飴と薬と鎖鎌

はぐれメタボ

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アルタリア大陸編

35話 最下層『闘技場』①

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 その部屋は高い壁に囲まれた円形の広場になっていた。
  私達の正面の壁には両開きの大扉、そしてその扉を守る様に立つ大柄な魔物。
 所々に日々が走る壁の上には人気もなく閑散とした観客席もある。
 テレビや本で見た事がある。
 所謂、闘技場コロッセオと呼ぼれ場所だ。
  ここが最下層、《始まりの洞窟》のダンジョンマスターの部屋の様だ。

「……おい」

「ああ」

 マルクが魔物から視線を外さない様に小さく言うと、モルドが同じ様に答える。
 私達の正面で逃げ隠れする事なく堂々と立つ3体の魔物。
 緑色の肌を持った人型の魔物、ゴブリンだ。
 しかし、ダンジョンマスターがただのゴブリンである筈がない。
 左右に陣取るゴブリンはショートソードと革鎧に加えて大きな盾まで持っている。
 更に中央のリーダー格らしきゴブリンは鉄製の鎧兜を着込み、自身の身の丈程もあるバスターソードを持っている。
 気配も粗雑なゴブリンとは違い、風格の様な物を感じる。
 明らかに今まで戦ったダンジョンの魔物よりも格上だろう。
 
「アレって……もしかしてゴブリンキング?」

 ソニアが恐る恐る口にする。
 ゴブリンは多少喧嘩慣れしていれば村人でも倒せるくらいの弱い魔物の代表だが、その上位種ゴブリンキングともなると話は違う。
 ゴブリンキングは、単体の戦闘力もさる事ながら、下位のゴブリン種を統率し『国』を築き上げる。 
 それを放置すれば瞬く間に数を増やし、周囲の人々を蹂躙し始める。
 事実、歴史を紐解けばゴブリン滅ぼされた国は片手では数えられないほど存在する。
 ゴブリンキングとはそう言った恐怖の代名詞の様な魔物だ。
 
「いいえ、アレはゴブリンキングじゃないわ」

 しかし、私にはあの魔物がゴブリンキングでは無い事が分かる。
 そして、決して油断できる相手では無い事も……


『ゴブリンナイト』
○クラス
【騎士】
○スキル
【剣術】【盾術】【剛体】

『ゴブリンナイト』
○クラス
【騎士】【治癒師】
○スキル
【剣術】【治療術】【疾走】

『ゴブリンジェネラル』
○称号
【ダンジョンマスター】
○クラス
【武闘士】【剣士】
○スキル
【剣術】【格闘術】【疾走】【跳躍】【統率】



「ゴブリンナイトとゴブリンジェネラルよ!
 右のゴブリンナイトは【治癒師】のジョブを持ってるわ!」

「なに⁉︎
 よし、右のゴブリンナイトを先に狙うぞ!」

 小声で方針を指示したマルクは、タイミングを計り飛び出して行く。
 そのすぐ後をモルドが追従し、少し距離を開けて私と弓に矢をつがえたソニアが走る。
 
 それを見て取ったゴブリン達は、素早く立ち位置を入れ替えた。
 ゴブリンジェネラルが前に進み出ると、【治癒師】持ちのゴブリンナイトが一歩下がり、その前にもう一体のゴブリンナイトが陣取る。

「ちっ!ゴブリンの癖に考えてやがる!」

 マルクは舌打ち混じりに吐き捨てると、特攻を諦めゴブリン達から距離を取り構える。

「リン!範囲魔法を頼む!
 ソニアは奥のゴブリンナイトを狙え!」

「“竜巻ツイスター”」

 魔力で作り出した竜巻が風の刃を撒き散らしながらゴブリン達に迫る。

「ググギィ!」

 ゴブリンナイトが盾を構えて腰を落とすが、その姿は竜巻に巻き込まれて行く。
 しかし、【治癒師】のゴブリンナイトとゴブリンジェネラルはその鈍重そうな見た目とは裏腹に素早くその場を離脱し、ゴブリンナイトを巻き込み威力の弱まった竜巻の横をすり抜ける。

「速い!」

「スキルよ!あの2体は【疾走】を持ってるわ」

「ぐっ!」

 ソニアが何とか狙いを付けて矢を放つが、【治癒師】のゴブリンナイトを庇ったゴブリンジェネラルに切り落とされてしまった。

「作戦変更だ!まずは【治癒師】持ちのゴブリンナイトを分断する!
 モルドと俺がゴブリンジェネラル抑えるからリンは壁を作ってゴブリンナイトを隔離してくれ!
 ソニアは竜巻の方のゴブリンナイトの牽制だ!」

 モルドと共にゴブリンジェネラル向かってはしるマルクの指示を受けて、私は魔力を練りながらゴブリンナイトへ向かって駆け出すのだった。
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