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第三部
29.<閑話>とある新妻の悩み事(前編)
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突然ですが番外編です。
長いので、2話に分けました。
********************************************
事務所で瑠璃ちゃんからファッション誌を借りた。
まだ暑い日が続くというのに、雑誌の中のモデルは秋服に身を纏っている。これ、撮影したのって真夏だよね? つくづくモデルさんは大変だなぁ、なんて感心しながらページをめくった。
そしてある特集に目が留まる。
『カップルさん100人に訊きました! 彼氏・彼女の本音――』
今までこんなカップルのアンケート調査みたいな特集は、ふ~ん? って程度にしか見ていなかったけども。興味がなかったのは過去の事。恋人期間は短かったので悩む暇もあまりなかったけれど、普通のカップルはゴールインするまでかなり時間を使うのだろう。
・知り合ってから付き合うまでの交際期間は?
・告白は彼氏から? 彼女から?
・メールで告白ってアリ?
・デートはお家派? 外派?
その他も一回のデートで使う金額や、お互いの家に行くようになるまでの期間、そして付き合ってから身体の関係になるまでの期間などなど――。
リアルな体験談が、年齢&性別順に書かれていて。思わず雑誌を握る手に力がこもった。
おお、これは気になる……!
周りのカップルがどんな交際をしているかとか、比べる暇もそういえばなかったんだよ。
そして読み進めていて、交際すっ飛ばして(仮)婚約し、あっという間に入籍を果たした私達はやっぱり異例なのだとわかった。
「知り合ってから10年目で結婚……。高校からの同級生。あ、こっちは同棲期間2年後、彼の転勤を期にプロポーズ。なるほど~」
学生時代からの付き合いっていうのも、何かいいなぁ~。同棲期間は、長引くと結婚から遠のくって話も聞くけど、この人達は問題なかったのか。彼女の方が仕事をやめて彼について行く決心って、それもちょっと素敵かも。
同世代の恋愛模様を頷きながら眺めていたら。最後のページに『こんな時どうする?』と書かれた見出しが。その内容を読んで、私は固まった。
「お悩み相談、その一。彼に浮気の気配が……。『茶髪の私の物とは思えない、黒くて長い髪の毛が一本、車の助手席についていたんです』
って、いやいや、それだけじゃ浮気の可能性は~」
なんて一人ツッコミをいれて呟いた後。その後彼の家の洗面所で、ピアスが片方落ちている事に気付いたと書かれてあった。
「うわ、確信犯だそれは!」
そういえば浮気調査を依頼される時、彼の浮気を疑い始めた理由も様々だったけど、これと似たようなケースがあったな……。彼の箪笥から女性物の下着が出てきた時は決定的だったと聞いた事もある。
自分以外の下着を持っている彼氏なんて嫌だな……。いや、自分の下着を持っているのもちょっと嫌だけど。
浮気の次の見出しは、彼の部屋でエッチな雑誌やビデオが出てきたら? というものだった。
男性なんだからまあ当然。理解すべしという意見がある中で、やっぱり嫌だという意見も多い。そもそも付き合っている彼女がいるのに、満足させてあげられてないみたい! という意見まで。
「まあ、男の人だから皆一つや二つ持っているはずだと思うけど~……」
響も高校生。お年頃の弟の部屋には、私だって気を使う。彼がいない時は決して入らないし、ベッドの下は覗かない。シーツ類だって自分で洗濯させている。
もし響の部屋からグラマーなお姉ちゃんが表紙のエッチな雑誌が出てきても、お姉ちゃん驚かない自信はあるよ! むしろ、響の好みはグラマー系なのかと、そっちの方に目がいくと思う。
思春期だもんね。異性が気になるお年頃だもの。むしろまったく気にならない方が逆に心配になるよ。
「大丈夫、私は理解のある姉でいてみせるよ。たとえちょっとマニアックなフェチがあっても、お姉ちゃんはドン引いたりしないから!」
あ、でもロリコンとかは嫌だな……。彼女が中学生とかなら何とか応援できるけど。うわ、でもそれだと私すっごいおばさんに見える!
