上 下
53 / 66
盃を満たすは神の酒

神の剣技

しおりを挟む
「うおぉぉお!」

  バルのシールドバッシュは魔物を数体纏めてふき飛ばす。

「バル、前に出過ぎるな!
  殲滅は無理だ!
  帝都からの援軍が来るまで戦線を維持するんだ!」

  ジンの言葉に反応したバルは周囲の魔物を弾き飛ばし後退する。

「すまん。
  だが、援軍は間に合うのか?」

「さぁな。
  魔物のスタンピードが確認されてすぐに帝都に救援要請が出されているはずだが部隊の編成や移動などで10日は掛かるだろう」

「まぁ、間に合わんじゃろうな」

「はは、じゃあダメじゃねぇか」

「なに、どんな奇跡が起きて命を拾うか分からん。
  くたばる瞬間まで諦めんさ」

  バッカスの戦鎚がスケルトンを打ち砕く。
  膨大な魔物の群れは命掛けで戦う冒険者や兵士、傭兵、義勇兵達によってなんとか押し止められている。
  しかし、それも時間の問題だろう。
  休みなく続く戦闘で疲労が限界に近い人間に対して魔物は次々にやって来る。
  次第に脱落する者も増えて来た。
  それは魔物と人間との戦力の開きが更に大きくなると言う事だ。
  更に悪い事は重なる。
  魔物の群れの中から飛び出した3つの首が見えた。

「こりゃあマジでヤベェかもな……」

  その首の主は3体の竜種だったのだ。
  唯でさえ魔物に押され気味の状況で3体の竜種は致命的だ。
  流石のジンとバッカスも自らの命を失う覚悟をした。

ズバババババッ!

 覚悟をしたのだが……

「なっ!」

「なんじゃ!なにが起きておる⁉︎」

「わかんねぇ、どうなってんだ⁉︎」

    3体の竜種を含む群れの中でも強力な魔物が次々と斬り刻まれて行く。
  唖然とする冒険者達の前で魔物の命が狩られて行く。
  それを成したのは1人の少年だった。
  少年が剣を振るうと幾多の魔物が細切れになる。

「あ、あいつは!」

「知っているのかジン!」

「ああ、あいつは『神域の剣士』フィルだ!」

「……Sランク冒険者か⁉︎」

  バルの声に反応したのか少年……いや少年では無い。
  ホビット族の青年がジン達の方へとやって来る。

「おい、お前達この防衛戦の指揮を執っている奴に連絡をとれ。
  前線を防壁の側まで下げさせろ!」

「わ、分かった!」

  ジン達は本陣に戻り指揮を執っていたギルドマスターにフィルの指示を伝えた。
  ギルドマスターは即座に指示を出した。
  防衛戦に参加していた人間が防壁まで退がると笛の音が戦場に鳴り響く。
  そして…………

         リンッ!

   …………視界に入る魔物は全て斬り裂かれた。
  
「おいジン! なんで剣を一振りしただけで見渡す限りの魔物が切り裂かれるんだ⁉︎」

「俺に聞くな!
 神域の剣士だからな、神の剣技が人間には理解出来る訳がないだろ」

  目の前で起きた現象を理解する事は出来ない。
  1つだけ分かることは俺達は今日も酒を口に出来ると言う事だけだ。
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自分を裏切った聖女の姉を再び愛する王にはもう呆れたので、私は国を去る事にします。

coco
恋愛
自分を裏切り他の男に走った姉を、再び迎え入れた王。 代わりに、私を邪魔者扱いし捨てようとして来て…? そうなる前に、私は自らこの国を去ります─。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

妹の代わりに嫁がされるので逃げる事にします、そのせいで家が破産するそうですが知りません。

coco
恋愛
「妹の代わりに、お前が嫁に行け。」 父からの突然の命令、その相手は女好きのクズ男でした。 私は、逃げる事にしますね。 そのせいで家が破産するそうですが、私は知りません。 私を虐げ除け者にしてきた家など、潰れてしまえばいいのです─。

屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。

夜桜
恋愛
【正式タイトル】  屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。  ~婚約破棄ですか? 構いません!  田舎令嬢は後に憧れの公爵様に拾われ、幸せに生きるようです~

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

【完結】『母の命を奪った罪人である自分は、誰にも愛されない』だと? そんなワケあるかボケっ!!

月白ヤトヒコ
恋愛
うちで開催されているパーティーで、家族に冷遇されている子供を見た。 なんでも、その子が生まれるときに母親が亡くなったそうで。それから、父親と上の兄弟に目の仇にされているのだとか。俺は初めて見たが、噂になる程の家族の言動。 俺、こういうの大っ嫌いなんだけど? ちょっと前に、親友が突然神学校に入りやがった。それもこういう理由で、だ。 というワケで、大人げなく怒鳴っている見苦しいオッサンと、罵倒されて委縮している子供の間に割って入ることにした。 俺の前で、そんなクソみたいなことしてるそっちが悪い。 罵倒されてる子は親友じゃないし、このオッサンはアイツの父親じゃないのも判ってる。 けど、赦せん。目障りで耳障りだ。 だから――――俺の八つ当たり受けろ? お前らが、その子にやってることと同じだろ。 「あなた方がそうやって、その子を目の仇にする度、冷遇する度、理不尽に叱責する度、『キャー、わたしの仇に仕返ししてくれてありがとう! わたしの産んだ子だけど、そんなの関係ないわ! だって、わたしの命を奪った子だものね! もっと冷遇して、もっとつらい目に遭わせて、追い詰めて思い知らせてやって!』って、そういう、自分の子供を傷付けて喜ぶような性格の悪い女だって、死んだ後も家族に、旦那に喧伝されるって、マジ憐れだわー」 死んだ後も、家族に『自分が死んだことを生まれたばかりの子供のせいにして、仇を討ってほしいと思われてた』なんて、奥さんもマジ浮かばれないぜ。 『母の命を奪った罪人である自分は、誰にも愛されない』だと? そんなワケあるかボケっ!! 設定はふわっと。 【では、なぜ貴方も生きているのですか?】の、主人公の親友の話。そっちを読んでなくても大丈夫です。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...