338 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》
143話 ランスロット、愛と幸福の日々
しおりを挟む
村での生活の中で俺は、死に掛けていた俺を助けてくれた少女キリナに次第に惹かれて行った。
しかし、この想いを彼女に伝える事は躊躇われた。
俺は自分がどんな人間だったのか、それを思い出す事が出来なかったからだ。
しかし、事態は急転した。
ドーラさんが村の用事で家を空けていた日、俺はキリナに告白されたのだ。
俺が、自分が何者か分からない為、想いには答えられないと伝えると、キリナは『今までのランスがどんな人だったのかは分からない。でも、この村で一緒に暮らしていた貴方と、これからもずっと一緒に居たいと思った』と答えてくれた。
そんな彼女の想いに応えたいと思った。
それからは幸せな日々が続いた。
「はい、お終い」
キリナが薬草を煎じて作ってくれた薬を傷口に塗ってくれた。
身体中にあった傷はすでにほとんど治癒している。
目の下に大きな傷跡が残ったが、その程度だ。
大怪我をしていた事を考えれば奇跡的な回復だろう。
「おい、ランス」
「はい」
ドーラさんに呼ばれて庭に出た。
「ほれっ」
「おっと!」
ドーラさんは立て掛けてあった2本の木剣を手にすると片方を投げ渡して来た。
「さぁ、打ち込んで来い」
「ちょっとお父さん!
何やってんのよ、ランスは病み上がりなのよ!」
「もう大丈夫なんだろ?
お前を任せるなら、それなりの強さがないと認める訳にはいかん」
「なにを……」
「キリナ、いいよ。
ドーラさんの心配は当然だ」
俺は木剣を構える。
ドーラさんは元冒険者らしい。
勝つ事は出来ないだろうが、認めて貰えるように全力で戦うだけだ。
「ふぅ、今日はこれくらいにするか」
「はぁ、はぁ、はぁ、は、はい」
俺は息を整えながらドーラさんに答える。
ドーラさんと戦った俺はやはり負けてしまった。
しかし、どうにか『鍛えれば及第点』という評価を貰うことが出来た。
「ほら、2人ともお水だよ。
ランスは大怪我をして死に掛けていたんだから無茶させないでよ。
それに、お父さんももう若くは無いんだからね?」
「すまん」
「俺はまだまだ若いさ」
受け取った水を飲み干し、3人で家に戻る。
「うぅ、ぐっ!」
だが、玄関から家の中に入った時、俺の頭に激痛が走った。
「ランス!」
「ランス、如何した⁉︎」
慌てる2人に答える暇も無く、俺の意識は闇へと沈んだ。
「うっ、こ、此処は……」
「ランス!気が付いたのね」
そこは俺が使っている部屋のベッドの上だった。
俺は靄が掛かったような頭を整理する。
此処は……ミルミット王国の田舎の村だ。
彼女は……キリナだ。死に掛けていた俺を助けてくれた。大切な人だ。
俺は……ランスロット……ミルミット王国のサマール子爵家を廃嫡になり、王都から追放された………………盗賊の下っ端だ。
「ランス?」
「 ⁉︎ 」
「如何したの、やっぱりまだ何処か悪いの?」
「い、いや、疲れが出たのかな?」
「そう、とにかく今日と明日はゆっくり休んでね。
それでも治らないなら大きな街の治療院で見てもらいましょう」
「あ、ああ」
「じゃあ、私、ご飯持って来るから」
「…………キリナ!」
部屋を出ようとしたキリナを呼び止めた。
俺は迷った。
このまま、記憶を失ったフリをして暮らして行く事も出来る。
だが……俺は彼女を騙し続けたくはなかった。
俺は彼女に全てを話した。
目が覚めた時に記憶が戻った事、貴族の生まれだが傲慢で愚かな貴族だった事、そして…………王都を追放されて盗賊になっていた事、全てを話した。
キリナは俺の話を黙って聞いていた。
「すまない、君を騙すつもりは無かったんだ。
明日になったらこの村を出て行くつもりだ」
「ダメだよ、一緒居るって約束したじゃない」
「だが、俺は盗賊だ。
俺がこの村に居ると君に迷惑をかける」
「いいよ!
迷惑を掛けてもいい、罪を咎める人が来たら私も一緒に償う!
