上 下
153 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》

閑話 ボスと俺

しおりを挟む
  その日、俺は冒険者ギルドに来ていた。
  今日は組織の仕事は無い。
  その為、朝から簡単な討伐に出ていたのだ。
  訓練にもなり、情報も集まる為、組織には冒険者となる者も多くいる。
  また、元冒険者と言う者も多い。
  俺も表向きはCランク冒険者だ。
  討伐証明を渡して報酬を受け取ると目ぼしい情報が無いか確認し、ギルドを出る。
  しばらく歩くと広場にいくつもの屋台が出ている。
  俺は適当に串焼きを買うと食いながら歩く。
  すると1人のガキが俺の前に現れた。
  スラムで偶に見かけるガキだ。
  ガキは無言で俺に紙切れを差し出して来た。
  こう言ったやり取りは慣れている。
  このガキは組織のメッセンジャーだろう。
  受け取った紙切れにはいくつもの食材の名前と数、商店の名前などが書かれている。
  どう見てもお使いのメモであるが、コレは暗号だ。
  流石にガキに指令を書いた紙をバカ正直に持たせる訳がない。
  俺は人目に付かない路地に入ると改めて指令書を見る。
  大方、どこかのバカが任務に失敗したとかそんな物だろうと思って見たら、指令書の端にインクの跡を見て、緩んでいた気を引き締める。
  まるで、偶然インクが垂れた跡の様に見えるが、これはボスからの直々の指令書である印だ。
  最近、代替わりしたボスは、あまり直接指令を出す人では無かった。
  しかし、実力は先代以上、そして掟を破った者には一切容赦をしない恐ろしい人だ。
  暗号文を読み進めて行くと俺の血の気が引いて行く。
  幹部の1人、アレスが組織を裏切った様だ。
  それも、組織の暗殺者を勝手に動かしてルクス・フォン・ダインを襲撃し、更に治療に来た冒険者を狙い、返り討ちにされただけでなく、その冒険者を始末する為、孤児院のガキにも手を出したらしい。
  これは明らかに掟に反している。
  命令通りアレスを確保しなければ俺の命まで危ない。

「くそ、ついてねぇ!」

  俺はスラムに向けて走り出した。
  

  スラム奥、この辺りでは1番大きい建物から風に乗り新しい血の匂いが漂ってくる。
  それも1人や2人の量じゃない。

「ちっ!」

  俺が建物に乗り込むと更に血の匂いが強くなる。
  最上階からは剣戟の音が聞こえて来るのでまだ戦闘中なのだろう。
  頼むからアレスには無事でいて欲しい。
  俺の命がかかっている。


  部屋の中を伺うと黒髪の少女が巨大な戦斧を振り上げてアレスに振り下ろそうとしている所だった。

「その辺にして貰えないか」

「何者ですか?」

「俺はバラン、そこのバカと同じ高き釣鐘の幹部の1人だ」

「つまり、援軍ですか。面倒ですね」

  少女はこの国ではあまり見かけない黒髪に黒い瞳をしており、年齢は10歳から12歳くらいに見える。
  確か調べた情報では年齢は16歳だった筈だ。
  だが、そんな事は問題では無い。
  こうして、相対すると彼女の強さがよく分かる。

「いや、俺は君と敵対するつもりは無い。
  それに、君と戦って勝てると思うほど無謀でも無い」

「では、何故現れたのですか?」

「その男を引き渡して欲しい、その男は高き釣鐘を裏切り、違法薬物の規制を強めようとしていたルクス・フォン・ダインの首を手土産に堅固な水門に寝返ろうとしていたのだ。
  俺はボスの命令でその男を確保しに来た」

「なっ……うぐぅ」

  アレスの顔が驚愕に染まる。
  当然だろう、アレスだってボスの恐ろしさを知っている。

「その必要は有りませんよ、このバカは今ここで処分します」

「そこを曲げて頼む、勿論最後にはその男は処分されるが、こちらも組織としてケジメをつける必要がある」

「ひっ!」

「わたしの知った事では有りませんね」

  正論だが、なかなかに頑固な少女だ。

「そ、そそそうだ!おい、漆黒、俺を殺せ、あのガキを切り刻んだのは俺だ、殺せ!」

  アレスは己の身に起こる事態を思い、この場で死ぬ事を願った。
  その気持ちはよく分かる。
  だが、それを赦す訳には行かない。

「何を急に……そんなにケジメとやらが嫌なのですか?
  今、ここで殺される以上に?」

「当然だな、組織を抜けようとしただけなら指の数本で済んだ話だが、今回はボスの逆鱗に触れている。
  なぁ、アレス。
  ボスはお怒りだぞ。
  苦労して宮廷に潜り込ませた暗殺者を勝手に動かした事や、多くの暗殺者を無駄死にさせた事にも怒っているが、何より掟を破った事にお怒りだ。
  覚悟しておくと良い」