逆に年上好きでOLと付き合っているとか言われても、複雑かもしれない。
眉間に皺を寄せて真剣に考え込む。やっぱり理解のある姉でいたいけど、かわいい弟が取られちゃうのは寂しい気も……。弟離れできていないブラコンな、ダメ姉だわ。
「って、ちょっと待って。響に当てはめて考えるんじゃなくて、これは普通自分の彼氏を当てはめて考えるものだよね?」
となると、私の場合。もし、白夜の部屋からAVやらエッチな雑誌が出てきたら?
「…………」
パタン、と雑誌を閉じた。
現在時刻は夜の9時を過ぎた頃。夕飯を食べ終えて、自室でゴロゴロしていたわけだけど。寝っ転がっていたベッドから起き上がって、部屋着から普段着に着替えはじめた。
「今日は確か、10時過ぎまで会食だったよね。それなら、今行っても大丈夫なはず」
この時間は誰もいない。探すなら今だ!
善は急げと言うし(←ちょっと違う)、思い立ったら即行動。今のうちに急げ! と、私は響に出かけてくると告げて一人、白夜の自宅へ足を運んだ。
◆ ◆ ◆
「ってゆーか、本当に何か見つかったらどうするつもりなの……」
リビングのテレビの脇にある、DVDラックを眺めて腕を組む。そんな目につく所に、見られちゃヤバい物を入れる間抜けはいないだろう。
用意周到でぬかりのない彼ならなおさらこんな所に隠さない。邦画より洋画が多いDVDラックを見て、視線を寝室へ向けた。
「お邪魔、しますよ~……」
すっかり自分もこの部屋の住人化しているのに、未だに足を入れるのはドキドキする。
白夜の匂いが充満している寝室の扉を開けて、相変わらずきちんとしてあるシンプルな寝室を見回した。
本当に、キレイに片付いているよね……。やばい、今更だけど、彼に私の部屋は見せられないわ。そういえば響がいるからと言って、私の部屋に招いた事もなかったっけ?
「断捨離しないと招待できない! この部屋見ちゃうと余計に無理!」
まあ、来たいとか言われてないうちは大丈夫かな。どうしても来る羽目になったら、響に手伝ってもらおう。(←ダメ姉)
「……ベッドの下とか、覗いちゃう?」
やっぱり定番中の定番!? あ、それともマットレスの下とか?
ないとは思いつつも、そろりと頭を床ギリギリまで近づけて、覗いてみた。
「うん、何もない」
やっぱりねー! 隠すとしても、こんな所には隠さないよね!
ないことに安堵しつ、逆に別の場所に疑いが向く。
「クローゼットの中とかは、どうだろう……」
失礼しまーす、と一声かけて、ガラガラと横にスライドさせた。奥にウォークインもあるけれど、こちらにも収納できるようになっている。
ここでも一目で何が仕舞ってあるかわかるようになってた。一番下の引き出しが寝具類のシーツとかで、上にはパジャマなどが入っている。
白夜のパジャマ姿はまた恰好いいんだよね~! 起き抜けの無防備な姿とかも、いつも隙がない完璧な人なのに、ちょっと低血圧な所が可愛くって。
フフフ、と怪しい笑みを零しながらパジャマを漁った。
うん、何も挟まっていない。
今度着てもらいたいパジャマでも贈ってみよう。
「ここまで何も見つからないと、逆に気になるんだけど!」
書斎にしている部屋は立ち入らないが、私が普段から入っている部屋はある程度見てみた。が、見られちゃまずいような物は何一つ見当たらない。やましい事がない人間なんていないはずなのに! と、偏見が発動する。
「これは喜ぶべきなの? ないって事は私で満足しているからとか?」
でも私で満足させてあげられているかと問われれば、首を傾げそうだ。だって、私ばっかり気持ちよくさせてもらう方で、彼にその……奉仕とか、一回もしたことないよ!?
