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Extra story (後日談、ネタバレ注意)
薬師の夢、騎士の想い ①
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ロカの木の根元に群生するアカヒラカサタケを採取する。
アカヒラカサタケは素手で触れると被れてしまう為、木で作った匙を使って革の袋に入れる。
全て取ってしまわない様に、ある程度の数を確保すると袋の口を縛り採取を終える。
この場所は森のごく浅い場所であり、後ろを振り返れば森の外の草原が目に入り、私の周囲を警戒してくれている連れが居る。
森と草原の境目に戻ると小さな影が近付いて来た。
「師匠~、見て下さい。
アマギ草を見つけました」
弟子のアルルが自慢げに青い小さな花を付ける珍しい薬草が入った籠を掲げた。
「あら、よく見つけたわね。
今の時期のアマギ草は大地の魔力を蓄えているから高い薬効を得られるわ」
私がアルルを褒めていると、周囲を警戒していた男が声を掛ける。
「それは希少な薬草なのかい?」
男は穏やかな笑顔を浮かべているが、その体はしっかりと鍛え上げており、腰に下げた使い込まれた剣がその力量の一端を表していた。
彼はククイさんと言う帝国の騎士の1人だ。
騎士団の仕事が非番の日には、私とアルルの薬草採取に同行してくれるのが日課になっている。
「ええ、本来はもっと森の奥に入らないと手に入らない薬草なんですよ」
「ほう」
ククイさんが興味深げに薬草を覗き込んだ。
彼の顔が急に近づいて来た為、私の心臓は少し鼓動を速める。
ククイさんに気付かれない様にいつも通りの顔を心掛けながら薬草の見分け方や簡単な使い方を説明する。
彼はこうして少しずつ薬草について覚えてくれる。
その為か、騎士団の隊では1番薬草に詳しくなったらしく、最近では衛生騎士を目指さないかと誘われたりもしていると言っていた。
私とククイさんの関係はいわゆる、友達以上恋人未満と言う奴だ。
彼が私に好意を持っている事には気付いている。
彼も私の気持ちに気付いているとは思う。
しかし臆病な私達は、今の関係が壊れてしまう事を恐れてお互いの気持ちを伝える事が出来ずにいるのだ。
『もし、この考えが思い違いで、彼が私と一緒に居るのはただの親切心なのでは……』
そう思うと、今のままで良いのではないかと思ってしまうのだ。
旦那さんの胸倉を掴み上げて『男ならそろそろケジメをつけて下さい』と言って退けた師匠とは大違いだ。
3人で昼食を済ませた私達は、もう少し森で採取を続けようと、軽く身体をほぐしているところだった。
森の脇の細い道(街道では無く、狩人や樵が使う小道だ)からボロボロの格好をした男がフラフラと歩み出て来た。
盗賊かと思い、武器に手を掛けた私達だったが、男の様子がおかしい事にすぐ気が付いた。
男は森から出ると数歩進んで倒れ伏したのだ。
慌てて近づくと、男は血や泥で汚れた鎧を着ているが、髭などは綺麗に手入れされておりとても盗賊には見えなかった。
「これは!」
すると、ククイさんが何かに気づいた。
彼は男の鎧に描かれていた紋章を指差した。
「あ!」
汚れていて見辛いが、見覚えのある紋章だ。
確か騎士団の何れかだったはずだ。
「これは近衛騎士団の紋章だ」
「え、なんで近衛騎士団がこの森に?」
私は急いで取り出したポーションを傷に振りかけ、残りを男に飲ませる。
「う……」
男が薄っすらと目を開いた。
「大丈夫ですか、一体何が?」
「で……殿下……」
男は抱き起こしていたククイさんの腕を強く掴むと血を吐きながら伝える。
「お、御忍びで……伐採地の、ごほ、し、視察を……されていた殿下が……刺客に……」
「な、なんだって!」
「殿下は……じ、重傷を……」
「分かりました、取り敢えずポーションを飲んで下さい」
私は追加のポーションを男に飲ませる。
すると、男は気絶してしまった。
「殿下が……」
「アルル」
「は、はい」
「この人を帝都に運んで頂戴、門の衛兵に今の話を伝えて」
私はアルルに帝国の紋章が刻まれたカードを手渡しながら指示を出す。
「師匠はどうするのですか?」
「私は殿下を救出に行くわ」
「危険だ、殿下の救出には僕が行く!
リリさんはアルルちゃんと帝都に戻ってくれ!」
ククイさんが驚き声を荒げる。
「ダメです!
