上 下
129 / 418
神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》

123話 交渉とわたし

しおりを挟む
「では、私はテレサ様へ報告に参ります」

  マリルさんはわたしに軽く頭を下げるとテレサ様が待機する高級宿へと向かって行きました。
  怪人108面相はと言うと、庭で警備していた冒険者達に群がられています。
  ド派手な登場をしたのですから当然です。
  捕まえなくても報酬は貰えますが、捕まえれば特別報酬が貰えます。
  当然、駄目元で挑むでしょう。
  怪人108面相は、ステッキで次々と冒険者達を打ち倒して行きます。

「はっ!」

「む、なかなかやるのであるな!」

  《遥かな大地》の3人が連携を駆使して攻撃し、初めて、怪人108面相の足を止める事が出来ました。

「しかし、我輩を捕らえるにはまだまだ実力不足である!」

  怪人108面相は、リーナさんの弓の射線上にジークさんやガイルさんが入る様に、巧みに誘導しています。
  リーナさんの弓の援護が無くなったジークさんとガイルさんは、ステッキの一撃を受けて意識を刈り取られてしまいました。
  そして、リーナさんも弓を捨て、ナイフを抜きますが、ステッキで殴られ、意識を失います。
  これで冒険者側は、わたし以外全滅です。

「さて、後はお嬢さんだけだが……どうだね、我輩を通してはくれないか?」

「面白いジョークです」 

「お嬢さんはたしか、あの日、お姫様の隣にいた子だな。
  なるほど、お嬢さんが噂のAランク冒険者だね。
  たしかに、今までの者達とは格が違うな」

  フランクに話しながら近づいて来ていた怪人108面相がピタリと足を止めます。
  わたしの間合いのギリギリ外です。
  怪人108面相は当然それを把握しているのでしょう。

「投降する気はありませんか?
  テレサ様は悪い様にはしないと思いますよ?」

「そうであるな、恐らく、表向きには処刑されたと発表し、子飼いの隠密として、好遇して貰えるだろうな」

「そうですね。
  悪い話ではないと思いますよ?」

「だが断る!」

  こ、こいつ、いきなりぶっ込んで来ました。

「たしかに悪い話ではない様だが、我輩は誰かに縛られるのは御免である。
  我輩は自由を愛するのだよ。
  同郷であるお嬢さんなら我輩の気持ちも分かって貰えると思うのだがな」

「同郷……やはり貴方も日本人でしたか」

「肯定である。
  怪人108面相と名乗っていたのだから、この世界に来ている我輩以外の2人の日本人に気づかれていると考えるのが当然である。
  そして、日本人の容姿は目立つので丸わかりである」

「わたし達以外のもう1人は知っているのですか?」

「うむ、接触はしていないが、知っている」

「 どこに居るのですか?」

「それは……自分で探すのである!」

  そう言うと怪人108面相はステッキをレイピアの様に鋭く突き出してきました。

「わっと⁉︎」

「そろそろ、予告の時間なのである。
  お嬢さんには悪いが、お話はここまでである」

「いえいえ、遠慮する事はないですよ。
  ゆっくりとお話しましょう、領主様の屋敷の地下牢で。
  カツ丼……は無理ですがお刺身ならわたしのアイテムボックスに魚が沢山ありますし、わたしの手製のお醤油とお味噌も有りますよ?」

「なんと⁉︎
  醤油と味噌を自作したのであるか!」

  おお、この衝撃の事実を受けてもキャラを崩さずに口調を維持するとは、なかなかやりますね。
  彼のあの変態的な口調や性格は恐らく演技です。
  普段からアレでは正体がバレバレで仮面で顔を隠している意味がないのである……いえ、ないのです!
  わたしが彼の正体を暴こうと推理していると、衝撃から戻った怪人108面相がステッキを突き出しながら交渉して来ます。

ガキン
「我輩にも醤油と味噌を分けて貰えないか?」

キキン
「それが攻撃しながら言うセリフですか⁉︎」

ゴッ
「時間が無いのである。
  故に交渉と戦闘を同時に進めるのである」

キン
「斬新な考え方ですね」

ガス
「先進的と言って欲しいのである」

  会話を続けながらも繰り出される激しい突きを避け、反撃の隙を伺います。
  突きの中に時折混ぜられる横薙ぎや無詠唱のファイアーボールがいやらしいです。

ヒュッ
「いくらで売ってくれるかね?」

ボッ
「ん~お金には困っていないのですよね」

「ならばコレならどうだ?」

「何ですか、それ?」

  わたしから距離を取った怪人108面相がアイテムボックスからひと抱え程ある水晶があしらわれた置物を取り出しました。

「コレは高級品ハイクオリティのマジックアイテム、《安らぎの水晶》である」

「安らぎの水晶?」

「このマジックアイテムの効果を一言で説明するとエアコンである」

「なるほど、分かりやすいですね」

「この水晶を起動すると、温度、湿度などを快適な状態にしてくれるのである」

「おお、凄いです!」

  なんて素晴らしいマジックアイテムなのでしょう。
  
「この安らぎの水晶と醤油、味噌を交換して欲しいのである」

「いいでしょう、では現在わたしが作った醤油と味噌の半分と新しく作った物を1樽でどうでしょう?
  新しく作った樽はあと半年くらいで完成します」

「うむ、交渉成立である」

  わたし達は武器をアイテムボックスに収めた後、マジックアイテムと醤油、味噌を交換しました。
  そして、また距離を取ると武器を取り出し構えます。

「これで心置き無くお嬢さんを倒せるのである」

「こちらのセリフですよ」

  第2ラウンド開始です!












  
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

神々の間では異世界転移がブームらしいです。《サイドストーリー》

はぐれメタボ
ファンタジー
《番外編》 神々の間では異世界転移がブームらしいです。の番外編です。 《マーリンさんの学業奮闘記》 大賢者イナミの弟子、マーリンは師匠の命令でミルミット王国の学院に入学する事になった。 マーリンは、そこで出会った友人達と事件に巻き込まれて行く。 《迷宮都市の盾使い》 ミルミット王国最大の迷宮都市ダイダロスで迷宮に挑む冒険者達と全身鎧を身に付けた謎の冒険者の物語り。 《炎の継承者》 田舎に暮らす少年、カートは憧れの父親の背中を追って成長して行く。 《盃を満たすは神の酒》 エルフのジンとドワーフのバッカスは2人組の冒険者である。 彼等は神が醸造したと言われる伝説の酒を探して旅を続けていた。 そんな彼等が居た帝国の街に、とてつもない数の魔物が迫っていた。 《1人と1振り》 冒険者のヴァインはある日、奇抜な冒険者アークと出会う。 やがて共に旅をする様になった2人はミルミット王国のある街でとある依頼を受ける事になった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...