プライドが高い人だから、自分が喘ぐ姿を見せたくないっていうのもあるかもしれない。以前白夜が色っぽく喘ぐ姿が見たい! とか言ったら、即拒否られた。
「でもでも、ナイスバディな朝姫ちゃんや鏡花さんならともかく。色気のいの字も見当たらない私が相手で、彼は本当に満足なのか……」
何だか考え始めたら、ぐるぐるな思考が止まらなくなってきたーー!!
頭を抱え込んで床に蹲ると、背後からドアが開く音が聞こえた。びっくりして振り返れば、同じくびっくり顔の旦那様が。
「来てたのですか、麗」
「お、お帰りなさい……」
おお、ヤバい! 今日は顔を見せずにそそくさっととんずら……じゃなかった、帰宅する予定だったのに! 予想以上に早い帰りで、驚いてしまった。
「どこか具合でも悪いのですか?」と真顔で心配顔になる白夜が、私に近づく。ああ、疲れているのに、余計な心配までさせてしまった。しかもこんなくだらない事が気になって、家宅捜索してましたなんて……言えない。
立ち上がり白夜に抱き着くと、ギュッと抱きしめ返してくれる。その温もりが嬉しくって、そしてしょうもない心配をして意地になっていた自分が恥ずかしくなった。
ごめん、白夜。疑ってごめんなさい。
ここまで探して見つからないって事は初めから、持っていないんだよね。
「どうしたんですか? 何か気になる事でも?」
優しい手つきで私の頭をなでてくれる白夜にしがみついたまま、「あのね、」と声をかけた。
もう疑いなんかはないけれど、ここまで来たんだ。やっぱりはっきりさせたい。
「白夜は仕事関係以外の物で、私に見られちゃまずい物ってある?」
「はい?」
がばりと抱き着いたまま顔を見上げれば、困惑顔の旦那様のお顔が。ああ、ちょっと疲れている感じの色気がまた素敵……と、白夜の顔を魅入る。
微笑みながら「何も?」と答えてくれて、私は安堵した。
「うん、そうだよね。ごめんね、変な事訊いて」
「いえ。ですが突然どうしたんです?」
流石に「エロ本かAVがないか詮索してました!」とは、言えない……。
私も旦那様みたいに笑顔でにっこりと誤魔化そうと試したが、白夜は見逃してくれなかった。
「麗? 答えないのでしたら、お風呂の中でじっくり問い詰めますよ」
「何でお風呂!? じゃなかった、いやそれは遠慮しま……」
彼から離れようとすれば、抱きかかえられて「ぎゃ!?」と色気のない悲鳴をあげる。
向かう先は浴室で……って、キャーちょっとそれは待ったー!!
「今日はもう入って来たからお風呂はいらないっ」
「それでは私に付き合ってもらいましょうか。可愛い奥さんの手で背中を流してもらうのもいいですね」
え、それってちょっと新婚っぽい……
なんてぽっと赤くなってもいられない。背中の流しあいっこは確かに夢だが(いつもはする暇もなくぐったりしてしまう)、絶対背中を流すだけじゃ終わらないよね!?
私の服を脱がそうとする白夜に「待った!」の声をかけたが、微笑むだけで彼の手は止まらない。「隠し事をする子には、お仕置きが必要です」なんて不穏極まりない台詞を吐かれて、私は内心悲鳴をあげた。
「じゃ、じゃあ! ずばり訊くけど!!」
「どうぞ?」
脱がしにかかっていた手を止めて、面白そうに見つめてくる。私は迷いを捨てて、白夜に問い詰めた。
「本当に私に見られちゃ困る物はないんだよね? 見られちゃ恥ずかしい物も持っていないんだよね!?」
「あなたは何を訊いているのでしょうか。見られちゃ恥ずかしい物とは、どんな物でしょう?」
「そ、それはその~……夜のバイブルとか」
男性にとってはバイブル(聖書)だろう! エロ本というのが躊躇われた為、とっさにそんな単語を使ってしまった。
「はい? 何ですか、バイブルって」
想像通り、怪訝そうに問いかける。そんな顔も美しいけれど、あー自分でも恥ずかしい事言っちまった! って思ってるんだから、スルーしてよぉおー!!
