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神々の間では異世界転移がブームらしいです。 第1部 《漆黒の少女》

115話 代償とわたし

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  先程までの激しい戦いが嘘の様な静けさが訪れます。
  しかし、物音1つしない静寂とは裏腹に睨み合うわたしとグランアイズの間には、膨大な魔力が渦巻いていました。
  そして、先に静寂を破ったのはグランアイズの方でした。

「ぐるらぁぁあ!」

  辺境の岩石地帯に響き渡る咆哮を上げ、高密度の魔力を纏い、強い光を放つ爪を振り上げながら、わたしへと迫って来ます。
  
「はぁぁあ!」

  わたしは、グランアイズの咆哮に応じる様に、裂帛の気合いを込めて駆け出しました。
  グランアイズの動きがゆっくりと見えます。
  一流のスポーツ選手などが体験すると聞く、ゾーン体験と言うヤツです。
  見えるぞ!
  わたしにもグランアイズが見える!
  グランアイズの爪がわたしの顔に迫ります。 
  大きくかわすと水龍の戦斧を叩き込む事が出来ません。
  ギリギリの所で、紙一重で躱すしか有りません。
  膨大な魔力を纏った爪がわたしの左頬を掠めて行きます。
  激しく渦巻く魔力が、顔の左側をえぐって行く感覚をハッキリと感じました。
  ポーションで治るでしょうか?
  お嫁に行けなくなったら責任を取って貰わなければいけません。
  顔だけではなくグランアイズが纏っていた膨大な魔力は、わたしの全身に次々と傷を付けて行きます。
  夜天のローブの防御は貫け無い様で、致命傷は避ける事が出来ています。
  
「終わりです‼︎」

  それは、間違いなくこの世界に来てからの1年間で最高の1撃でした。
  わたしが下から掬い上げる様に振るった水龍の戦斧は、グランアイズの顎から額にかけて、抵抗無く両断したのです。

「ぐっがっ……」

  断末魔を上げたグランアイズの巨体が地面へと倒れ込みました。
  キチンと討伐を確認するべきなのですがとてもでは無いですが、そんな余裕は有りません。
  グランアイズの最後の攻撃により大きな傷を受けたわたしは、魔力の枯渇も相まって、その場に倒れこんでしまいました。
  朦朧とする意識の中、現在手に入る素材で作成できる最高のポーションを取り出し、震える手でどうにか口元に持って行きます。
  出血の所為か、血の味しかしないポーションを飲み干した所で何とか保っていた意識が、暗闇へと落ちて行きました。
  意識が消える直前、わたしの近くに大きな鳥の様な気配が降り立った様な気がしました。
  気のせいでは無い事を願います。




ズキッ!
「いっっったぁぁあ⁉︎」

  顔が焼ける様な強烈な痛みで目を覚ましました。
  人生で1番最悪の目覚めです。

「うっぐっ……いっつ!」

  身体中が痛みますが、特に顔が痛いです。
  アイテムボックスから高級品ハイクオリティのポーションをありったけ取り出し、バシャバシャと顔にかけ、ついでに何本が飲み干します。
  治癒魔法が使えないので仕方ありませんが、何とも格好の付かない回復シーンです。
  魔力不足のダルさは有りますが、何とか痛みも収まり、辺りを確認します。
  空の真ん中辺りにあった太陽もすでに沈みかけています。
  赤く照らされた岩山が何だかとても綺麗です。
  目の前にはグランアイズの亡骸があり、わたしの側ではオリオンが周囲を警戒しています。
  オリオンのそばにはところどころが焦げているオークの死体が何体か転がっています。
  オリオンがいなければ薄い本の様な展開になっていた所でした。
  女騎士でも無いのに『くっ殺』はしたくありません。
  身を起こすと少しフラつきます。
  魔力がまだ回復していないと言うのも有りますが、かなりの血を流してしまったのが不味かったです。

「キュー」

「ありがとうございます、オリオン」

  倒れ込みそうになったわたしをオリオンが支えてくれました。
  なんて出来た従魔なのでしょう。
  オリオンに寄りかかりながらグランアイズの亡骸をアイテムボックスに収納します。
  この亡骸をギルドに提出すれば、晴れてわたしもAランク冒険者です。
  しかし、疲れました。
  今までに、何度か死にかけた事も有りましたが、グランアイズの最後の攻撃は、リゼさんのアレと並ぶ程のヤバさでしたし、被害で言えばリゼさん以上です。
  わたしはポーションによって治癒した左頬に触れると、そのまま手を動かして顔を確認して行きます。
  傷付いた皮膚は、ちゃんと元どおりに治癒していますね。
  ここまで綺麗に治ってしまうと、逆に気持ち悪い気もします。
  しかし、いくら高級品ハイクオリティのポーションとは言えど、失った臓器をゼロから再生する事は出来ない様です。
  あれ程の死線をくぐったのですから、コレくらいは当然の代償なのかも知れませんね。
  某錬金術師の兄弟も言ってました。
  『何かを得るにはそれと同等の代価が必要だ』と……
  コレもAランクの資格を得るのに必要な代償だったのでしょう。
  
「仕方ありませんね」

  1人呟いたわたしは、失ってしまった左目に当てるべく、アイテムボックスから眼帯を取り出すのでした。












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