚めたか?」

  男がやって来た。

「石にされた村人には状態保存の魔法を掛けておいた。
  コレで風化などから守れるだろう。
  数日もすれば国の者が派遣されて来るはずだ。
  お前は俺と修行だ。
  直ぐに旅立つ用意をしろ」

「なんで……俺を……」

「………………コレに触れてみろ」

  男は首から提げていた光る指輪を差し出した。

「………………⁉︎ 」

  少し躊躇ったが、俺が指輪に触れると光が溢れ出して来た。
  そして、光が消えると俺の右腕には大きな痣が出来ていた。

「な、なんだ、コレは⁉︎」

「それは、炎の紋章だ」

  男は俺に勇者と精霊の紋章について語った。
  
「勇者と協力すれば魔王コルダールを倒す事も可能だろう」

  俺は、男のその言葉に頷き立ち上がった。
  身体の痛みは無い。
  男が魔法で治癒してくれたらしい。
  俺は荷物をまとめ、家に中にドーラさんとキリナを運ぶと、石となった冷たいキリナにキスをすると家をでて広場で待つ男と合流する。

「…………俺はランスロットだ。
  よろしく頼む」

「ん、ああ、そう言えば名乗ってもいなかったか」

  男は帽子を取り、この辺りでは珍しい黒髪と黒い瞳を露わにした。

「俺は伊波イナミ山内ヤマウチ、300年前に勇者ヒロシと共に邪神と戦った」

  イナミはそこで言葉を区切り、ニヤリと笑みを浮かべる。

「『大賢者様』って奴だ」
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