「だから! 健康な成人男性なら必ず一つや二つは持ってるんでしょ!? エッチな本とかDVDとか!!」
何ギレだよ! という勢いで顔を真っ赤にさせたまま問い詰めれば、白夜は束の間唖然とし――深々とため息を吐いた。
「一体何の心配をしているのかと思えば……。ありませんよ、そんな物は」
疲れ気味に答えた白夜をまじまじと見つめる。え、ないって本当に?
「ないの? え、本当にないの? いいんだよ、隠さなくって。別に「不潔!」とか潔癖な事言わないよ? 私で満足させられているなんて、自惚れてないし……」
珍しくちょっとムっとした顔になった白夜は、「何でそこまで疑うのでしょう」と言った。
「え、いやぁ……だって、付き合ってても、結婚してても、男の人はそういう物を持っている物なんでしょ? なんていうか、えーと、別腹? みたいな」
なんて告げた私に、白夜は笑顔のまま冷気を発動させた。ひっ! 寒い!?
「また何て事を言うのでしょうね……? そしてそんな疑いをかけられていたとは、心外です。私があなた以外で抜くとかありえないのに」
「っ!?」
今、今! びっくりな単語が聞こえてきましたよ!?
まさか白夜の口からそんな言葉が……なんて、驚いた直後。止められていた手が動き出して、あっという間に下着姿にまで剥かれてしまった。
「さて、そんな事を言うあなたには、お仕置きが必要ですね?」
極上の笑顔を向けた彼は、笑いながら怒るという実に器用な芸を発動させて。私は悲鳴を飲み込んだ。
ヤバい、何か変なスイッチを押したかもしれない……っ!!
長いので、2話に分けました。
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事務所で瑠璃ちゃんからファッション誌を借りた。
まだ暑い日が続くというのに、雑誌の中のモデルは秋服に身を纏っている。これ、撮影したのって真夏だよね? つくづくモデルさんは大変だなぁ、なんて感心しながらページをめくった。
そしてある特集に目が留まる。
『カップルさん100人に訊きました! 彼氏・彼女の本音――』
今までこんなカップルのアンケート調査みたいな特集は、ふ~ん? って程度にしか見ていなかったけども。興味がなかったのは過去の事。恋人期間は短かったので悩む暇もあまりなかったけれど、普通のカップルはゴールインするまでかなり時間を使うのだろう。
・知り合ってから付き合うまでの交際期間は?
・告白は彼氏から? 彼女から?
・メールで告白ってアリ?
・デートはお家派? 外派?
その他も一回のデートで使う金額や、お互いの家に行くようになるまでの期間、そして付き合ってから身体の関係になるまでの期間などなど――。
リアルな体験談が、年齢&性別順に書かれていて。思わず雑誌を握る手に力がこもった。
おお、これは気になる……!
