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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》

134話 2人の帰還

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  薄暗い地下室に描かれた大きな魔方陣が俺の足下で淡い光を放っている。
  魔方陣の外にはパーティメンバーとレオとシア、レインさんと呪文を詠唱しているローザさんが居る。
  この地下室で解呪を始めて数日、毎日5時間程掛けて、少しずつ呪を解いているのだが、今日で完全に呪が解ける筈だ。
  これでようやくお荷物では無くなる。
  魔族との戦争が始まるまで約1年、紋章持ちはあと2人いる筈だ。
  どうにかその2人を見つけ出し、更に修行して強くならなければいけない。
  俺の脳裏には、あの日、圧倒的な強さを見せた魔王コルダールの姿が焼き付いている。
  奴の姿を思い出すと、怒りと共に恐怖や絶望感が湧き上がってくる。
  俺はその感情を意思の力で心の奥底に沈める。
  俺はカートの仇を討たなければいけない。
  怒りと使命感で無理やり自分を奮い立たせる。

解呪ブレイクカース

  ローザさんの魔法が魔方陣によって増幅されて俺の身体の中にある呪を溶かして行く。
  そして、ようやく魔方陣の淡い光が消え去る。

「成功です。
  これで、エリオさんの身体を蝕んでいた呪は完全に消滅しました」

「「「おお!」」」

  ローザさんの言葉にみんなが嬉しそうな声を上げる。
  俺もローザさんに頭を下げる。

「ローザさん、ありがとうございました」

「このくらいどうと言う事では有りませんよ。
  貴方は人々の希望の光。
  しかし、万能でも完全でもない。
  貴方が辛く苦しい時には必ず誰かが助けてくれるでしょう」

「はい、ありがとうございます」

  俺達は地下室から階段を上がり与えられている部屋に戻る。
  その途中、中庭付近の廊下を歩いている時に門の方から声が聞こえて来た。

「だ~か~ら~謝ってるじゃない?」

「謝っていますが反省をしていないじゃないですか!
  あんな無謀な事をして、もしわたしがオリオンを召喚するのが間に合わなかったらどうするつもりだったんですか⁉︎」

「それは……地面に向けてエアとか撃てば……こう……反動で、なんか良い感じに行くと思ったのよ」

「まさかそんなおバカな案を大真面目な顔で『考えが有る』とか言っていたのですか?」

「ユウちゃん、なかなか辛辣ね?」

「死に掛けましたからね」

  静かな王宮の廊下を2人の女性か騒がしく歩いている。

「ユウさん」

  ローザさんが軽く手を振りながら2人に声を掛けた。
  その横でマーリンがジンとバッカスにリゼッタさんの事を話している。
  あの至高の冒険者だと教えられた2人は目を丸くしている。

「ローザさん!
  レインさんも、王国に来てくれたのですか?」

「ええ、エリオさんの解呪もついさっき終わったわ」

「そうでしたか」

「ユウ先生の方はどうでしたか?」

「はい、こちらも問題無く揃える事が出来ましたよ」

「じ、じゃあユウ先生、エンシェントドラゴンに勝ったんですか?」

  レオが興奮気味に聞く。
  
「違いますよ。
  魔境の奥地で龍族の集落を見つけてその集落で交渉して血を分けて貰ったんです」

「ど、ドラゴンの村ですか⁉︎」

  俺は驚き尋ねた。

「本人達は龍族と名乗っていましたよ。
  まぁ、詳しい話は後でしましょう」

  ユウさんの言葉にここが王宮の廊下だった事を思い出したのだろう。
  レオは慌てて2人を部屋に案内する。

「そうですね、失礼しました。
  さぁ、ユウ先生、リゼッタ殿、こちらへどうぞ」

「ああ、私はいいわ」

  しかし、リゼッタさんはそれを断った。

「報告ならユウちゃんだけで十分よ。
  私の仕事はここでお終い。
  私は辺境に帰るわ」

「調合するので、数日待って貰えれば送りますよ?」

「いいわよ。
  王都の近くの知り合いとかにも会いに行くから」

「そうですか……」

「ええ、またガストの街で会いましょう」

「はい、お疲れ様です」

  俺は立ち去ろとするリゼッタさんにお礼を伝える。

「リゼッタさん、この度はお世話になりました」

「気にしないで、仕事よ。
  ああ殿下、報酬はギルド経由でお願いね」

「はい」

  報酬は王国が払ってくれる事になっている。
  これは本当に有難い。
  俺も憧れていた伝説の冒険者への報酬だ。
  俺なんかじゃとても払う事なんて出来ない。
  口々にお礼を言う俺達に軽く手を上げて答えたリゼさんは颯爽と歩き去ろうと振り返り……

  チリン!

……何かを落とした。

「リゼさん、何か落としましたよ?」

「え?」

  ユウさんが身をかがめて拾う。
  それは淡い光を放つ指輪たった。

「「「ああ!!!」」」

  その指輪を見て、俺達は驚く。
  マーリンは指輪を指差し声を上げる。

「そ、それ精霊の紋章が封じられたアイテムじゃないですか!」

「え、そうなの?」

「り、リゼッタ様、一体何処でこの指輪を?」

「何処だったかしら?
  何処かの遺跡か……行商人から買った物だったかしら?」

  どうやらリゼさんも何処で手に入れた物なのかはわからないみたいだ。
  指輪は淡く光を放っている。
  この近くに紋章に選ばれた人間が居るはずだ。
  取り敢えず応接用の部屋に移動した俺達は順番に指輪に触れてみる。
  すると……

「うわっ!」

  ジンが指輪に触れると強い光を放ち、光が治るとジンの腕に精霊の紋章が現れる。

「これは……風の紋章ね」

  ジンの腕の紋章を見て、マーリンが呟いたのだった。


===========================


  エルフの冒険者ジンの腕に風の紋章が現れてから数時間後、ミルミット王国の城下町を1人の女性が歩いていた。
  この大陸に3人しか居ないSランク冒険者の1人、リゼッタ・A・ドラゴンであった。
  リゼッタはフラフラと目的も無く歩き、やがて屋台などがあつまる広場へとやって来た。
  リゼッタは、その屋台の1つで果実水を2つ買うと近くのベンチに腰を降ろした。

「はい」

  リゼッタは2つある果実水の内、1つを隣に座って居た青年に差し出す。

「……………………いつから気付いて居たのですか?」

  青年は果実水を受け取ると一口味わう。

「私達が王都に戻ってすぐね。
  門の辺りを張って居たんでしょ?」

「敵いませんね…………それで、どうでしたか?」

  肩をすくめ降参だと態度で示した青年、クルスはリゼッタに尋ねた。

「あの指輪なら問題無く勇者くんの手に渡ったわ。
  適合する者がその場に居たのは予想外だったけど」

「そうですか……では僕はこれで」

「これから帰るの?
  大変ね」

「全くです。
  僕は貴女とは違って行き来するだけで命懸けですからね」

  クルスは、人族と同じ姿になっている顔に苦笑いを浮かべる
 
「ご馳走さまでした」

  そう言うとクルスは人混みの中へと消えて行った。
  
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