「ひっひっひっ……あ、あぁぁ!」

  アレスは手にしていた剣を自分の喉に当て切り裂こうとしたが、少女の手にした戦斧が翻るとアレスの腕は綺麗に切り落とされた。
  かなりの出血だったが少女が取り出したポーションに依って止血された。
  少女には感謝しなければならないな。

「どうやらよほどボスの怒りとやらが恐ろしい様ですね。
  良いでしょう持って行って下さい」

「済まないな、コレはウチのボスからの見舞金だ、このバカにやられたガキがいる孤児院に渡してくれ」

  俺は懐から白金貨を取り出し少女に投げ渡す。
  これもボスからの指示だ。

「分かりました。
  渡しておきましょう」

  少女が白金貨を受け取るのを見た後、アレスの胸ぐらを掴みあげる。

「嫌だ! 離せ! おい漆黒、俺を殺せ、頼む!」

「では、わたしは帰ります」

「ああ、迷惑を掛けたな」

「まったくです」

  少女は怒りを露わに立ち去って行った。
  
「ふぅ」

  安堵の息を吐く。
  正直、生きた心地がしなかった。
  あれは化け物だな。
  俺は喚き続けるアレスを引きずってアジトに向かった。


  アジトにアレスを連れ込んで3日がたった。 
  この3日間、アレスは組織の拷問を受け続けている。
  ああはなりたくない物だ。

「バランさん、ボスが到着されました」

「分かった、アレスを引っ張りだせ」

「はい」

  隣の部屋からアレスが引きずり出されて来る。
  もう、喚く気力もない様だ。

ギィ
  ドアの開く音がするとボスが部屋に入って来た。

「ご苦労様でした、バラン」

「ありがとうございます、ボス」

「バラン、私をボスと呼ぶなと言った筈ですよ」

  ボスの身体から僅かに殺気が漏れる。

「し、失礼しました」

  俺は慌てて頭を下げる。
  3日前にあった漆黒もヤバかったがやはりボスもヤバイ。
  この世界には俺などでは手も足も出ない奴らばかりだ。

「やぁ、アレス、久しぶりですね」

「ぼ、ボス、俺は、がぁ!」

  ボスの蹴りは既に胴体と頭のみとなっていたアレスを軽く吹き飛ばした。

「ボスと呼ぶなと何度言ったら分かるんですか?」

「お、俺は、あぐぁ!」

  アレスの言葉を待たず、ボスはアレスの喉元を強く踏みしめた。

「アレス、貴方は組織が何代にも渡り時間を掛けて宮廷に根を張っていた子爵家を潰し、皇帝の給仕に成るまで信用させていた暗殺者を潰し、10人以上の暗殺者を無意味に潰し、一体どれだけの損害を与えたと思っているですか?」

「お、がぁぁあ!」

「答える必要はありません。
  ただの独り言です。
  それに貴方は組織が300年間守ってきた掟を破ったですからね。
  貴方がこれからどうなるかは分かっていますよね?」

  ボスが懐に手を入れると魔法銃スペルキャスターを取り出した。
  小さめの魔法銃スペルキャスターだが遺物級アンティークの代物だ。

「あ……あ、あ!」

  ボスが引き金を引くとアジトに甲高い銃声が響き渡る。
  ボスの魔法銃スペルキャスターは装填した魔法石の種類で、弾丸が変化する能力がある。
  普段は土の魔石、石の弾丸が高速で打ち出される強力な武器だ。
  ボスはアレスの死体から興味を失った様にこちらに歩いて来る。

「戻ります、あまり時間を掛けると神父様が心配しますからね。
  バラン、馬車を出して下さい」

「はい、ボ!」

  危ない、つい、先代の時の癖でボスと言ってしまいそうになる。

「直ぐに用意します、シスターカーム」

  俺は下っ端共にアレスの死体の始末を命じると、孤児院に向けて馬車を出す為、修道服を翻すボスの後を追うのだった。




















しおりを挟む
感想 890

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜

里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」  魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。  実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。  追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。  魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。  途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。  一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。 ※ヒロインの登場は遅めです。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...