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Extra story (後日談、ネタバレ注意)

薬師の夢、騎士の想い ③

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  洞窟の奥に人影が見えた。
  そこに居たのは短剣を構えた侍女と、背後に庇われたヴァイン皇太子殿下だった。
  
「誰!」

  突然現れた私に警戒した侍女は短剣を向けて構えた。
  私は敵ではない事を示す為、宮廷から発行されている身分証を差し出した。
  アルルに渡した帝国の紋章ほどでは無いけれど、私が宮廷に出入り出来る身分である事は証明できる筈だ。

「宮廷薬師相談役のリリです、殿下の容体は」

  私が救援であると分かると侍女は短剣を下ろす。

「殿下はこちらに……リザードマンの剣を受けて……治癒魔法を掛けているのですが、血が止まらないのです」

  侍女が場所を空けてくれる。
  彼女の背後に横たえられたヴァイン殿下を見やった。
  ヴァイン殿下は腹部に大きな傷を受けて大量に出血している。
  とても手持ちのポーションで治癒出来る傷では無い事は明らかだ。

「り、リザードマンの群は……」

  顔を青くしている侍女を安心させる様に意識して落ち着いた声で話す。

「大丈夫ですよ。
  リザードマンは既に討伐しました。
  今は私と一緒に来た騎士が入り口を守っています」

  私の言葉で少し落ち着きを取り戻した侍女にヴァイン殿下に治癒魔法を掛け続けて貰う。
  傷口を改めると大きな傷ではあるものの、内臓には達していない事が分かった。
  
「我が道を照らせ 光球ライトボール

  視界を確保した私はマジックバッグから針と糸を取り出して丁寧に消毒ていると、洞窟の入り口の方から恐ろしい雄叫びが聞こえて来た。

「グラァァア!!」

「な、何の声でしょうか……」

    不安そうな侍女に声を掛ける。

「大丈夫です。
  入り口を守ってくれている騎士様を信じましょう。
  それよりも今は殿下を」

「は、はい!」

  不安を振り払いヴァイン殿下の治療を始める。
  ヴァイン殿下の方から脇腹に走る大きな切り傷を丁寧に縫合して行く。
  帝国の支援によってここ数年、研究が進んでいる外科医療、この針と糸も専用に作られた特別製だ。 
  針は鋭く頑丈で緩やかな曲線を描くミスリル製、糸はタイラントスパイダーというBランクの大蜘蛛の魔物の糸を加工した希少な物だ。
  洞窟の入り口から激しい戦闘音が聞こえる中、侍女に傷が塞がってしまわない様に威力を抑えて治癒魔法を続けて貰いながら素早く縫い上げる。
  縫い終わると同時に治癒魔法を全力でかけて貰う。
  更に薬鉢を取り出して手持ちの素材を調合して行く。
  完成した増血薬を栄養剤殿下に飲ませると、ヴァイン殿下が意識を取り戻した。

「ぅ……こ、ここは……」

「殿下⁉︎」

「殿下、まだ動いてはいけません」

「リリ殿……」

「殿下は血を失い過ぎました。
  増血薬を投与していますので、どうか安静にしていて下さい」

「…………わかった」

  目を覚まし起き上がろうとしたヴァイン殿下を押し留める。
  外からは未だに戦闘の気配を感じる。
  今はククイさんを信じて殿下の治療に専念しましょう。
  
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