飴と薬と鎖鎌

はぐれメタボ

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アルタリア大陸編

20話 水の対価

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「飴玉?」

  私の呟きに村長から答えが返って来た。

「ああ、蜜飴ですね。
  この村には【蟲使い】のクラスを持つものが多く、代々蜂蜜狩りを生業しているのです。
  特にそのココナは将来は村一番の【蟲使い】になると期待されているのです」

  どうやらこの少女は、次世代の村を担うホープらしい。

「あのね、これココナが採った蜂蜜で作ったの」

「へぇ、凄いね」

  ココナの頭を撫でる私にサリナさんが追加で情報をくれる。

「この村は蜂蜜や蜂蜜酒ミードなどで有名なんです。
  その為、小さな村では有りますが、同程度の村より比較的に裕福だったおかげでリンさんの派遣などの費用を捻出できたんです」

  なるほど、普通の村の経済力では薬師の派遣や病気の調査を頼む事も出来ないのか。

  私はココナに貰った蜜飴をチラリと見る。

「なら、私が水を出す対価として蜂蜜を貰うと言う事でどうかしら?」

「蜂蜜ですか?」

  村長は目を丸くしている。

「ダラスの街では蜂蜜は結構安く買えたけど、それはこの村が近くにあるからでしょ?」

  私は視線でサリナさんに尋ねる。

「はい、確かに輸送費なども掛かるので王都などでは蜂蜜は高級品です」

「なら、仕事の対価としては十分でしょ?
  蜂蜜は薬の素材としても使うからいくらあっても困らないし」

「そうですね…………はい、相場よりも多少安くなるでしょうが、『ギルド員リンさんが無報酬で仕事をした前例』にはならないかと」

  サリナさんが頷いた後、引くほど感謝する村長を引き剥がした私は、井戸から毒が抜けるまでの数日を村で過ごす事になった。





「こっちだよ、リンお姉ちゃん!」

  森と言うより樹海と呼ぶ方が正しいのではないかと思う様な場所を、まさに勝手知ったる庭の様にスルスルと進むココナの後ろを追いかけて走る。
  エクストラスキル【身体強化】のお陰で息切れもしていないし、疲れてる訳ではないが、森を走るのはなかなかコツがいる。
  
  村に滞在して3日目、ココナに誘われた私は一緒に蜂蜜を採りに来ていた。
  キングポイズンスライムと戦った山とは別の方角にある大きな森なのだけれど、魔物が少なく慣れている村人なら1人でも入れるらしい。

「見つけた!」

  茂みに身を伏せたココナが私を呼ぶ」

「見て、リンお姉ちゃん。
  あれが蜂の巣だよ」

「え?」

  藪の先、ココナが指差す方へ視線をやると、そこには蜂の巣があった。
  テレビとかで業者が駆除するヤツと同じ形だ。
  ただデカイ。
  すごく、デカイ。
  そもそも、あれはスズメバチの巣では?
  いや、この世界にスズメバチがいるのか知らないけど。
  森の中でもひときわ大きな巨木から、全長3メートルはある巨大な蜂の巣がぶら下がっている。

「じゃあ、ちょっと採ってくるからりんお姉ちゃんはここで待っててね」

「あ、ちょ!」
  
  戸惑う私を置き去りに、ココナは巨大な蜂の巣へと向かって行った。
  
  ココナが近づくと、巣から甲高い羽音が大音量で鳴り響き、大量の蜂がまるで黄色い靄の様に見える程飛び出して来た。
  
  私が飛び出して魔法を放つべきか、と考えていたら、ココナが鉢の群れの前に立ち、右手を上げていた。

「ごめんね、少しだけ蜜を分けてね」

  ココナがそう言うと、鉢の群れはココナを通す様に左右に分かれた。
  その間を悠々と抜けたココナは背負っていたリュックから木製の水差しの様な道具を取り出し、蜂の巣に突き刺した。
  すると、流れだした蜂蜜が手元に溜まって行く。
  満タンになったら別の入れ物に移して更に蜜を採取する。
  ココナは、それを何度か繰り返し、蜜が出なくなるとナイフを取り出して巣の一部を切り取り、リュックの中にしまった。

「ありがと~」

  そしてなごやかに蜂にお礼を言って戻って来た。

「お待たせ、リンお姉ちゃん」

「う、うん、だ、大丈夫なの?」

「うん?大丈夫だよ?」

  大丈夫らしい。

  ココナが言うにはあれぐらいが一番大きな蜂の巣らしい。
  あれよりも大きくなり過ぎると管理が大変なのである程度の大きさ以上の巣は蜂が居らず、蜜の無い冬に撤去してしまうそうだ。




「ココナね、お姉ちゃんみたいな凄い蟲使いになりたいんだ」

  2人で村で作ってもらった昼食を食べていた時にココナの将来の夢を教えてもらった。
  このお姉ちゃんは私ではない。
  キキナと言う名のココナの姉の事だ。
  キキナはココナと同じく【蟲使い】としての才能に恵まれていたらしいが、ココナがまだ小さな時に冒険者になると言って村を出て行ってしまったらしい。
  初めの数年は帰省したり、手紙が届いたりしていたらしいが、ここ数年は音沙汰が無いそうだ。
  まぁ、『そう言う事』なのだろう。

  食事を終えた私は、久し振りに『姉』に甘えられて上機嫌なココナと共に村へと戻るのだった。
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