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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》
73話 吟遊詩人マウロ
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奇跡を起こすと言う不思議な神像がある村への旅の途中、俺達は少し大きな街で宿を取る事にした。
1階が酒場で上が宿と言うスタンダードな宿屋に2人部屋で2部屋を取ると、1階の酒場で食事をする事にした。
名物だと言う腸詰め肉のグリルといくつかの料理を注文しエールと共に舌鼓を打つ。
「ん?」
食事を楽しんでいると歌声が聞こえて来た。
声の主人を見ると旅の吟遊詩人らしい。
「『溢れる魔の軍勢 誅するに叶わず されど背後に愛する者 なれば逃げるに叶わず
勇め朋友よ 剣を掲げよ 誇れ戦友よ 我等は砦
我が身を盾に 覚悟を胸に 名もなく散る事こそ我が誉』」
「なかなか、良い声ね」
「そうだな、この歌は……『名もなき英雄達の戦記』だな」
数十年前、森から溢れ出した魔物が街に向かわない様に命を捨てて戦った兵士達を歌った物で、多くの吟遊詩人に歌われている定番の曲の1つだ。
「丁度良いわ、あの吟遊詩人にも精霊に関する物を知らないか聞いてみましょう」
「そうだな、吟遊詩人なら何か知っているかも知れない」
吟遊詩人は昔から歌われている定番の曲は勿論、自ら見聞きした風物や出会った冒険者や傭兵から聞いた冒険譚からオリジナルの歌を作曲する。
そして、他の吟遊詩人と出会った時にお互いのレパートリーを交換する文化があるらしい。
その為、吟遊詩人は行商人並みに、物語や噂などは行商人以上に敏感な者達なのだ。
俺達は吟遊詩人の歌が終わるまで待つ事にした。
その吟遊詩人は美しい歌声で様々な歌を歌った。
罪を犯した若者が愛を知り、己の罪に対する贖罪として、人々を救う旅に出る冒険譚。
高貴な騎士と奴隷の少女の恋愛詩。
口から吹雪を吐き、恐怖の視線と鋼の鱗、真っ黒な体を持ち、次々と貴族を襲い鋭い牙で臓物を啜る薬師から、貴族の少年が知恵と勇気で逃げ延びる恐怖譚。
など、レパートリーも豊富だった。
「さっきの曲は初めて聞いた曲でしたが面白かったですね」
「ああ、貴族の少年が中庭に追い詰められた時にはどうなる事かと思ったな」
「まさか黒い薬師の弱点が一角うさぎだとは予想外だったわ」
「しかも、一角うさぎを集めた貴族の少年に追い詰められた薬師が空を飛んで逃げるのは驚いたな」
歌い終えた吟遊詩人は荷物を片付けると出口付近の席に座り、食事を始める。
帰り始めた客達の多くは、吟遊詩人が机に置いた帽子に幾ばくかの硬貨を入れて行く。
一言二言、吟遊詩人に声をかけて行く者もいる。
そんな客が引くまで待ち、吟遊詩人が帽子に溜まった硬貨を回収した辺りで席を立つ。
カウンターのオヤジからエールを2杯受け取り、吟遊詩人の下に向かう。
エールをテーブルに置き、銀貨を1枚帽子に追加する。
「楽しませて貰ったよ」
「ありがとうございます。
まだまだ駆け出して、お恥ずかしい」
「いやいや、見事なものだったよ」
謙遜する吟遊詩人にエールを手渡す。
「まぁ、飲んでくれ」
「頂きます」
「ところで君に聞きたい事が有るんだけど良いかい?」
「私に分かる事なら構いませんよ?」
「ありがとう」
俺は視線でマーリン達に合図すると、みんながやって来る。
マウロと名乗った吟遊詩人と共に机を囲む。
自己紹介を済ませて早速、精霊に関する噂などを知らないか聞いてみる。
「精霊ですか…………精霊の泉以外にもいくつかの聞いた事が有りますが、他の吟遊詩人から聞いた話なので確証はありませんが、ロックドック王国にあるダンジョンに【精霊の庭】と言う場所があるそうです。
それとエイバ森林国にある【霧の大樹海】の奥地には大精霊が居ると言う話です」
「精霊の庭と霧の大樹海か」
どちらも知らなかった情報だ。
「ロックドック王国の次はエイバ森林国に向かうべきかしら?」
「1度ミルミット王国に戻っても良いんじゃないか?」
「ロックドック王国からならミルミット王国よりエイバ森林国の方が近いと思うぞ」
「まぁ、その辺はロックドック王国までの成果とかでも変わるだろう」
俺は予定を保留にすると、マウロに礼を言う。
「ありがとう、マウロ。
貴重な情報を教えて貰った。
コレは礼に取っておいてくれ」
俺は銀貨を数枚差し出すがマウロは受け取らなかった。
「私は吟遊詩人ですから、情報を売って商売をするつもりはありませんよ。
お礼なら是非、あなた方の冒険譚を聞かせて頂けませんか?」
成る程、新曲のネタ探しという事か、それなら良いネタがある。
「そうだな、それじゃあ、ついこの前のヤナバル王国の革命の話ならどうだ?」
「え、あの革命に関わったいたのですか⁉︎」
