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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》

143話 ランスロット、愛と幸福の日々

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  村での生活の中で俺は、死に掛けていた俺を助けてくれた少女キリナに次第に惹かれて行った。
  しかし、この想いを彼女に伝える事は躊躇われた。
  俺は自分がどんな人間だったのか、それを思い出す事が出来なかったからだ。
  しかし、事態は急転した。
  ドーラさんが村の用事で家を空けていた日、俺はキリナに告白されたのだ。
  俺が、自分が何者か分からない為、想いには答えられないと伝えると、キリナは『今までのランスがどんな人だったのかは分からない。でも、この村で一緒に暮らしていた貴方と、これからもずっと一緒に居たいと思った』と答えてくれた。
  そんな彼女の想いに応えたいと思った。
  それからは幸せな日々が続いた。

「はい、お終い」

  キリナが薬草を煎じて作ってくれた薬を傷口に塗ってくれた。
  身体中にあった傷はすでにほとんど治癒している。
  目の下に大きな傷跡が残ったが、その程度だ。
  大怪我をしていた事を考えれば奇跡的な回復だろう。

「おい、ランス」

「はい」

  ドーラさんに呼ばれて庭に出た。

「ほれっ」

「おっと!」

  ドーラさんは立て掛けてあった2本の木剣を手にすると片方を投げ渡して来た。

「さぁ、打ち込んで来い」

「ちょっとお父さん!
  何やってんのよ、ランスは病み上がりなのよ!」

「もう大丈夫なんだろ?
  お前を任せるなら、それなりの強さがないと認める訳にはいかん」

「なにを……」

「キリナ、いいよ。
  ドーラさんの心配は当然だ」

  俺は木剣を構える。
  ドーラさんは元冒険者らしい。
  勝つ事は出来ないだろうが、認めて貰えるように全力で戦うだけだ。




「ふぅ、今日はこれくらいにするか」

「はぁ、はぁ、はぁ、は、はい」

  俺は息を整えながらドーラさんに答える。
  ドーラさんと戦った俺はやはり負けてしまった。
  しかし、どうにか『鍛えれば及第点』という評価を貰うことが出来た。

「ほら、2人ともお水だよ。
  ランスは大怪我をして死に掛けていたんだから無茶させないでよ。
  それに、お父さんももう若くは無いんだからね?」

「すまん」

「俺はまだまだ若いさ」

  受け取った水を飲み干し、3人で家に戻る。

「うぅ、ぐっ!」

  だが、玄関から家の中に入った時、俺の頭に激痛が走った。

「ランス!」

「ランス、如何した⁉︎」

  慌てる2人に答える暇も無く、俺の意識は闇へと沈んだ。

「うっ、こ、此処は……」

「ランス!気が付いたのね」

  そこは俺が使っている部屋のベッドの上だった。
  俺は靄が掛かったような頭を整理する。
  此処は……ミルミット王国の田舎の村だ。
  彼女は……キリナだ。死に掛けていた俺を助けてくれた。大切な人だ。
  俺は……ランスロット……ミルミット王国のサマール子爵家を廃嫡になり、王都から追放された………………盗賊の下っ端だ。

「ランス?」

「 ⁉︎ 」

「如何したの、やっぱりまだ何処か悪いの?」

「い、いや、疲れが出たのかな?」

「そう、とにかく今日と明日はゆっくり休んでね。
  それでも治らないなら大きな街の治療院で見てもらいましょう」

「あ、ああ」

「じゃあ、私、ご飯持って来るから」

「…………キリナ!」

  部屋を出ようとしたキリナを呼び止めた。
  俺は迷った。
  このまま、記憶を失ったフリをして暮らして行く事も出来る。
  だが……俺は彼女を騙し続けたくはなかった。
  俺は彼女に全てを話した。
  目が覚めた時に記憶が戻った事、貴族の生まれだが傲慢で愚かな貴族だった事、そして…………王都を追放されて盗賊になっていた事、全てを話した。
  キリナは俺の話を黙って聞いていた。

「すまない、君を騙すつもりは無かったんだ。
  明日になったらこの村を出て行くつもりだ」

「ダメだよ、一緒居るって約束したじゃない」

「だが、俺は盗賊だ。
  俺がこの村に居ると君に迷惑をかける」

「いいよ!
  迷惑を掛けてもいい、罪を咎める人が来たら私も一緒に償う!
  だから、私と……」

  キリナを抱きしめた俺の頬にはいつの間にか涙が流れていた。





  ナイフで指先を軽く切り、オババが差し出した盃に血を一滴垂らす。
  血は、盃に満たされた酒に混ざる。
  俺はその盃を手にすると、隣で同じ様に盃に血を入れたキリナへ渡し、彼女の血が入った盃を受け取る。
  そして俺達は同時に盃の酒を飲み干した。
  オババがそれを見届けるとその場に居る村の有力者達へ宣言する。

「神と精霊に成りかわり、確かにランスとキリナの誓いを見届けた」

  オババの言葉を聞いて村人達は歓声を上げる。
  それは果たして俺達を祝福しての物だったのか、それともこれから始まる村を上げての宴会への喜びか。
  答えは分からない。
  だが、新たな門出を祝福してくれる村人達が居て、隣には己の弱さや罪を受け入れてくれた愛する人が居る。
  これを幸せと呼ぶ事は、間違いであるはずがないだろう。
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