飴と薬と鎖鎌

はぐれメタボ

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アルタリア大陸編

2話 激闘 スライムvs鎖鎌

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  目を覚ますとそこは異世界でした……いや、マジで!
  私、庭木 凛は今をときめく女子高生だった。
  女子高生と言えば、ただそれだけでステータス!
  ラブコメ、スポ根、青春物は勿論の事、ミリタリ、キャンプ、登山、更にはカルタや書道まで『女子高生である』と言うだけで大人気!
  日常をダラダラ過ごすだけでも商業価値を生み出すあの女子高生だったのだ!

  そんな私は、ある日バイトまでの数時間で仮眠を取ろうとベッドに入ったのだが、気がつくと神を名乗るイケメンにエクストリームな謝罪を受けて異世界転移する事になったのだ。
  何を言っているのか分からないと思うが、私にもよく分からない。
  今ならポ◯ナレフの気持ちも少しは理解できると言うものだろう。
  神が私の頭にインストールした情報によると、ここはレアルリンドとか言う世界の1番大きな大陸の東側の国の街道近くらしい。
  姿形は生前と一緒、いや、少し耳が尖っている気がする。
  神が言っていたハーフエルフと言う奴か。
  身に付けている物は、寝る前に来ていたセーラー服(バイトの制服に着替えたら洗濯するつもりだったんだ!決して私がズボラな訳では無い!)は消え失せてザ・旅人って感じの服に変わっている。
  持ち物は保存食と水、毛布、そこそこのお金、雑用ナイフ…………あと鎖鎌だ。

「どうすんのよ、これ」

  私は鎖鎌を手に取ってみる。
  鎖鎌スキルの為か、なんだか手に馴染む。
  しかし、しかしだ!
  現代日本でスポーツや伝統武術として日々鎖鎌の鍛錬に打ち込み、汗を流している人や、人生を掛けて鎖鎌の研鑽を積んでいるガチ勢の方には申し訳ないけれど、これでまともに戦えるとは思えない。

  当然、現代まで武術として残っているからには鎖鎌にも相応の利点や魅力があるのだろう。
  しかし私は、鎖鎌は基本的にサブウエポンだと思っている。

  忍者だって状況によっては鎖鎌を使ったかも知れない。
  が!基本は刀や手裏剣で戦っていたと思う。多分!

  考えても見てほしい。
  初めから鎖鎌を構えて戦う奴などいるだろうか?
  剣やナイフの方が扱いやすいに決まっている。

「はぁ、今更言っても仕方ないけどね」

  私は神への愚痴を一旦飲み込み、一先ず街を目指す事にした。

  鎖鎌スキルと一緒に薬師スキルも貰ったのだ。
  鎖鎌はあくまで護身用と言う事にして、街の中で薬屋でも開けばいい。
 そう考えると何とかなりそうな気がして来るのだから現金なものだ。

  こうして、私は異世界での冒険の旅に一歩を踏み出したのだ。

  スライムが現れた!

  早い!
  エンカウントが早い!
  黄○の爪を取った後のピラミッドか!

  スライムと言うのはひと抱え程もあるゼリーみたいな奴だ。
  透明な身体の中心にはピンポン球くらいの核が透けて見えている。
  神がくれた知識によると、あの核を破壊するか、身体を再生出来ないくらいにバラバラにすればスライムは死ぬらしい。
  
「…………一応、鎖鎌を試しておこうかな」

  正直に言おう。
  実は少しだけ、ワクワクしていた。
  人間誰だって映画や漫画の様に武器を振り回して華麗に戦ってみたいと少しは思う物だろう。
  誰だってそう思う。
  私だってそう思う。
 
  私はプルプルと震えるスライムを鋭い眼光(イメージ)で睨みつけながら左手に鎌を持ち、右手で鎌の下から伸びる鎖を掴む。
  そして鎖の先の重り、(分銅と言うらしい)を勢い良くグルグルと振り回した。

「せい!」

  勢いに任せて分銅をスライムに向けて放つ。
  すると鎖鎌スキルのお陰なのか、分銅は私のイメージ通りにスライムの中心に命中した。

ぽよん

「………………」

  見た目には特に変化は無い。
  かなり贔屓目に見てもノーダメージだ。
  これは……あれだ……
  きっとスライムには打撃系の攻撃は効果が薄いのだろう。
  
「はぁ!」

  私はスライムに走り寄り、鎌を振るう。
  死んだ両親に『凛ちゃんは良い子ね~』と言われていた程、善良な人間だった私の事だ。
  当然、刃物を振り回した経験など無い。
  そんな私だったが、鎖鎌スキルは仕事をした。
  ブレの無い鋭い剣閃……鎌閃が見事スライムのボディを捉えたのだ。
 
ぱしゃ

  スライムの体液が僅かに飛び散った。
  問題は威力でなくリーチだと思う。 
  剣とは違い刃が持ち手から90度の角度で付いている鎌ではスライムの核まで届かないのだ。
  例え強力な攻撃でも、当たらなければどうと言う事は無いのである。
  
「………………」

  もしかして私ってかなり弱いのでは?
  そんな予感が私の頭の端を過ぎった時だった。

「ごふっ!」

  プルプルと震えていたスライムが急に飛び掛かって来た。

  想像してみて欲しい。
  バケツ一杯分程の質量体で持って結構なスピードで腹を殴られた気分を。
  今そんな感じだ。
  膝から崩れ落ちるのも仕方ないと言うものだろう。

  倒れ伏した私にプルプルとスライムが近づいて来る。
  まさか、チュートリアル的なスライムに敗北するとは思わなかった。
  願わくば所持金の半分で勘弁して欲しいな。

  ああ、このままスライムにおかずにされながら大きなお友達のオカズにされてしまうのか…………
  今、私は上手い事を言いました。

  今度死んだらあのイケメン神を殴ってやろう。
  そう思った時。

「どうした、大丈夫か嬢ちゃん?」

  誰かが私に駆け寄って来た。
  気を付けて、近くにはあの凶暴なスライムが……

「ん?なんだこのスライムは?
  しっ、しっ、邪魔だからあっち行け!
  まったく」

  スライムは追い払われて行った。
  まさか私が命がけで戦い、死を覚悟した程のスライムが手をひらひらしただけで追い払われる様な存在だったとは…………
  私は自らの弱さとイケメンへの怒りを抱きながら意識を手放すのだった。
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