「ああ、レジスタンス……あ、今は革命軍か。
革命軍に雇われて戦ったんだ」
「是非、お話を聞かせて下さい」
俺は頷くとマクベスとロミオから口止めされている内容以外を語って聞かせた。
その話にマウロは満足してくれたようだった。
1階が酒場で上が宿と言うスタンダードな宿屋に2人部屋で2部屋を取ると、1階の酒場で食事をする事にした。
名物だと言う腸詰め肉のグリルといくつかの料理を注文しエールと共に舌鼓を打つ。
「ん?」
食事を楽しんでいると歌声が聞こえて来た。
声の主人を見ると旅の吟遊詩人らしい。
「『溢れる魔の軍勢 誅するに叶わず されど背後に愛する者 なれば逃げるに叶わず
勇め朋友よ 剣を掲げよ 誇れ戦友よ 我等は砦
我が身を盾に 覚悟を胸に 名もなく散る事こそ我が誉』」
「なかなか、良い声ね」
「そうだな、この歌は……『名もなき英雄達の戦記』だな」
数十年前、森から溢れ出した魔物が街に向かわない様に命を捨てて戦った兵士達を歌った物で、多くの吟遊詩人に歌われている定番の曲の1つだ。
「丁度良いわ、あの吟遊詩人にも精霊に関する物を知らないか聞いてみましょう」
「そうだな、吟遊詩人なら何か知っているかも知れない」
吟遊詩人は昔から歌われている定番の曲は勿論、自ら見聞きした風物や出会った冒険者や傭兵から聞いた冒険譚からオリジナルの歌を作曲する。
そして、他の吟遊詩人と出会った時にお互いのレパートリーを交換する文化があるらしい。
その為、吟遊詩人は行商人並みに、物語や噂などは行商人以上に敏感な者達なのだ。
俺達は吟遊詩人の歌が終わるまで待つ事にした。
その吟遊詩人は美しい歌声で様々な歌を歌った。
罪を犯した若者が愛を知り、己の罪に対する贖罪として、人々を救う旅に出る冒険譚。
高貴な騎士と奴隷の少女の恋愛詩。
口から吹雪を吐き、恐怖の視線と鋼の鱗、真っ黒な体を持ち、次々と貴族を襲い鋭い牙で臓物を啜る薬師から、貴族の少年が知恵と勇気で逃げ延びる恐怖譚。
など、レパートリーも豊富だった。
「さっきの曲は初めて聞いた曲でしたが面白かったですね」
「ああ、貴族の少年が中庭に追い詰められた時にはどうなる事かと思ったな」
「まさか黒い薬師の弱点が一角うさぎだとは予想外だったわ」
「しかも、一角うさぎを集めた貴族の少年に追い詰められた薬師が空を飛んで逃げるのは驚いたな」
歌い終えた吟遊詩人は荷物を片付けると出口付近の席に座り、食事を始める。
帰り始めた客達の多くは、吟遊詩人が机に置いた帽子に幾ばくかの硬貨を入れて行く。
一言二言、吟遊詩人に声をかけて行く者もいる。
そんな客が引くまで待ち、吟遊詩人が帽子に溜まった硬貨を回収した辺りで席を立つ。
カウンターのオヤジからエールを2杯受け取り、吟遊詩人の下に向かう。
エールをテーブルに置き、銀貨を1枚帽子に追加する。
「楽しませて貰ったよ」
「ありがとうございます。
まだまだ駆け出して、お恥ずかしい」
「いやいや、見事なものだったよ」
謙遜する吟遊詩人にエールを手渡す。
「まぁ、飲んでくれ」
「頂きます」
「ところで君に聞きたい事が有るんだけど良いかい?」
「私に分かる事なら構いませんよ?」
「ありがとう」
俺は視線でマーリン達に合図すると、みんながやって来る。
マウロと名乗った吟遊詩人と共に机を囲む。
自己紹介を済ませて早速、精霊に関する噂などを知らないか聞いてみる。
「精霊ですか…………精霊の泉以外にもいくつかの聞いた事が有りますが、他の吟遊詩人から聞いた話なので確証はありませんが、ロックドック王国にあるダンジョンに【精霊の庭】と言う場所があるそうです。
それとエイバ森林国にある【霧の大樹海】の奥地には大精霊が居ると言う話です」
「精霊の庭と霧の大樹海か」
どちらも知らなかった情報だ。
「ロックドック王国の次はエイバ森林国に向かうべきかしら?」
「1度ミルミット王国に戻っても良いんじゃないか?」
「ロックドック王国からならミルミット王国よりエイバ森林国の方が近いと思うぞ」
「まぁ、その辺はロックドック王国までの成果とかでも変わるだろう」
俺は予定を保留にすると、マウロに礼を言う。
「ありがとう、マウロ。
貴重な情報を教えて貰った。
コレは礼に取っておいてくれ」
俺は銀貨を数枚差し出すがマウロは受け取らなかった。
「私は吟遊詩人ですから、情報を売って商売をするつもりはありませんよ。
お礼なら是非、あなた方の冒険譚を聞かせて頂けませんか?」
成る程、新曲のネタ探しという事か、それなら良いネタがある。
「そうだな、それじゃあ、ついこの前のヤナバル王国の革命の話ならどうだ?」
「え、あの革命に関わったいたのですか⁉︎」
「ああ、レジスタンス……あ、今は革命軍か。
革命軍に雇われて戦ったんだ」
「是非、お話を聞かせて下さい」
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