140 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》
132話 皇帝とわたし
しおりを挟む
謁見の間には赤い絨毯が敷かれていて、両端には貴族が並んでいます。
わたしは先ほど執事さんに教わった通り、まっすぐ進むと、階段状になっている場所の少し手前で足を止め、跪きます。
「面をあげよ」
皇帝陛下の声が謁見の間に響きます。
重厚感のある響きにはなんだか威厳とカリスマを、感じます。
わたしは顔を上げると皇帝陛下の顔を見ました。
初代皇帝の孫であるそうですが、見た目は30代くらいの偉丈夫です。
僅かに尖った耳を持っているので、エルフの血を引いているのが分かります。
「そなたが大陸の外から来たと言う薬師か?」
「はい、ユウと申します。ヤマト国の出身です」
「うむ、余がグリント帝国皇帝ハイランド・フォン・グリントである。
ヤマト国と言う国には心当たりはないが…………問題ないな。
我が甥の事をよろしく頼む」
「は、はい」
「もし、治療出来たのなら望む褒美を与えよう。
たとえ、治療が不可能であったとしてもそなたを咎める事はない。
頼んだぞ」
「はい、お任せください」
謁見はあっという間に終わり、わたしはルクス氏が休んでいる部屋に通されます。
ルクス氏は20歳過ぎくらいのイケメンです。
容体はあまり良くありませんね。
治癒魔法を交代でかけ続けていなければ、とっくに亡くなっていたでしょう。
わたしは血液や唾液を薬品に混ぜて検査をしています。
今回は毒薬を特定しなけれはいけません。
通常の解毒薬は効果が無かったみたいですから、特殊な毒薬を使われたに違いありません。
「これは……」
「何か分かったのかね?」
宮廷薬師長のお爺さんがわたしに声を掛けます。
余所者のわたしに好き勝手されても嫌な顔をせず、未知の知識を得られると喜んでいる、研究者タイプの人です。
「はい、これは『悪魔の血』と呼ばれる毒薬です」
「悪魔の血?」
「バジリスクの毒をベースにマンティコアやポイズントレントなどの複数の毒を合成した猛毒です。
即死させたりするほど強毒ではありませんが、非常に解毒が困難で致死率が高い為、暗殺に使われたのでしょうね」
「なんと、聞いたことのない毒薬じゃな」
「非常に珍しいですからね。
強力ではありますが、作成するのに希少な素材が沢山必要なのでお金が掛かるのですよ。
これを使うくらいなら、解毒されるかもしれませんが、バジリスクの毒をそのまま使った方が遥かに経済的なんです」
「なるほどの」
「今回は皇族の暗殺ですからね、高価ではありますが解毒が困難なこの毒を使ったのでしょう」
「ふむ」
「しかし、かなり危ない状態ですね。
こんな事なら呑気に謁見なんてしてないで治療に掛かるべきでした。
と言うかあの謁見は何か意味があったのですか?
ちょと顔を合わせたら終わりましたし」
わたしがそう口にした時です。
トアが開き皇帝陛下が入って来ました。
「手間を掛けて済まぬな、こちらにも色々と事情があるのだよ」
「し、失礼しました」
今のは失言でした。
不敬罪とかになりませんよね?
「ユウ殿は他国の出身故、疑問に思うのも無理はない」
今、少しだけ『疑問』を強調しましたね。
恐らく先ほどのわたしの失言はあくまで『疑問』であり、『批判』ではない、と言う事ですか、ここは有難く借りを作る事にしましょう。
借りを返すかは場合によります。
「今回、他国の者に甥を任せる事に反対している者もいるのだ。
また暗殺者が紛れ込むかも知れないと言ってな。
そんな奴らを納得させる為には余が直接ユウ殿に会う必要があったのだ」
「それで納得するのですか?」
「ああ、余は魔眼持ちでな、人の悪意を見る事が出来るのだ」
「悪意ですか?」
「うむ、邪悪な心や邪な考えを持つ者が分かるから余が直接会えばこちらを害する積りなのか、大体わかるのだ」
「凄いですね、それでも大体なのですか?」
「うむ、心の在り方は様々だ。
例えば人に害を与える事がその人の為になる事であり、善意から害を与えていると心の底から信じている邪教徒などは見抜く事が出来ぬのだ」
「相手次第と言う事ですか」
「うむ、それに甥の暗殺を企んだ者達が妨害を仕掛けてくる恐れもある。
ユウ殿はAランクの冒険者だと聞くがもしもの時、ユウ殿に罪を着せようとする者が出るかも知れんからな」
なるほど、それであの場で治せなくても不問と宣言してくれたのですか。
かなり配慮してくれているみたいですね。
「それで、甥の治療は可能なのか?」
「はい、この毒は複数の毒を混ぜて作られていますので1つ1つ解毒して行く必要があり、時間が掛かりますが治りますよ」
「おお、そうか、では頼んだぞ。
必要な物が有れば宮廷薬師長のガボンか、執事長のヤナンに言うが良い。
この2人とユウ殿に付けるメイドのマリサは信用出来る者達だ。
妙なちょっかいを掛けてくる者が居ればこの者達に報告しなさい」
「ご配慮、痛み入ります」
「うむ、あぁ、そうだ、治療が終わった後になるが褒美に何か望む物はあるか?
