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アルタリア大陸編
23話 文学のちに盗賊
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『勇者よ、其方に祝福を授けましょう』
天から光が降り注ぎ、神の祝福を受けし聖剣が勇者へと授けられた。
『ありがとうございます、この聖剣で必ず平和を取り戻して見せます!」
『頼みましたよ、我が勇者よ』
ガラガラと道を進む馬車の荷台でパラリとページをめくる。
アルリカの街への旅路は《大樹の雫》がギルドから借り受けた馬車で進んでいる。
現在の御者はマルク、モルドは盾を磨いていて、ソニアは私の隣で眠っている。
そして私はと言うとソニアから借りた本を読んで暇を潰していた。
本のタイトルは『勇者ネロ物語』。
内容としてはタイトル通り、敬虔な神の使徒であり、正義と博愛の心を持った聖者ネロが、神に聖剣を与えられて勇者として魔王を倒す旅に出ると言うものだ。
一応、史実らしい。
どこまで本当なのかは分からないけど。
しかし、この『勇者ネロ物語』はこの世界で大人気の物語だそうだ。
子供達は勇者ネロごっこで遊び、酒場では吟遊詩人がその冒険譚を歌い上げ、劇団では鉄板の人気演目となっている。
「しかし、なにも起こらないわね」
そう、ダラスの街を旅立って3日、私達は特に何も起こらない順調な旅路を進んでいた。
「いい事じゃねぇか」
手綱を握ったままマルクが答える。
「いい事だけどさ」
でも暇なのだ。
『勇者ネロ物語』だってすでに読み終わっている物を読み返しているのだ。
こんな事なら本屋で迷っていた『我が冒険人生3巻』を買っておくべきだった。
『我が冒険人生』シリーズも『勇者ネロ物語』に負けない大人気物語だ。
2巻までは持っているのだけれど、なにぶん本は高い。
貴族でもなければ気軽に何冊も買ったりは出来ないのだ。
ちなみに『我が冒険人生』は主人公がいくつもの困難を乗り越えて成長して行く王道的な物語だ。
悪い魔法使いに拐われた姫を助けに行ったり、凶暴なドラゴンを退治したりと基本をしっかりと抑えている。
「ここまで順調な旅だったんだ。
このまま何事もなくアルリカに着きたい。
この辺りは魔物が少ない代わりによく盗賊が出るらしいからな」
「まぁ、大丈夫でしょ。
そもそも冒険者ギルドの紋章を付けた馬車を借りているのだから当然、乗っているのは冒険者、それも自分の馬車を持ってない駆け出し、かつギルドから一定の信頼を得ている者って事になるのよ?
戦闘力が有ってお金が無い奴を襲う盗賊なんているはず無いじゃない?」
そう言いながらソニアを起こした私は、アイテムボックスからなんだかんだで愛用している鎖鎌を取り出した。
「それはそうだけどさ、リンの意見には1つ穴があるぞ」
マルクも馬車を止めて腰の剣を確かめる。
モルドに視線を向けると力強い頷きが返ってきた。
頷き返した私達は外に出ると馬車を背にして立つ。
すると近くの木陰から身なりのよろしくない男達が現れた。
総勢20人程の盗賊達。
「へっへっへ、ちったぁ勘がいいじゃねぇか。
命が惜しかったら女とあと金目の物も置いて行って貰おうか?」
そう、私の意見はお金はついでで、兎に角女が目当てのバカを考慮していない物だったのだ。
天から光が降り注ぎ、神の祝福を受けし聖剣が勇者へと授けられた。
『ありがとうございます、この聖剣で必ず平和を取り戻して見せます!」
『頼みましたよ、我が勇者よ』
ガラガラと道を進む馬車の荷台でパラリとページをめくる。
アルリカの街への旅路は《大樹の雫》がギルドから借り受けた馬車で進んでいる。
現在の御者はマルク、モルドは盾を磨いていて、ソニアは私の隣で眠っている。
そして私はと言うとソニアから借りた本を読んで暇を潰していた。
本のタイトルは『勇者ネロ物語』。
内容としてはタイトル通り、敬虔な神の使徒であり、正義と博愛の心を持った聖者ネロが、神に聖剣を与えられて勇者として魔王を倒す旅に出ると言うものだ。
一応、史実らしい。
どこまで本当なのかは分からないけど。
しかし、この『勇者ネロ物語』はこの世界で大人気の物語だそうだ。
子供達は勇者ネロごっこで遊び、酒場では吟遊詩人がその冒険譚を歌い上げ、劇団では鉄板の人気演目となっている。
「しかし、なにも起こらないわね」
そう、ダラスの街を旅立って3日、私達は特に何も起こらない順調な旅路を進んでいた。
「いい事じゃねぇか」
手綱を握ったままマルクが答える。
「いい事だけどさ」
でも暇なのだ。
『勇者ネロ物語』だってすでに読み終わっている物を読み返しているのだ。
こんな事なら本屋で迷っていた『我が冒険人生3巻』を買っておくべきだった。
『我が冒険人生』シリーズも『勇者ネロ物語』に負けない大人気物語だ。
2巻までは持っているのだけれど、なにぶん本は高い。
貴族でもなければ気軽に何冊も買ったりは出来ないのだ。
ちなみに『我が冒険人生』は主人公がいくつもの困難を乗り越えて成長して行く王道的な物語だ。
悪い魔法使いに拐われた姫を助けに行ったり、凶暴なドラゴンを退治したりと基本をしっかりと抑えている。
「ここまで順調な旅だったんだ。
このまま何事もなくアルリカに着きたい。
この辺りは魔物が少ない代わりによく盗賊が出るらしいからな」
「まぁ、大丈夫でしょ。
そもそも冒険者ギルドの紋章を付けた馬車を借りているのだから当然、乗っているのは冒険者、それも自分の馬車を持ってない駆け出し、かつギルドから一定の信頼を得ている者って事になるのよ?
戦闘力が有ってお金が無い奴を襲う盗賊なんているはず無いじゃない?」
そう言いながらソニアを起こした私は、アイテムボックスからなんだかんだで愛用している鎖鎌を取り出した。
「それはそうだけどさ、リンの意見には1つ穴があるぞ」
マルクも馬車を止めて腰の剣を確かめる。
モルドに視線を向けると力強い頷きが返ってきた。
頷き返した私達は外に出ると馬車を背にして立つ。
すると近くの木陰から身なりのよろしくない男達が現れた。
総勢20人程の盗賊達。
「へっへっへ、ちったぁ勘がいいじゃねぇか。
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