だから、私と……」
キリナを抱きしめた俺の頬にはいつの間にか涙が流れていた。
ナイフで指先を軽く切り、オババが差し出した盃に血を一滴垂らす。
血は、盃に満たされた酒に混ざる。
俺はその盃を手にすると、隣で同じ様に盃に血を入れたキリナへ渡し、彼女の血が入った盃を受け取る。
そして俺達は同時に盃の酒を飲み干した。
オババがそれを見届けるとその場に居る村の有力者達へ宣言する。
「神と精霊に成りかわり、確かにランスとキリナの誓いを見届けた」
オババの言葉を聞いて村人達は歓声を上げる。
それは果たして俺達を祝福しての物だったのか、それともこれから始まる村を上げての宴会への喜びか。
答えは分からない。
だが、新たな門出を祝福してくれる村人達が居て、隣には己の弱さや罪を受け入れてくれた愛する人が居る。
これを幸せと呼ぶ事は、間違いであるはずがないだろう。
しかし、この想いを彼女に伝える事は躊躇われた。
俺は自分がどんな人間だったのか、それを思い出す事が出来なかったからだ。
しかし、事態は急転した。
ドーラさんが村の用事で家を空けていた日、俺はキリナに告白されたのだ。
俺が、自分が何者か分からない為、想いには答えられないと伝えると、キリナは『今までのランスがどんな人だったのかは分からない。でも、この村で一緒に暮らしていた貴方と、これからもずっと一緒に居たいと思った』と答えてくれた。
そんな彼女の想いに応えたいと思った。
それからは幸せな日々が続いた。
「はい、お終い」
キリナが薬草を煎じて作ってくれた薬を傷口に塗ってくれた。
身体中にあった傷はすでにほとんど治癒している。
目の下に大きな傷跡が残ったが、その程度だ。
大怪我をしていた事を考えれば奇跡的な回復だろう。
「おい、ランス」
「はい」
ドーラさんに呼ばれて庭に出た。
「ほれっ」
「おっと!」
ドーラさんは立て掛けてあった2本の木剣を手にすると片方を投げ渡して来た。
「さぁ、打ち込んで来い」
「ちょっとお父さん!
何やってんのよ、ランスは病み上がりなのよ!」
「もう大丈夫なんだろ?
お前を任せるなら、それなりの強さがないと認める訳にはいかん」
「なにを……」
「キリナ、いいよ。
ドーラさんの心配は当然だ」
俺は木剣を構える。
ドーラさんは元冒険者らしい。
勝つ事は出来ないだろうが、認めて貰えるように全力で戦うだけだ。
「ふぅ、今日はこれくらいにするか」
「はぁ、はぁ、はぁ、は、はい」
俺は息を整えながらドーラさんに答える。
ドーラさんと戦った俺はやはり負けてしまった。
しかし、どうにか『鍛えれば及第点』という評価を貰うことが出来た。
「ほら、2人ともお水だよ。
ランスは大怪我をして死に掛けていたんだから無茶させないでよ。
それに、お父さんももう若くは無いんだからね?」
「すまん」
「俺はまだまだ若いさ」
受け取った水を飲み干し、3人で家に戻る。
「うぅ、ぐっ!」
だが、玄関から家の中に入った時、俺の頭に激痛が走った。
「ランス!」
「ランス、如何した⁉︎」
慌てる2人に答える暇も無く、俺の意識は闇へと沈んだ。
「うっ、こ、此処は……」
「ランス!気が付いたのね」
そこは俺が使っている部屋のベッドの上だった。
俺は靄が掛かったような頭を整理する。
此処は……ミルミット王国の田舎の村だ。
彼女は……キリナだ。死に掛けていた俺を助けてくれた。大切な人だ。
俺は……ランスロット……ミルミット王国のサマール子爵家を廃嫡になり、王都から追放された………………盗賊の下っ端だ。
「ランス?」
「 ⁉︎ 」
「如何したの、やっぱりまだ何処か悪いの?」
「い、いや、疲れが出たのかな?」
「そう、とにかく今日と明日はゆっくり休んでね。
それでも治らないなら大きな街の治療院で見てもらいましょう」
「あ、ああ」
「じゃあ、私、ご飯持って来るから」
「…………キリナ!」
部屋を出ようとしたキリナを呼び止めた。
俺は迷った。
このまま、記憶を失ったフリをして暮らして行く事も出来る。
だが……俺は彼女を騙し続けたくはなかった。
俺は彼女に全てを話した。
目が覚めた時に記憶が戻った事、貴族の生まれだが傲慢で愚かな貴族だった事、そして…………王都を追放されて盗賊になっていた事、全てを話した。
キリナは俺の話を黙って聞いていた。
「すまない、君を騙すつもりは無かったんだ。
明日になったらこの村を出て行くつもりだ」
「ダメだよ、一緒居るって約束したじゃない」
「だが、俺は盗賊だ。
俺がこの村に居ると君に迷惑をかける」
「いいよ!
迷惑を掛けてもいい、罪を咎める人が来たら私も一緒に償う!
だから、私と……」
キリナを抱きしめた俺の頬にはいつの間にか涙が流れていた。
ナイフで指先を軽く切り、オババが差し出した盃に血を一滴垂らす。
血は、盃に満たされた酒に混ざる。
俺はその盃を手にすると、隣で同じ様に盃に血を入れたキリナへ渡し、彼女の血が入った盃を受け取る。
そして俺達は同時に盃の酒を飲み干した。
オババがそれを見届けるとその場に居る村の有力者達へ宣言する。
「神と精霊に成りかわり、確かにランスとキリナの誓いを見届けた」
オババの言葉を聞いて村人達は歓声を上げる。
それは果たして俺達を祝福しての物だったのか、それともこれから始まる村を上げての宴会への喜びか。
答えは分からない。
だが、新たな門出を祝福してくれる村人達が居て、隣には己の弱さや罪を受け入れてくれた愛する人が居る。
これを幸せと呼ぶ事は、間違いであるはずがないだろう。
4
お気に入りに追加
2,354
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜
白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。
光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。
目を開いてみればそこは異世界だった!
魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。
あれ?武器作りって楽しいんじゃない?
武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。
なろうでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる