飴と薬と鎖鎌

はぐれメタボ

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アルタリア大陸編

12話 事件の気配

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「グルゥオ!」

  手入れもろくにされていない錆びたショートソードを鎖で絡め取ると軌道を逸らし、鎌を一振り、ガラ空きになった首を刎ねる。

「はぁ!」

  私は崩れ落ち、動かなくなったコボルトを横目に周囲に魔物が居ない事を確認する。

  対魔物でも十分に戦える事を確認したあの日から私は、たびたび草原や森を訪れては薬草を集めながら魔物を倒していた。

「今日はこれくらいにしておこうかな」

  まだ日は高いが朝から採取に出ていたのでそれなりの収穫は得ている。
  今日は帰ってポーションを調合するとしよう。




「おう嬢ちゃん、今日は早いな」

「ええ、今日は早めに切り上げたんですよ」

  ヨルムさんと軽く挨拶を交わして街に入ると、その足でギルドへと向かった。


「こんにちは、サリナさん」

「こんにちは、リンさん」

  私は一直線にカウンターへ向かうと、狐耳を揺ら揺らさせているサリナさんに声を掛ける。

「調合室を貸して下さい」

「はい、半日で銀貨1枚です」

「はい」

  私はアイテムボックスから銀貨を取り出すとサリナさんに手渡し、代わりに1号室と書かれた札が付いた鍵を受け取った。

  医療ギルドでは調合室を借りる事が出来る。
  ポーションを始め、薬の調合は煙や強い匂いが発生する事が多く、自前の店などを持たない薬師は調合する場所に難儀するのでギルドの調合室は重宝するのだ。

  カウンターの横の階段を上って2階に行くといくつか並んだ部屋の1番端の部屋の鍵を開けて中に入る。
  部屋の中には広めの机と簡素な椅子。薬研やフラスコなどの道具か並んでいる。
  椅子に腰掛けた私は、早速今日採取して来た薬草の処理から始めるのだった。




コポコポ

  薬効を抽出した薬液をこし布で丁寧にこす。
  目にしみる煙を吐き出す薬鍋に両手をかざして魔法でゆっくりとあら熱を取り、冷まして行けば下級ポーションの完成である。

「ふぅ」
  
  私は口と鼻を覆っていた手拭いを外ずし風を操り換気をすると、調合室の一角にある有料の棚から下級ポーションの薬瓶を取り出し出来たばかりのポーションを小分けにして封をして行く。
  医療ギルドに納品する薬は、ギルドが指定した規格の瓶に入れる必要がある。
  この調合室にも用意されているが、これらは有料だ。
  鍵を返す時に清算する必要がある。
  まぁ、だいたいポーションの納品分の代金から引いてもらうのだけれどね。




「頼む!早くなんとかしないと死人が出るかもしれないんだ!」

「た、ただ今対応できる者を探しておりますので落ち着いてお待ち下さい」

「くそ!時間が無いんだ!」
  
  調合を終えた私がギルドホールへと降りてくると、なんだかカウンターが騒がしかった。

「どうしたんですか、サリナさん?」

  私は調合室の鍵を返しながらサリナさんに尋ねた。
  サリナさんとは別の受付嬢が何やら苛立っている男を宥めている。

「ちょっと厄介な依頼が…………リンさんって魔物とも戦えましたよね?」

「え?まぁ、この辺りの魔物なら……」

「ちょっと、お待ちを……」

  サリナさんは小走りで対応中の受付嬢の下に行くと何やら話して直ぐに戻ってきた。

「リンさん、彼方の部屋にお越し頂けますか?」

  なんだか面倒な事に巻き込まれつつある気がするなぁ。
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