周りのカップルがどんな交際をしているかとか、比べる暇もそういえばなかったんだよ。
そして読み進めていて、交際すっ飛ばして(仮)婚約し、あっという間に入籍を果たした私達はやっぱり異例なのだとわかった。
「知り合ってから10年目で結婚……。高校からの同級生。あ、こっちは同棲期間2年後、彼の転勤を期にプロポーズ。なるほど~」
学生時代からの付き合いっていうのも、何かいいなぁ~。同棲期間は、長引くと結婚から遠のくって話も聞くけど、この人達は問題なかったのか。彼女の方が仕事をやめて彼について行く決心って、それもちょっと素敵かも。
同世代の恋愛模様を頷きながら眺めていたら。最後のページに『こんな時どうする?』と書かれた見出しが。その内容を読んで、私は固まった。
「お悩み相談、その一。彼に浮気の気配が……。『茶髪の私の物とは思えない、黒くて長い髪の毛が一本、車の助手席についていたんです』
って、いやいや、それだけじゃ浮気の可能性は~」
なんて一人ツッコミをいれて呟いた後。その後彼の家の洗面所で、ピアスが片方落ちている事に気付いたと書かれてあった。
「うわ、確信犯だそれは!」
そういえば浮気調査を依頼される時、彼の浮気を疑い始めた理由も様々だったけど、これと似たようなケースがあったな……。彼の箪笥から女性物の下着が出てきた時は決定的だったと聞いた事もある。
自分以外の下着を持っている彼氏なんて嫌だな……。いや、自分の下着を持っているのもちょっと嫌だけど。
浮気の次の見出しは、彼の部屋でエッチな雑誌やビデオが出てきたら? というものだった。
男性なんだからまあ当然。理解すべしという意見がある中で、やっぱり嫌だという意見も多い。そもそも付き合っている彼女がいるのに、満足させてあげられてないみたい! という意見まで。
「まあ、男の人だから皆一つや二つ持っているはずだと思うけど~……」
響も高校生。お年頃の弟の部屋には、私だって気を使う。彼がいない時は決して入らないし、ベッドの下は覗かない。シーツ類だって自分で洗濯させている。
もし響の部屋からグラマーなお姉ちゃんが表紙のエッチな雑誌が出てきても、お姉ちゃん驚かない自信はあるよ! むしろ、響の好みはグラマー系なのかと、そっちの方に目がいくと思う。
思春期だもんね。異性が気になるお年頃だもの。むしろまったく気にならない方が逆に心配になるよ。
「大丈夫、私は理解のある姉でいてみせるよ。たとえちょっとマニアックなフェチがあっても、お姉ちゃんはドン引いたりしないから!」
あ、でもロリコンとかは嫌だな……。彼女が中学生とかなら何とか応援できるけど。うわ、でもそれだと私すっごいおばさんに見える!
逆に年上好きでOLと付き合っているとか言われても、複雑かもしれない。
眉間に皺を寄せて真剣に考え込む。やっぱり理解のある姉でいたいけど、かわいい弟が取られちゃうのは寂しい気も……。弟離れできていないブラコンな、ダメ姉だわ。
「って、ちょっと待って。響に当てはめて考えるんじゃなくて、これは普通自分の彼氏を当てはめて考えるものだよね?」
となると、私の場合。もし、白夜の部屋からAVやらエッチな雑誌が出てきたら?
「…………」
パタン、と雑誌を閉じた。
現在時刻は夜の9時を過ぎた頃。夕飯を食べ終えて、自室でゴロゴロしていたわけだけど。寝っ転がっていたベッドから起き上がって、部屋着から普段着に着替えはじめた。
「今日は確か、10時過ぎまで会食だったよね。それなら、今行っても大丈夫なはず」
この時間は誰もいない。探すなら今だ!
善は急げと言うし(←ちょっと違う)、思い立ったら即行動。今のうちに急げ! と、私は響に出かけてくると告げて一人、白夜の自宅へ足を運んだ。
◆ ◆ ◆
「ってゆーか、本当に何か見つかったらどうするつもりなの……」
リビングのテレビの脇にある、DVDラックを眺めて腕を組む。そんな目につく所に、見られちゃヤバい物を入れる間抜けはいないだろう。
用意周到でぬかりのない彼ならなおさらこんな所に隠さない。邦画より洋画が多いDVDラックを見て、視線を寝室へ向けた。
「お邪魔、しますよ~……」
すっかり自分もこの部屋の住人化しているのに、未だに足を入れるのはドキドキする。
白夜の匂いが充満している寝室の扉を開けて、相変わらずきちんとしてあるシンプルな寝室を見回した。
本当に、キレイに片付いているよね……。やばい、今更だけど、彼に私の部屋は見せられないわ。そういえば響がいるからと言って、私の部屋に招いた事もなかったっけ?
「断捨離しないと招待できない! この部屋見ちゃうと余計に無理!」
まあ、来たいとか言われてないうちは大丈夫かな。どうしても来る羽目になったら、響に手伝ってもらおう。(←ダメ姉)
「……ベッドの下とか、覗いちゃう?」
やっぱり定番中の定番!? あ、それともマットレスの下とか?
ないとは思いつつも、そろりと頭を床ギリギリまで近づけて、覗いてみた。
「うん、何もない」
やっぱりねー! 隠すとしても、こんな所には隠さないよね!
ないことに安堵しつ、逆に別の場所に疑いが向く。
「クローゼットの中とかは、どうだろう……」
失礼しまーす、と一声かけて、ガラガラと横にスライドさせた。奥にウォークインもあるけれど、こちらにも収納できるようになっている。
ここでも一目で何が仕舞ってあるかわかるようになってた。一番下の引き出しが寝具類のシーツとかで、上にはパジャマなどが入っている。
白夜のパジャマ姿はまた恰好いいんだよね~! 起き抜けの無防備な姿とかも、いつも隙がない完璧な人なのに、ちょっと低血圧な所が可愛くって。
フフフ、と怪しい笑みを零しながらパジャマを漁った。
うん、何も挟まっていない。
今度着てもらいたいパジャマでも贈ってみよう。
「ここまで何も見つからないと、逆に気になるんだけど!」
書斎にしている部屋は立ち入らないが、私が普段から入っている部屋はある程度見てみた。が、見られちゃまずいような物は何一つ見当たらない。やましい事がない人間なんていないはずなのに! と、偏見が発動する。
「これは喜ぶべきなの? ないって事は私で満足しているからとか?」
でも私で満足させてあげられているかと問われれば、首を傾げそうだ。だって、私ばっかり気持ちよくさせてもらう方で、彼にその……奉仕とか、一回もしたことないよ!?
プライドが高い人だから、自分が喘ぐ姿を見せたくないっていうのもあるかもしれない。以前白夜が色っぽく喘ぐ姿が見たい! とか言ったら、即拒否られた。
「でもでも、ナイスバディな朝姫ちゃんや鏡花さんならともかく。色気のいの字も見当たらない私が相手で、彼は本当に満足なのか……」
何だか考え始めたら、ぐるぐるな思考が止まらなくなってきたーー!!
頭を抱え込んで床に蹲ると、背後からドアが開く音が聞こえた。びっくりして振り返れば、同じくびっくり顔の旦那様が。
「来てたのですか、麗」
「お、お帰りなさい……」
おお、ヤバい! 今日は顔を見せずにそそくさっととんずら……じゃなかった、帰宅する予定だったのに! 予想以上に早い帰りで、驚いてしまった。
「どこか具合でも悪いのですか?」と真顔で心配顔になる白夜が、私に近づく。ああ、疲れているのに、余計な心配までさせてしまった。しかもこんなくだらない事が気になって、家宅捜索してましたなんて……言えない。
立ち上がり白夜に抱き着くと、ギュッと抱きしめ返してくれる。その温もりが嬉しくって、そしてしょうもない心配をして意地になっていた自分が恥ずかしくなった。
ごめん、白夜。疑ってごめんなさい。
ここまで探して見つからないって事は初めから、持っていないんだよね。
「どうしたんですか? 何か気になる事でも?」
優しい手つきで私の頭をなでてくれる白夜にしがみついたまま、「あのね、」と声をかけた。
もう疑いなんかはないけれど、ここまで来たんだ。やっぱりはっきりさせたい。
「白夜は仕事関係以外の物で、私に見られちゃまずい物ってある?」
「はい?」
がばりと抱き着いたまま顔を見上げれば、困惑顔の旦那様のお顔が。ああ、ちょっと疲れている感じの色気がまた素敵……と、白夜の顔を魅入る。
微笑みながら「何も?」と答えてくれて、私は安堵した。
「うん、そうだよね。ごめんね、変な事訊いて」
「いえ。ですが突然どうしたんです?」
流石に「エロ本かAVがないか詮索してました!」とは、言えない……。
私も旦那様みたいに笑顔でにっこりと誤魔化そうと試したが、白夜は見逃してくれなかった。
「麗? 答えないのでしたら、お風呂の中でじっくり問い詰めますよ」
「何でお風呂!? じゃなかった、いやそれは遠慮しま……」
彼から離れようとすれば、抱きかかえられて「ぎゃ!?」と色気のない悲鳴をあげる。
向かう先は浴室で……って、キャーちょっとそれは待ったー!!
