飴と薬と鎖鎌

はぐれメタボ

文字の大きさ
上 下
23 / 36
アルタリア大陸編

23話 文学のちに盗賊

しおりを挟む
 『勇者よ、其方に祝福を授けましょう』

  天から光が降り注ぎ、神の祝福を受けし聖剣が勇者へと授けられた。

『ありがとうございます、この聖剣で必ず平和を取り戻して見せます!」

『頼みましたよ、我が勇者よ』




ガラガラと道を進む馬車の荷台でパラリとページをめくる。
  アルリカの街への旅路は《大樹の雫》がギルドから借り受けた馬車で進んでいる。
  現在の御者はマルク、モルドは盾を磨いていて、ソニアは私の隣で眠っている。
  そして私はと言うとソニアから借りた本を読んで暇を潰していた。
  本のタイトルは『勇者ネロ物語』。
  内容としてはタイトル通り、敬虔な神の使徒であり、正義と博愛の心を持った聖者ネロが、神に聖剣を与えられて勇者として魔王を倒す旅に出ると言うものだ。
  一応、史実らしい。
  どこまで本当なのかは分からないけど。

  しかし、この『勇者ネロ物語』はこの世界で大人気の物語だそうだ。
  子供達は勇者ネロごっこで遊び、酒場では吟遊詩人がその冒険譚を歌い上げ、劇団では鉄板の人気演目となっている。

「しかし、なにも起こらないわね」

  そう、ダラスの街を旅立って3日、私達は特に何も起こらない順調な旅路を進んでいた。

「いい事じゃねぇか」

  手綱を握ったままマルクが答える。

「いい事だけどさ」

  でも暇なのだ。
  『勇者ネロ物語』だってすでに読み終わっている物を読み返しているのだ。
  こんな事なら本屋で迷っていた『我が冒険人生3巻』を買っておくべきだった。
  『我が冒険人生』シリーズも『勇者ネロ物語』に負けない大人気物語だ。
  2巻までは持っているのだけれど、なにぶん本は高い。
  貴族でもなければ気軽に何冊も買ったりは出来ないのだ。
 ちなみに『我が冒険人生』は主人公がいくつもの困難を乗り越えて成長して行く王道的な物語だ。
  悪い魔法使いに拐われた姫を助けに行ったり、凶暴なドラゴンを退治したりと基本をしっかりと抑えている。

  「ここまで順調な旅だったんだ。
  このまま何事もなくアルリカに着きたい。
  この辺りは魔物が少ない代わりによく盗賊が出るらしいからな」

  「まぁ、大丈夫でしょ。
  そもそも冒険者ギルドの紋章を付けた馬車を借りているのだから当然、乗っているのは冒険者、それも自分の馬車を持ってない駆け出し、かつギルドから一定の信頼を得ている者って事になるのよ?
  戦闘力が有ってお金が無い奴を襲う盗賊なんているはず無いじゃない?」

  そう言いながらソニアを起こした私は、アイテムボックスからなんだかんだで愛用している鎖鎌を取り出した。

「それはそうだけどさ、リンの意見には1つ穴があるぞ」

  マルクも馬車を止めて腰の剣を確かめる。
  モルドに視線を向けると力強い頷きが返ってきた。
  頷き返した私達は外に出ると馬車を背にして立つ。
  すると近くの木陰から身なりのよろしくない男達が現れた。
  総勢20人程の盗賊達。

「へっへっへ、ちったぁ勘がいいじゃねぇか。
  命が惜しかったら女とあと金目の物も置いて行って貰おうか?」

  そう、私の意見はお金はついでで、兎に角女が目当てのバカを考慮していない物だったのだ。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...