殿下は重傷を負っているといっていました。
一刻も早く治療をしなければいけないかもしれません」
「しかし…………」
ククイさんは苦虫を噛み潰した様な顔をする。
だが、それも数秒。
「…………分かった。
君は僕が守ってみせる」
決意を秘めた彼の瞳に、私は自然と微笑みを浮かべた。
「頼りにしています」
こうして私達は皇太子殿下が視察に訪れたと言う伐採地へと向かう事になったのでした。
アカヒラカサタケは素手で触れると被れてしまう為、木で作った匙を使って革の袋に入れる。
全て取ってしまわない様に、ある程度の数を確保すると袋の口を縛り採取を終える。
この場所は森のごく浅い場所であり、後ろを振り返れば森の外の草原が目に入り、私の周囲を警戒してくれている連れが居る。
森と草原の境目に戻ると小さな影が近付いて来た。
「師匠~、見て下さい。
アマギ草を見つけました」
弟子のアルルが自慢げに青い小さな花を付ける珍しい薬草が入った籠を掲げた。
「あら、よく見つけたわね。
今の時期のアマギ草は大地の魔力を蓄えているから高い薬効を得られるわ」
私がアルルを褒めていると、周囲を警戒していた男が声を掛ける。
「それは希少な薬草なのかい?」
男は穏やかな笑顔を浮かべているが、その体はしっかりと鍛え上げており、腰に下げた使い込まれた剣がその力量の一端を表していた。
彼はククイさんと言う帝国の騎士の1人だ。
騎士団の仕事が非番の日には、私とアルルの薬草採取に同行してくれるのが日課になっている。
「ええ、本来はもっと森の奥に入らないと手に入らない薬草なんですよ」
「ほう」
ククイさんが興味深げに薬草を覗き込んだ。
彼の顔が急に近づいて来た為、私の心臓は少し鼓動を速める。
ククイさんに気付かれない様にいつも通りの顔を心掛けながら薬草の見分け方や簡単な使い方を説明する。
彼はこうして少しずつ薬草について覚えてくれる。
その為か、騎士団の隊では1番薬草に詳しくなったらしく、最近では衛生騎士を目指さないかと誘われたりもしていると言っていた。
私とククイさんの関係はいわゆる、友達以上恋人未満と言う奴だ。
彼が私に好意を持っている事には気付いている。
彼も私の気持ちに気付いているとは思う。
しかし臆病な私達は、今の関係が壊れてしまう事を恐れてお互いの気持ちを伝える事が出来ずにいるのだ。
『もし、この考えが思い違いで、彼が私と一緒に居るのはただの親切心なのでは……』
そう思うと、今のままで良いのではないかと思ってしまうのだ。
旦那さんの胸倉を掴み上げて『男ならそろそろケジメをつけて下さい』と言って退けた師匠とは大違いだ。
3人で昼食を済ませた私達は、もう少し森で採取を続けようと、軽く身体をほぐしているところだった。
森の脇の細い道(街道では無く、狩人や樵が使う小道だ)からボロボロの格好をした男がフラフラと歩み出て来た。
盗賊かと思い、武器に手を掛けた私達だったが、男の様子がおかしい事にすぐ気が付いた。
男は森から出ると数歩進んで倒れ伏したのだ。
慌てて近づくと、男は血や泥で汚れた鎧を着ているが、髭などは綺麗に手入れされておりとても盗賊には見えなかった。
「これは!」
すると、ククイさんが何かに気づいた。
彼は男の鎧に描かれていた紋章を指差した。
「あ!」
汚れていて見辛いが、見覚えのある紋章だ。
確か騎士団の何れかだったはずだ。
「これは近衛騎士団の紋章だ」
「え、なんで近衛騎士団がこの森に?」
私は急いで取り出したポーションを傷に振りかけ、残りを男に飲ませる。
「う……」
男が薄っすらと目を開いた。
「大丈夫ですか、一体何が?」
「で……殿下……」
男は抱き起こしていたククイさんの腕を強く掴むと血を吐きながら伝える。
「お、御忍びで……伐採地の、ごほ、し、視察を……されていた殿下が……刺客に……」
「な、なんだって!」
「殿下は……じ、重傷を……」
「分かりました、取り敢えずポーションを飲んで下さい」
私は追加のポーションを男に飲ませる。
すると、男は気絶してしまった。
「殿下が……」
「アルル」
「は、はい」
「この人を帝都に運んで頂戴、門の衛兵に今の話を伝えて」
私はアルルに帝国の紋章が刻まれたカードを手渡しながら指示を出す。
「師匠はどうするのですか?」
「私は殿下を救出に行くわ」
「危険だ、殿下の救出には僕が行く!
リリさんはアルルちゃんと帝都に戻ってくれ!」
ククイさんが驚き声を荒げる。
「ダメです!
殿下は重傷を負っているといっていました。
一刻も早く治療をしなければいけないかもしれません」
「しかし…………」
ククイさんは苦虫を噛み潰した様な顔をする。
だが、それも数秒。
「…………分かった。
君は僕が守ってみせる」
決意を秘めた彼の瞳に、私は自然と微笑みを浮かべた。
「頼りにしています」
こうして私達は皇太子殿下が視察に訪れたと言う伐採地へと向かう事になったのでした。
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