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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第2部 《精霊の紋章》

16話 奥義

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  戦斧と刀の打ち合いは既に数十回を数えます。
  少しでも油断すると即、敗北と言う緊張感は久しぶりです。

「断空」

  ヤナギさんは、わたしの放った戦技アーツを魔法と同じ様に迎撃します。

「獅子戸流、空牙くうが

「これもダメですか」

  魔法と同じ様に返されたカウンターの斬撃を躱します。

「魔族の技を扱えるとは、器用なお嬢さんじゃ」

  そしてまた、戦斧と刀の打ち合いが始まります。
  
「っ!」

  お!
  ヤナギさんが不必要な大降りになりました。
  やはり、身体能力強化スキルが有るわたしと、老齢のヤナギさんとでは、わたしにアドバンテージがある様ですね。
  この期を逃すまいと、わたしは一息に距離を詰めます。
  
「甘いのぅ」

「⁉︎」

  そう言うとヤナギさんの手の平に小さな火が灯ります。
  とてもファイアーボールとは言えない小さな火です。
  おそらく、生活魔法の種火トーチに少し多めに魔力を込めたものです。
  
「相手の魔力が無ければワシの剣は無力とでも思ったか?」

  ヤナギさんの刀が自ら生み出した火を切り裂きました。

「獅子戸流、散火さんか

「ぐぅ!」

  わたしの目の前で爆発が起こりました。
  とっさに魔力を使って防御しましたが、かなりのダメージです。
  この大会では治癒魔法や回復系のアイテムの使用は禁止されているので戦闘中の回復は不可能です。
  まぁ、魔法薬はマジックアイテムに分類されるので、どの道禁止です。
  受け身を取り、即座に立ち上がると構えを取ります。

「流石じゃのぅ。
  まさか、あの距離で散火を受けて、かすり傷程度で済むとはな」

  やはり、マジックアイテム無しでヤナギさんには勝つにはアレを使うしか無いですね。

「強いですね、ヤナギさん。
  こうなったらわたしも全力で行かせて貰います!」

「ほぅ、さっきまでは本気では無かったと言うわけか?」

「本気でしたよ。
  ただ、全力では有りませんでした。
  ここからは全力で、本気です」

  正直、この武闘祭はお祭りの余興の様な物です。
  賞品は豪華ですが、手の内全てを晒して全力で勝ちに行くつもりは有りませんでした。
  しかし、気が変わりました。
  全力で勝ちます!

「光鱗!」

「む⁉︎」

  わたしの周りに現れた光の鱗に警戒したヤナギさんは、距離を取り、様子を見ています。

「魔装『鱗鎧スケイルメイル』」

「はっはっは、人間のお嬢さんが鱗を纏うか、面白い!」

「まだですよ、魔装『鱗戦斧スケイルアックス

  わたしが手にしていた戦斧に魔力の鱗が集まり、光り輝く戦斧となります。
  
ピシッ

  む、やはり、負荷が大きすぎる様ですね。
  おそらく1度振るえば戦斧が砕けてしまうでしょう。
  その1度で決めなくてはいけません!

「はっはっは、見事!見事じゃ!
  まさか、これほどの技を隠し持っておったとは!
  ならばワシも『全力』で持って相対するのが剣士たる者の礼という物であろう!」

  ヤナギさんは、そう宣言すると刀を腰だめに構え魔力を込めて行きます。
  わたしの戦斧と同じく、可視化する程の魔力が込められています。
  しかし、わたしの技を破る事は出来ないでしょう。
  わたしもここしばらく、弟子にしたリリに技術を教える日々を過ごしていましたが、その裏で密かに努力を重ねて来たのです。
  そう、その努力の結果、わたしはついにこの技にかっこいい名前を付ける事が出来たのです!
  リリに教える傍ら、必死で考えた甲斐がありました。

「行くぞ!
  獅子戸流奥義、厳龍げんりゅう!」

  ヤナギさんの放った魔力はまるで巨大な龍の顎の様に硬い石で出来た舞台を砕きながらわたしに迫ります。
  属性は付与されていませんが、リゼさんの『エア』と似た様な原理の技でしょう。
  ヤナギさんの奥義がわたしに迫ります。  
今こそ、お見せしましょう!
  遍く全てを断ち切るこの技を!

遍断ちあまねだち!」

  ヤナギさんの龍の顎とわたしの戦斧が激突し、舞台の石畳みが粉々に砕け散りました。
  もうもうと舞う、砂煙が晴れた時、わたしとヤナギさんは向かい合い、武器を手にしています。
  わたしは鉈を、ヤナギさんは匕首です。
  戦斧と刀は砕け散ってしまいました。
  わたしは鉈に魔力を込めて……え~と……そう!纏いです!
  纏いを使い、構えを取ります。
  ヤナギさんも匕首に魔力を……流す事はせず、鞘に収めると足元に置きました。

「ワシの負けじゃ」

「え⁉︎」

「ワシはもう、纏いを維持する程の魔力が残っておらん。
  その状態ではお嬢さんには勝てぬだろう。
  お嬢さんは強いな、久しぶりに楽しかったぞ」

  ヤナギさんはそう言い残し、控え室へと歩き始めました。

『勝者!ユウ!』

わぁぁぁぁあ‼︎

  集中を説いた瞬間、会場の喧騒が戻って来ます。
  興奮した実況の声と人々の歓声に軽く手を振り答えながらわたしも控え室へと戻るのでした。
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