神々の間では異世界転移がブームらしいです。《サイドストーリー》

はぐれメタボ

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盃を満たすは神の酒

悪酔いと卵

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  帝国の端、かつてイザール神聖国と呼ばれていた場所に面した辺りに田舎に不釣り合いな大きな城壁で囲まれた大きな街が存在していた。
  その街、帝国で最大のダンジョンを有する迷宮都市アリアドネはダンジョンから得られる素材やマジックアイテムを求め、商人や職人、そして、一攫千金を狙う冒険者達で溢れ、活気に満ちていた。
  そんな迷宮都市アリアドネにおいて、多くの冒険者達が日々の冒険の疲れを癒し、英気を養う酒場はまさに星の数ほどと言っても良いほどの数がある。
  その中でも『知る人ぞ知る』っとマスターは自称する酒場《酔いどれスライム》は良い時間であるが全ての席は埋まっていない。
  
「ほう、それでその村で大量の酒を手に入れたって訳か」

「まあな、特に村長から特別に分けて貰った酒は格別でな」

「ああ、アレは最高だった。
  今まで飲んだ酒の中でもかなり上位の一品だった」

「そいつは羨ましい」

  ジンとバッカスはマスターと会話を楽しみながら酒を煽る。

「おいマスター、酒だ!」

  そんな3人の談笑を遮る声が入った。
  
「バルさん、今日はもうやめておいた方が良いよ。
  だいぶ呑んでるだろ?」

「うるさい、金はあるんだ!さっさと酒を寄越せ!」

  騒いているのは擦り切れた服に全く手入れされていない無精髭、長髪と言うより、伸びてしまっただけと言う髪の男だった。

「これ以上は体を壊すよ、今日はここまでにした方がいい」

「なんだと、テメェ!」
  
  激昂した男がマスターの胸ぐらを掴み上げる。

「おいおい、やめんか馬鹿者!」

「そうだぞ、マスターはあんたのタメを思って……」

「うるせぇ!てめぇらなんぞに俺の何がわかる!」

「なんだと、この酔っ払いが!」

「酒に溺れるとは酒飲みの風上にも置けん奴じゃ!」

  ジンとバッカスは立ち上がり酔っ払いの男、バルと睨み合う。

「まぁまぁ、ジン、バッカス止めてくれ。
  バルもほら、今日はコレで最後にしてくれ」

  ジンとバッカスを止めたマスターはバルに新しい酒の瓶を手渡した。

「ちっ!」

  バルはその酒を受け取ると小銀貨を数枚マスターに押し付け酒瓶を片手にフラフラと店を出て行った。

「おいマスター、何だってあんな奴に酒を出すんだ?」

「そうじゃ、己の限界も弁えず、酒の味も分からん程酔っ払うような者は、いつも叩き出しておったでは無いか?」

「まぁな……だが、バルの奴にもいろいろあるらしくてな。
  あいつ、イザール神聖国の出身なんだよ」

「なに⁉︎」

「あのスタンピートで滅亡した国か」

「ああ、スタンピートを生き延びて、生きているかも分からない家族を探し続けていたらしい。
  だが、何年たって見つからず、だんだんと酒に逃げる様になったそうだ」

  ジンとバッカスの間に沈黙が落ちる。
  
「まぁ、奴にも事情があるのはわかった。
  マスターが同情する気持ちもな」

「ああ、マスターが良いなら、わしらもなにも言うまい」

  気を取り直して酒を煽り始めたジンとバッカスにマスターが新たな酒を差し出す。

「ん、この酒は?」

「俺の奢りだ」

「珍しいな、何か裏でも有るのか?」

  からかい気味に聞いたバッカスだったが思いっきり目をそらすマスターに苦笑いを浮かべる。

「いや、実はな、お前さん達に1つ依頼を頼みたいんだ。
  報酬はその酒を瓶で2本だ」

  その言葉にジンとバッカスは同時にグラスを傾ける。
  
「こいつは、『ドワーフの火酒』か」

「うむ、確かにこいつはロックドック産の火酒じゃ!」

  喉が燃え上がる様に強く臓物に染み渡るほどに強烈な酒精を持つその酒はドワーフの国、ロックドックで造られる酒に間違いない。
  この酒は別に高価な訳ではない。
  しかし、ロックドックはドワーフの国、国民の大半はドワーフであり、多分に漏れず多くの国民が酒好きという国だ。
  その国で造られた酒を他国で手に入れるのは非常に困難だろう。
  
「それで、依頼とは?」

「ロック鳥の卵が欲しいんだ。
  実は……その……嫁さんの誕生日を忘れていてな。
  朝から口も聞いてくれねぇんだ」

  機嫌をとる為に好物を渡そうと言う単純な作戦らしい。
  嫁さんの誕生日を忘れたばかりに手痛い出費を余儀なくされたマスターをからかいながらジンとバッカスは大好きな酒とマスターの料理に舌鼓を打つ。
  ロック鳥の巣を襲撃する計画を立てながら。
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