「今日はもう入って来たからお風呂はいらないっ」
「それでは私に付き合ってもらいましょうか。可愛い奥さんの手で背中を流してもらうのもいいですね」
え、それってちょっと新婚っぽい……
なんてぽっと赤くなってもいられない。背中の流しあいっこは確かに夢だが(いつもはする暇もなくぐったりしてしまう)、絶対背中を流すだけじゃ終わらないよね!?
私の服を脱がそうとする白夜に「待った!」の声をかけたが、微笑むだけで彼の手は止まらない。「隠し事をする子には、お仕置きが必要です」なんて不穏極まりない台詞を吐かれて、私は内心悲鳴をあげた。
「じゃ、じゃあ! ずばり訊くけど!!」
「どうぞ?」
脱がしにかかっていた手を止めて、面白そうに見つめてくる。私は迷いを捨てて、白夜に問い詰めた。
「本当に私に見られちゃ困る物はないんだよね? 見られちゃ恥ずかしい物も持っていないんだよね!?」
「あなたは何を訊いているのでしょうか。見られちゃ恥ずかしい物とは、どんな物でしょう?」
「そ、それはその~……夜のバイブルとか」
男性にとってはバイブル(聖書)だろう! エロ本というのが躊躇われた為、とっさにそんな単語を使ってしまった。
「はい? 何ですか、バイブルって」
想像通り、怪訝そうに問いかける。そんな顔も美しいけれど、あー自分でも恥ずかしい事言っちまった! って思ってるんだから、スルーしてよぉおー!!
「だから! 健康な成人男性なら必ず一つや二つは持ってるんでしょ!? エッチな本とかDVDとか!!」
何ギレだよ! という勢いで顔を真っ赤にさせたまま問い詰めれば、白夜は束の間唖然とし――深々とため息を吐いた。
「一体何の心配をしているのかと思えば……。ありませんよ、そんな物は」
疲れ気味に答えた白夜をまじまじと見つめる。え、ないって本当に?
「ないの? え、本当にないの? いいんだよ、隠さなくって。別に「不潔!」とか潔癖な事言わないよ? 私で満足させられているなんて、自惚れてないし……」
珍しくちょっとムっとした顔になった白夜は、「何でそこまで疑うのでしょう」と言った。
「え、いやぁ……だって、付き合ってても、結婚してても、男の人はそういう物を持っている物なんでしょ? なんていうか、えーと、別腹? みたいな」
なんて告げた私に、白夜は笑顔のまま冷気を発動させた。ひっ! 寒い!?
「また何て事を言うのでしょうね……? そしてそんな疑いをかけられていたとは、心外です。私があなた以外で抜くとかありえないのに」
「っ!?」
今、今! びっくりな単語が聞こえてきましたよ!?
まさか白夜の口からそんな言葉が……なんて、驚いた直後。止められていた手が動き出して、あっという間に下着姿にまで剥かれてしまった。
「さて、そんな事を言うあなたには、お仕置きが必要ですね?」
極上の笑顔を向けた彼は、笑いながら怒るという実に器用な芸を発動させて。私は悲鳴を飲み込んだ。
ヤバい、何か変なスイッチを押したかもしれない……っ!!
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