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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》

139話 魔王との邂逅

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「精霊剣!」

  光の精霊の力を剣に集め、渾身の力で振り下ろす。
  
「ぐぁぁあ!」

  光を纏った剣は槍を横に構えて受け止めようとした魔族の男を槍ごと斬り裂いた。

「アビスランス」

  俺の背後迫っていた魔族をマーリンの魔法が貫いた。
  少し離れたところでは、ジンの援護を受けたバッカスの戦鎚が魔族の骨を砕いていた。

「この辺りにはもう魔族は居ないみたいですね」

「ああ、次に行こう」

  あれから俺達は8人もの魔族を倒した。
  一体魔族の目的はなんなのか……1つだけ思い当たるのは、ドックロック王国のダンジョン【精霊の庭】で出会った魔王コルダールだ。
  奴はゲームだと言った。
  俺の仲間を1人づつ殺して行くと。
  だが、初めに出会った魔族達は俺達を見て驚いていた。
  となると別に俺達を狙って現れた訳では無いと言うことなのか?
  ダメだ。
  今有る情報だけではいくら考えても答えは出ない気がする。

  俺は町の人間を襲っている魔族を見つけて斬りかかった。

「ぐあ!」

  人間をいたぶる事に集中していた魔族の背中に深い傷を作る。
  そしてフラついた魔族の胸をソフィアの剣が貫いた。

「大丈夫よ、傷は大した事ないわ」

  魔族に襲われていた女性に治癒魔法を掛けながらマーリンが話しかける。
  なんとか歩けるまでに回復した女性に宿がある方へ逃げる様に伝えると、俺達は悲鳴が聞こえる方へと走り出す。



「動くな!」

  倒した魔族の数が10を超えた頃だ。
  剣を振り降ろし、魔族にトドメを刺した俺に声が掛かる。
  そこに居たのは先ほど取り逃がしてしまった魔族だった。
  魔族の左腕には12歳くらいの少女が捕まっており、その細い首筋には短剣の刃が当てられている。

「くっ、卑怯な!」

  ソフィアが怒りを見せながら吐き捨てる。

「貴様、その娘を放せ!」

「はぁ?
  馬鹿かてめぇ、放せと言われてハイそうですかと放す奴がいる訳ないだろ。
  分かっていると思うが、少しでも妙な真似をしたらこのガキを殺すぞ」

  魔族に捕まっている少女は恐怖に震えながら涙を流し、泣き声を上げそうになるのを必死で堪えている。

「つい先程、俺達の指揮を執っている魔王グレース様に連絡を取った。
  直ぐに此処に来るだろう。
  それまで俺と遊ぼうぜ」

「ま、魔王だと……」

  魔王グレース、どうやら奴らはコルダールの配下では無くグレースと言う魔王の配下だった様だ。
  しかし、不味い。
  魔王と言うことは、グレースはコルダールと同格、ジンとバッカスが加わったとは言え、今の俺達では勝て無いだろう。
  
   ドガッ!

「ぐぁぁあ!」

「エリオ!」

  飛来した拳大の岩が俺を打ち据える。
  魔族が放った土属性魔法だ。

「はっはっは、情けねぇ声を上げやがって、こりゃあグレース様が来る前に死ぬんじゃねぇか?」

  次々と撃ち出される岩が俺達を吹き飛ばして行く。
  だが、あの少女のクビに短剣が当てられている限り、俺達は岩を避ける事も、反撃する事も叶わない。
  どれ程の時間か経ったのか……それは分からないが、岩の攻撃が止んだ。
  何とか身を起こし、魔族の方を見ると少女を人質にした魔族の横に2メートルはあろうかと言う巨体を持つ男が立っていた。
  その背の高さとは裏腹に身体は意外と細身だ。
  しかし、それは痩せている訳では無い。
  細く引き締まった筋肉が、まるで鎧の様にその身を包んでいる。
  街のギルドにいる様な筋肉自慢とはまるで違う、洗練された戦う為の筋肉だ。

