神々の間では異世界転移がブームらしいです。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》

103話 会議は踊る

「えー、改めまして……オーブと魔石が揃ったので作戦を実行に移したいと思います。
 シルバリエ様、実行にはどれ程の時間が掛かるでしょうか？」

「そうだな…………約1年、万全を期すなら1年半は掛かるだろう」

  セルジュの問いに答えたシルバリエだったが、その答えにグレースが口を挟む。

「随分と時間が掛かるな」

「失敗する訳には行かないからな。
  細かい確認と調整を何度も繰り返すとそれくらいの時間が必要だ」

「そうですね……リセルシア様はどう思われますか？」

  セルジュはリセルシアにも意見を求める。

「そうじゃのぉ……うむ、確かに慎重に行うべきだと言うシルバリエの考えは正しかろぅ」

  さっきまで少女が果実水を飲んでいた席には葡萄酒を口にする老婆が座っていた。
  リセルシアと呼ばれた老婆は、少し考えてからシルバリエの意見を支持した。

「そうですか……では、その様に致しましょう。
  その間、人間達に対しては現在と変わらず、リセルシア様が操る魔物による散発的な攻撃と情報の収集に努めると致しましょう」

「おい、勇者共はどうすんだよ」

  話を纏めようとしたセルジュにコルダールが待ったをかける。

「襲撃などは基本的に行いません。
  あちらから攻め込んで来たりした場合は撃退致しますが、人間の国に潜入してまで攻撃するのはリスクが高いでしょう。
  作戦を決行できれば、勇者など恐れることは有りませんからね」

「ちっ、何処ぞの人間がぁ勇者共に余計な力を付けちまったからなぁ」

  コルダールはセルジュの背後で魔導書を読んでいたエレインを睨みつけた。

「なんだ、私の事か？
  仕方ないだろう。
  闇のオーブは紋章持ちではなければ手に取ることができない様に封印されていたのだからな。
  奴らに取り出させるしかないだろう。
  その為には、私を信用させる必要がある。
  ゴブリン共に村を襲わせ、治癒の女神像をでっち上げ、行商人を使って噂を流しおびき出た勇者共に修行をつける事で奴らは私を信用したのだ」

「ならその後殺しておけばぁ良かっただろぉが」

「それは契約に入っていない」

「ちっ」

  殺気を撒き散らすコルダールだったが、セルジュの取りなしで矛を収めた。  
  そして、3～4つ程、その他の案件を話し合った魔王達は、席を立ち別れるのだった。
  

  魔王達の会談が行われていた城から外に出たシルバリエと付き従っていたザジを馬車が待っていた。
  その馬車の前には１人の魔族が控えていた。

「お疲れ様です、閣下」

「クルスか……」

  その魔族は、かつて『変身メタモルフォーゼ』を、使い、長期に渡り人間の国の学院へと潜入し、情報を集めさせていた腹心の1人クルスだった。
  シルバリエは周囲を軽く伺うと少し声を落とした。

「……首尾はどうだ？」

「はい、こちらで言う神金級オリハルコンクラスハンターに相当するSランク冒険者の１人、至高の冒険者リゼッタ・A・ドラゴンと接触し、協力を取り付けました」

「そうか、向こうの要求は？」

「特には……今の所は我々の事、魔王リセルシアがスタンピートを計画していた事を伝えただけです」

「そうか、ご苦労だった。
  戻って詳しく聞こう」

  そう言うとシルバリエ達は馬車に乗り込みその場を後にするのだった。