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1人と1振り

それぞれの道

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  ヴァインとアークは無事、ギルドの審査を通過して怪盗に狙われている貴族の屋敷の警備の仕事をえる事が出来た。
  ミルミット王国の第1王女、テスタロッサ様直々の説明によると、例え怪盗を捕らえられなくてもペナルティーなどは無く、もし、捕らえられたならば褒賞があるそうだ。
  ただし、怪盗を捕らえるにあたり、再起不能のゲガを与える事は禁じられている。
  説明の後、ギルドに併設された酒場で食事を取る。

「しかし、なんで再起不能のゲガを追わせてはならないなんてルールが有るんだろうな?
  捕まえたら死罪なんだから別に気にしなくても良いと思うけどな?」

「ふっ、簡単なことさ。
  その方が美しいからに決まっているじゃないか」

   アークは、ヴァインの疑問に変なポーズをとりながら、よく分からない持論を答えた。
  
「どんな理由だよ……」

  ヴァインは、相変わらずのアークにいつも通りの呆れ顔を向ける。
  すると、隣で食事をしていた男女2人組の冒険者が話に割り込んで来た。

「なんだお前ら、知らないのか?」

「何をだ?」

「テスタロッサ様は怪人108面相を捕らえたら処刑した事にして、密偵として配下に加えたいんだろう」

「そうなのか」

「ええ、公然の秘密ってヤツね」

「あんた達も依頼を受けたのか?」

「ああ、俺はスタロン、こっちはリルマ、2人ともAランク冒険者だ」

「Aランク⁉︎
  この依頼は高ランク冒険者には割りのいい依頼じゃないと思うんだが?」

「まぁな、俺達でも怪人108面相を捉えるのは無理だろうな」

「私達の実力は、ギリギリAランクって所だからね。
  なんでも、ここ数年で名を上げた『漆黒』の二つ名を持つAランク冒険者でも怪人108面相に逃げられたらしいわよ」

「へぇ、二つ名持ちでも無理だったのなら俺達も無理かな」

「何を言うヴァイン!
  我々で怪盗を美しく捕らえようではないか」

  アークの根拠のないない自信に苦笑を返すヴァインであった。







「いや、笑っちまうくらいにあっさりとやられちまったな」

「なに、奴もまた美しき者だと言うだけさ」

  張り切って警備に臨んだ俺達だったが花火と高笑いと共に現れた怪人108面相にあっという間にやられてしまった。
  アレはまさに化け物の類いだろう。
  Aランク冒険者のスタロンとリルマなど、真っ先にやられてしまった。
  流石に恥ずかしいのか、ギルドでも彼等を見かける事はない。
  すでに街を移動したのかも知れない。
  アークも呪いの力を使い戦っていたのだが、それでも怪人108面相には敵わなかった。
  結局、貴族の財産は根こそぎ盗まれ、犯罪に手を染めていた証拠を公開された貴族は、テスタロッサ様に連行されて行った。

「まぁ、なかなか楽しめる依頼ではあったな」

「次はどうするか君に考えは有るのかい?」

「なんで、いちいちポーズを決めるんだよ。
  そうだな…………」

  ヴァインは改めてクエストボードを見て行く。
  そして、最新の依頼書を目にする。

「 ⁉︎ 」

「どうしたんだい?
  コレは……魔族との戦争の義勇兵の募集だね。
  とうとう、戦争か……主戦場の予測はグリント帝国の辺境付近か……」

  珍しくアークが真面目に依頼内容を確認するが、ヴァインの耳には届いて居なかった。

「アーク…………済まない、俺はやらなければならないことが出来た」

「そうか……なら、僕も一緒に行くさ、仲間だからな!」

「仲間か、そうだな。
  だが、コレは俺の実家の問題なんだ。
  悪い、ここでお別れだ」

「僕では力になれないのか?」

  ヴァインはなんとも言えない様な顔で微笑んだ。

「わかった。
  なら、ここで別れよう。
  だが、忘れるなよ、君には僕と言う美しい仲間が居るという事を!
  はっはっは~」

「ああ、忘れないさ。
  必ずまた会おう」

   翌日、ヴァインはアークと別れて1人旅立って行った。








「陛下、こちらの書類に目をお通し下さい」

「うむ」

「陛下、こちらにサインを」

「わかった」

  グリント帝国の執務室では、帝国の頂点に立つ皇帝ハイランドが忙しく書類と格闘して居た。
  魔族はかつてイザール神聖国の跡地に陣を敷き、イザール神聖国とグリント帝国の間にある平原こそが、今回の戦争の主戦場となると予想されている。
  必然としてグリント帝国の皇帝であるハイランドの負担もグンと増えると言うものである。

「陛下、ご報告致します」

  激戦地と化した執務室へ警備隊長を任せている兵士が飛び込んできた。

「どうした、魔族に何か動きが有ったのか?」

「い、いえ、ただいま、正門より報告が有りました。
  修行の旅に出られていたヴァイン皇子がお戻りになられたとの事です」

「……まったく、あのバカ息子が」

  ハイランドはようやく帰ってきた息子にくれてやる拳骨の数を数えるのだった。
  

1人と1振り     完
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