余に与えられる物ならば望む褒美を与えよう」
「んーそうですね、では何かマジックアイテムを下さい、陛下がわたしの功績に相応しいと考えられる物をお願いします」
「ほう、ククク、なるほど、これは面白い、良かろう。
治療したあかつきにはその働きに相応しいマジックアイテムを与えよう」
そう告げると皇帝陛下はなんだか機嫌良さそうに部屋を後にしたのでした。
わたしは先ほど執事さんに教わった通り、まっすぐ進むと、階段状になっている場所の少し手前で足を止め、跪きます。
「面をあげよ」
皇帝陛下の声が謁見の間に響きます。
重厚感のある響きにはなんだか威厳とカリスマを、感じます。
わたしは顔を上げると皇帝陛下の顔を見ました。
初代皇帝の孫であるそうですが、見た目は30代くらいの偉丈夫です。
僅かに尖った耳を持っているので、エルフの血を引いているのが分かります。
「そなたが大陸の外から来たと言う薬師か?」
「はい、ユウと申します。ヤマト国の出身です」
「うむ、余がグリント帝国皇帝ハイランド・フォン・グリントである。
ヤマト国と言う国には心当たりはないが…………問題ないな。
我が甥の事をよろしく頼む」
「は、はい」
「もし、治療出来たのなら望む褒美を与えよう。
たとえ、治療が不可能であったとしてもそなたを咎める事はない。
頼んだぞ」
「はい、お任せください」
謁見はあっという間に終わり、わたしはルクス氏が休んでいる部屋に通されます。
ルクス氏は20歳過ぎくらいのイケメンです。
容体はあまり良くありませんね。
治癒魔法を交代でかけ続けていなければ、とっくに亡くなっていたでしょう。
わたしは血液や唾液を薬品に混ぜて検査をしています。
今回は毒薬を特定しなけれはいけません。
通常の解毒薬は効果が無かったみたいですから、特殊な毒薬を使われたに違いありません。
「これは……」
「何か分かったのかね?」
宮廷薬師長のお爺さんがわたしに声を掛けます。
余所者のわたしに好き勝手されても嫌な顔をせず、未知の知識を得られると喜んでいる、研究者タイプの人です。
「はい、これは『悪魔の血』と呼ばれる毒薬です」
「悪魔の血?」
「バジリスクの毒をベースにマンティコアやポイズントレントなどの複数の毒を合成した猛毒です。
即死させたりするほど強毒ではありませんが、非常に解毒が困難で致死率が高い為、暗殺に使われたのでしょうね」
「なんと、聞いたことのない毒薬じゃな」
「非常に珍しいですからね。
強力ではありますが、作成するのに希少な素材が沢山必要なのでお金が掛かるのですよ。
これを使うくらいなら、解毒されるかもしれませんが、バジリスクの毒をそのまま使った方が遥かに経済的なんです」
「なるほどの」
「今回は皇族の暗殺ですからね、高価ではありますが解毒が困難なこの毒を使ったのでしょう」
「ふむ」
「しかし、かなり危ない状態ですね。
こんな事なら呑気に謁見なんてしてないで治療に掛かるべきでした。
と言うかあの謁見は何か意味があったのですか?
ちょと顔を合わせたら終わりましたし」
わたしがそう口にした時です。
トアが開き皇帝陛下が入って来ました。
「手間を掛けて済まぬな、こちらにも色々と事情があるのだよ」
「し、失礼しました」
今のは失言でした。
不敬罪とかになりませんよね?
「ユウ殿は他国の出身故、疑問に思うのも無理はない」
今、少しだけ『疑問』を強調しましたね。
恐らく先ほどのわたしの失言はあくまで『疑問』であり、『批判』ではない、と言う事ですか、ここは有難く借りを作る事にしましょう。
借りを返すかは場合によります。
「今回、他国の者に甥を任せる事に反対している者もいるのだ。
また暗殺者が紛れ込むかも知れないと言ってな。
そんな奴らを納得させる為には余が直接ユウ殿に会う必要があったのだ」
「それで納得するのですか?」
「ああ、余は魔眼持ちでな、人の悪意を見る事が出来るのだ」
「悪意ですか?」
「うむ、邪悪な心や邪な考えを持つ者が分かるから余が直接会えばこちらを害する積りなのか、大体わかるのだ」
「凄いですね、それでも大体なのですか?」
「うむ、心の在り方は様々だ。
例えば人に害を与える事がその人の為になる事であり、善意から害を与えていると心の底から信じている邪教徒などは見抜く事が出来ぬのだ」
「相手次第と言う事ですか」
「うむ、それに甥の暗殺を企んだ者達が妨害を仕掛けてくる恐れもある。
ユウ殿はAランクの冒険者だと聞くがもしもの時、ユウ殿に罪を着せようとする者が出るかも知れんからな」
なるほど、それであの場で治せなくても不問と宣言してくれたのですか。
かなり配慮してくれているみたいですね。
「それで、甥の治療は可能なのか?」
「はい、この毒は複数の毒を混ぜて作られていますので1つ1つ解毒して行く必要があり、時間が掛かりますが治りますよ」
「おお、そうか、では頼んだぞ。
必要な物が有れば宮廷薬師長のガボンか、執事長のヤナンに言うが良い。
この2人とユウ殿に付けるメイドのマリサは信用出来る者達だ。
妙なちょっかいを掛けてくる者が居ればこの者達に報告しなさい」
「ご配慮、痛み入ります」
「うむ、あぁ、そうだ、治療が終わった後になるが褒美に何か望む物はあるか?
余に与えられる物ならば望む褒美を与えよう」
「んーそうですね、では何かマジックアイテムを下さい、陛下がわたしの功績に相応しいと考えられる物をお願いします」
「ほう、ククク、なるほど、これは面白い、良かろう。
治療したあかつきにはその働きに相応しいマジックアイテムを与えよう」
そう告げると皇帝陛下はなんだか機嫌良さそうに部屋を後にしたのでした。
3
お気に入りに追加
2,361
あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる