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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》

144話 ランスロット、怒りと絶望の日々

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  キリナと結婚した俺は、静かで平穏な生活を続けていた。
  しかし、そんな暮らしはある日、突然終わりを迎えた。

  その日はいつも通り、ドーラさんと一緒に狩りに出ていた。
  森で大きなイノシシを仕留めた俺達は、いつもより早めに切り上げて村へと戻った。
  ドーラさんの家の庭でイノシシを解体して行く。
  俺は、キリナと結婚してからはドーラさんの家のすぐ裏に新しく小さな家を建て、2人で住んでいた。
  とは言え、ドーラさんの家はすぐ裏だ。
  結局ほぼ毎日、一緒に食事をしていた。
  
「じゃあ俺は肉をみんなに分けてくる。
  ついでに野菜を貰ってくるから、ランスは片付けを頼む」

  そう言い残すとドーラさんは立ち去って行った。
  その後、解体の後片付けを終えた俺は家に戻った。
  家に入るとキリナが食事の用意をしていた。

「あ、お帰り。
  今日は早かったのね?」

「ああ、大きなイノシシを仕留めてな。
  早めに帰って来たんだ」

「そうだったんだ。
  お父さんは?」

「ん?
  まだ、帰って来ていないのか?」

  いつもなら俺が後片付けをしている間に肉と野菜を交換して貰ったドーラさんが少し早く帰って来ている筈なんだが……

「誰かと話し込んでるのかな?」

  しばらく待ってみたがドーラさんは帰って来なかった。

「私ちょっと探して来るね」

「ああ、俺も一緒に行こう」

    俺とキリナが連れだって家を出ると、ドーラさん息を切らせて駆け寄って来た。

「あ、お父さん!
  もう、どこ行ってたの?」

「ランス!
  キリナを連れて逃げろ!」

  ドーラさんは叫びながら玄関の前に立て掛けてあった剣を手にする。

「おいおい、そんなに逃げなくてもいいだろぅ?」

  ドーラさんを追う様に男が1人、ゆっくりと歩いて来た。

「おぉぉお!!!」

  ドーラさんは雄叫びをあげながら男に斬りかかる。
  しかし、男は剣を簡単に躱し、ドーラさんを殴りつける。
  
「ぐぁぁあ!」

「お父さん!」

「キリナ……逃げろ!」

  男が1歩、1歩と近づいて来る。
  その男は額に小さな角を持ち、浅黒い肌をしていた。

「な、なんでこんな所に魔族が⁉︎」

「さぁなぁ?
  俺だってこんな面倒な仕事はしたくねぇんだよぉ。
  だから、オメェらさっさと死ねよぉ」

  男はニヤニヤとこちらを見つめてくる。

「ぐっ!あぁぁあ!!!」

「お父さん!」

「ドーラさん!」

  ドーラさんが急に苦しみだす。
  そして、俺とキリナが見ている前でドーラさんの身体は石になってしまった。

「お、お父さん……」

「な、何が起きたんだ⁉︎」

「くっはっはっは、安心しなお嬢ちゃん、お前も直ぐに殺してやるからよぉ」

 あまりの出来事な唖然としていた俺は、男の言葉で正気を取り戻す。
  
「逃げろ、キリナ!」

  ドーラさんの剣を拾い上げた俺は魔族に斬りかかった。
  魔族は俺の剣を軽々と躱す。

「ランス!」

「逃げろ!
  俺が時間を稼ぐ!」

「はっはっは、女を庇って俺に挑むってんのかぁ?
  その割には弱いなぁ、そんな剣じゃあ女は守れないぞぉ?」

「ごはっ!」

  魔族の拳を受けて吹き飛ばされる。
  
「おいおい、その程度か?
  ほら立てよ、立たないなら女を殺すぞぉ?」

「うっぐ!」

  俺は痛みをこらえて立ち上がった。
  キリナはまだ戸惑っている。
  
「キリナ、逃げてくれ。
  頼む!」

「ランス……っ!」

  キリナは涙を流しながら踵を返した。
  後はキリナが逃げる時間をどれだけ稼げるかだ。





「ごふっ!

  口から大量の血を吐き出した。
  戦い始めて……いや、奴が俺で遊び始めてどれくらいの時間が経ったのだろうか?
  何時間も経った気もするが、実際は僅か数分程度なのだろう。
  俺の根性無しな膝は体を支える事を放棄して地面へと投げ捨てる。

「はぁ、はぁ、はぁ、ごほっ」

「くっはっはっは!
  情けねぇ奴だなぁ。
  もう終わりか?」

「コルダール様、この娘で最後です」

  別の魔族が現れて魔族の男に話しかける。
  
「おお、ナイスだグラァ!
  その女を寄越せ」

  コルダールと呼ばれた魔族はグラァと言う魔族が捕まえて来た人間を俺の前に突き飛ばした。

「あぐっ……」

「キリナ!」

「ランス!」

  キリナは逃げる途中にあのグラァと言う魔族に捕まってしまった様だ。

「おい、小僧。
  よく見ておけ」

  そう言うとコルダールはキリナへと視線を送った。

「あぁぁぁぁあ!!」

「キリナ!」

  俺は身体が次々と血が流れ出すのにも構わずキリナの所まで這って行き、彼女を抱きおこした。

「うっ、ぐぅ、ら、ランス……」

「キリナ!キリナ!」

「に……げ……」

「キリナァァア!!!」

  キリナはドーラさんと同じ様に石になってしまった。

「くっはっはっは!
  こいつは傑作だなぁ。
  そうだろぉ?
  お前が情けないから女は死んだ。
  お前が弱いから女は死んだ。
  そうだろぉ?
  なぁ、教えてくれよぉ?
  今、どんな気持ちなんだぁ?」

「あぁぁあ!!!」

  俺は折れた足で無理やり立ち上がり、血塗れの拳を振るった。
  しかし、拳はコルダールに届く事はなく、コルダールは俺を蹴り飛ばす。

「ごほっ」

「はっはっは!
  いいねぇ、気に入ったぞ小僧。
  いい事を教えてやる。
  この村の連中は生きてはいないが、まだ死んでもねぇ」

「 ⁉︎ 」

「この俺を殺せば石化の呪いは解けて元に戻せる」

  コルダールはドーラさんの剣を拾い上げるとしばらく剣を見つめる。

「だか、お前の様な雑魚がこの俺を、魔王コルダールを殺すなんて不可能だ。
  そこで……」

  コルダールはドーラさんの件を地面に突き立てた。

「この剣に呪いを掛けた。
  その剣で人を殺せば、殺すほど強くなれる。
  そうだな……500人くらい殺せば俺ともいい勝負が出来ると思うぜ。
  せいぜい、同族を殺して強くなるんだな」

「コルダール様、そろそろ……」

「ちっ、分かってるよぉ。
  たくっ、勇者の始末くらい雑魚どもでやってろよ」

  苛立った声で文句を言いながらコルダールはグラァを連れて村から出て行った。
  
「うっ、ぐっ」

  俺は全身から血を流しながらキリナの所まで這って行った。

「キリナ…………」

  呼びかけるが、石になったキリナは何も答えない。

「キリナ……俺は……」

  俺は分かっていた。
  誰かを犠牲にして彼女を救っても彼女はそれを喜ばないと言う事を。

「でも……俺は……」

  俺はキリナをそっと寝かせるとコルダールが地面に突き刺した剣にまで這って行き…………魔王によって呪われた剣に手を伸ばすのだった。
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