「グレース様、奴らが勇者どもで御座います。
  この私、ハータックの魔法によりすでに虫の息。
  どうぞ、グレース様の手で首をお跳ね下さい」

  不味い、奴がグレースか。
  見るからに戦闘系、物理的な戦闘力ならコルダールよりも強そうだ。
  対してこちらは何とか生きているが、皆ダメージが大きく、まともに動く事もままならない。

「ハータックと言ったか?」

「はい、魔王コルダール様の配下、ハータックに御座います」

  なに⁉︎
  やはりコルダールが関わっていたのか。

「今回の任務は偵察だったはずだが何故勇者などと戦っているのだ?」

「はっ!
  それは……へへへ。
  偵察のついでにちっとばかし楽しんで行こうとかと。
  グレース様もどうですか?
  意外と人間の女も悪くは無いですよ」

「成る程、それからその少女はなんだ?
  その少女も勇者の仲間か?」

「いえ、このガキはその辺に居たただのガキです。
  勇者への人質にちょうど良かったもので…………あ!
  グレース様、意外とこう言うガキがお好みで?」

  くっ!
  不味い、不味い、不味い!
  せめてあの少女だけでも何とか逃がせないだろうか?
  仲間の方を伺うと、皆同じ事を考えて居たのか視線が重なる。
  こうなったら一斉に攻撃を仕掛けるしか無い。
  魔王には勝てないだろうがあの魔族の男を倒して少女だけでも救いたい。

「グレース様」

  俺達が飛び掛かるタイミングを計っていると更に魔族が1人やって来た。
  最悪だ。
  これでまた無謀な作戦の成功率が下がった。

「パサーか」

「はっ!ご報告致します。
  この街で人間を襲っていた者達の粛清が完了致しました」

「な!」

  新たに現れた魔族の言葉に人質を取っていた魔族ハータックは驚愕を浮かべる。

「グレース様!
  し、粛清とは一体どう言う事ですか⁉︎」

「聞いた通りだ。
  貴様らは偵察せよと言う命令に背いた。
  故に粛清する」

「な、な、な、何を!
  俺は、戦士として勇者を倒しがはっ!」

  ハータックがグレースに抗議の声を上げようとした時、つい先程までそこに居た筈のグレースの姿が掻き消えて、ハータックの背後に移動している。
  その左腕には人質となっていた少女が抱えられ、右手の剣はハータックの身体を貫いている。

「黙れ、魔族の面汚しが!
  戦う力を持たぬ者を道楽で殺し、幼子を盾に敵の動きを縛るなど戦士の行いでは無い!
  貴様は只の屑だ、恥を知れ!
  冥府で己の行いを悔いるがいい」

「う……がぁ……」

  グレースはハータックの死体を鬱陶しそうに打ち捨てると少女を地面へと降ろした。
  何が起きたのか分からないのか、少女はグレースとハータックの死体を交互に見る。
  
「勇者よ」

  グレースは何とか身を起こした俺に何かを投げ寄越した。
  毒か、はたまた火薬壺かと警戒したが、そんな事はなく皮袋は俺の手に収まる。
  それはずっしりと重かった。

「な、なんだ、コレは」

「金塊だ。
  俺の指揮下に居た者達の暴走によってこの町の人間に多大な被害を与えた。
  あいにくと人間の金は持ち合わせていない。
  被害に見合う金額とは言えないだろうがこの町の人間に渡しておけ」

  そう言うとグレースは報告に来た魔族に声を掛ける。

「帰るぞ、パサー。
  まったくコルダールの馬鹿は配下にどんな教育をしているんだ!」
  
「ま、待て!」

「ちょっと、エリオ!」

「馬鹿もん!帰ると言っておるのに呼び止める奴が有るか!」

  グレースを呼び止めた俺にマーリンとバッカスが抗議する。

「なんだ」

  グレースは顔だけ振り返る。

「俺を……殺さないのか?」

「ふん、手負いの貴様を殺して何を誇れと言うのだ?
  貴様に俺が今まで打ち倒して来た戦士達と肩を並べる程の価値など無い。
  この俺の勲の1つとなるならば、強者でなければならない」

  そう告げるとグレースは町のを出てラーナ渓谷の方へと去って行った。
  
 

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