神々の間では異世界転移がブームらしいです。《サイドストーリー》

はぐれメタボ

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盃を満たすは神の酒

防衛戦

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「来たぞ!」

  急ごしらえで用意した物見櫓から見張っていた弓士の冒険者から、とうとう魔物の軍勢の到達が知らされる。
  ジンとバッカスはアリアドネの正面に陣取り、魔物の軍勢と向かい合っていた。
  すでに魔物は魔法の射程圏に入っており、魔法使いの魔法や投石機で次々と数を減らしている。
  しかし、どれだけ数を削ろうとも、視認できる限りではとても減っているとは思えなかった。
  そして、ついにジンとバッカスは魔物との戦闘を開始した。




「ぬぉぉお!」

  バッカスの戦鎚がアイアンタートルの強靱な甲羅を砕く。
  
「キギギィ!」

  そのバッカスの背中に鋭い鎌を振り下ろそうとするする蟷螂型の魔物、キラーマンティスの頭に矢が突き刺さる。
  
「退がれバッカス!」

  ジンの声に従い、バッカスがその場を飛び退く。

「旋風よ 我が鏃に追従せよ スラストアロー」

  ジンの放った矢はバッカスを追って飛び掛かって来たゴブリンの間を駆け抜けゴブリンリーダーの眉間に突き刺さる。
  更に矢の周りに追従していた風の刃がゴブリンを切り裂いて行く。

「くそ、切りがねぇ」

「ジン、矢の残りは大丈夫か?」

「芳しくはないな、すでに半分使い切っている」
   
  2人の周囲でも冒険者達が奮戦しているが、いかんせん魔物の数が多過ぎる。
  アリアドネはグリント帝国最大の迷宮都市、当然、拠点にしている冒険者も多く、また、高ランクの冒険者や二つ名を持つ者も多く存在する。
  未だに崩壊せずにギリギリとは言え戦線を維持しているのはそんな者達の奮闘故だろう。

「ぐぅ!」

  バッカスがオーガの石斧を戦鎚で受け止めた時だった。
  視界の外から何が崩れる様な大きな音が聞こえて来た。
  
「な、なんじゃ⁉︎」

「ちっ!不味いぞ⁉︎
  防壁が崩れてやがる!」

  ジンがオーガの目を射抜きながら舌打ちをする。
  アリアドネを守る防壁の一部が崩れ去っているのだ。

「止めろ! 魔物を街に入れるな!」

「誰か、土属性魔法で防壁の穴を塞いでくれ!」

「魔物が数匹街に入ったぞ!」

  防壁の近くに居た冒険者の慌てる声が聞こえてくる。
  
「くそ!早く防壁塞がねば!」

「走れバッカス!魔物を食い止めるぞ!」

  ジンとバッカスが崩れた防壁の方へ急ぐ。
  あの辺りは2人の行きつけの酒場《酔いどれスライム》の近くだ。
  
「グラァァア!」

「な、アレは……竜種か⁉︎」

「不味い、ファイアドレイクじゃ!」

  2人が防壁の元に駆けつけると、周囲の冒険者の攻撃を物ともせず赤く巨大なトカゲが崩れた防壁を抜け街中へと入って行った。

「追うぞ、あんなのに街中で暴れられたら大変だ!」

  ファイアドレイクはBランク上位の魔物、果たして2人で討伐する事が出来るのか、討伐出来たとしてもあんな化け物がうじゃうじゃいる現状は絶望してもおかしくはない。
  それでも2人はファイアドレイクを追いかけて崩れた防壁へと向かった。
  ファイアドレイクを追い、防壁の穴に飛び込もうとした時、なんと街中に入り込んで行ったファイアドレイクが防壁を突き破り吹き飛んで来た。

「な、なんだ⁉︎」

「魔法で吹き飛ばしたのか⁉︎」

  砂埃の中には、2人の驚きの声に答える者が居た。

「魔法ではない。
  盾の一撃シールドバッシュだ」

  砂煙が晴れた所に男が立って居た。
  男は、使い込まれて傷だらけとなっている白銀の鎧を身に付けている。
  右手には精緻な装飾が施された身の丈程の大きなタワーシールド、左手には大楯とは対照的に短めのショートソードを持ち、光の神の紋章を刺繍された真紅のマントを翻している。
  兜を付けていないのは素早い魔物との戦いを想定しているのだろう。
  その身のこなしから魔物との戦闘に熟練した強者の風格を感じる。

「あ、あんたは⁉︎」

「ジンとバッカスか」

  男はジンとバッカスに気がつくとゆっくりと近づいて来る。

「中に侵入した魔物は全て討伐した。
  バッカス、土属性魔法で防壁を修復してくれ」

  男は後頭部で髪を一纏めに縛り、髭は綺麗に剃られているが確かにあの酒場の酔っ払い、バルで有った。

「バル、お主……」

「俺がバカだったんだ。
  家族は見つかっていない。
  だが、まだ数年しか探していないんだ。
  俺は家族探し出す。
  この戦いを生き抜いてな」

  バルは付き物が落ちたかの様に不敵に笑った。

「さぁ、急げ!
  防壁を修復するんだ」

「わ、わかった!」

  バッカスは防壁の修復に向かい、ジンもバッカスの護衛をする為に後を追うのだった。
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