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第三部
24.夢の結果
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お待たせしてすみません。
(誤字脱字訂正しました)
********************************************
自室に戻った雪花は、深く息を吐いた。
人の夢を覗き見るのは、なかなか体力を使う。そして精神にも負荷がかかるのだ。
この日孫娘の麗が、入籍したばかりの婿を連れて古紫邸に訪れるだろう事は、事前にわかっていた。
噂と書面のみで聞き知っている東条家の御曹司。鷹臣から幾度か報告は入っていたが、直接対面するのはこれが初めてだった為、多少雪花は楽しみにしていた。
常に柔和な笑顔を浮かべる端整な顔立ちの青年。滅多に声を荒げない穏やかな気性で、人徳も高い。社員からの信頼も篤く、仕事ぶりも文句なし。
出来過ぎだと思える完璧主義者と、どこかそそっかしい孫娘がうまくやっていける物なのか、この目で確かめてみる必要があった。
麗に対する愛情が本物でも、結婚後に必ず訪れるであろう試練を、乗り越えられるだけの気概があるかどうか。
一般人と変わらない子供が生まれるならそれも良し。だが、そう呑気な事を言ってはいられない。常に起こり得る未来の可能性を先見し、対処する方法を考えなければ、一族など背負ってはいられないのだ。
「白き夜の名を冠する子……常に矛盾と隣り合わせで生きる、まことに人間らしい男よのぉ」
笑顔の下には、己を律する獣を飼っている。温和な口調だが、中身はなかなか激しい愛情を持っているようだ。見た目からはどちらかというとあっさりした交際を好みそうなのに。
「いや、そうであったのを、麗が変えたか……」
ふう、と一際大きく嘆息した。
嫉妬深く独占欲も強いあの男につかまってしまったのは、果たして幸か不幸か。仲睦まじい二人を見ていれば、今は幸せだとは思える。だが、あの少々胃もたれ気味にさせられる愛情を見せつけられると、違う意味で心配になってくる。
あの男で本当に大丈夫なのか? と。
「なかなか、手強かったわな……一番扱いが難しい能力者の子供ばかりを順に見せていったのじゃが……」
強い念動力に読心術を持って生まれる子供は、一族の人間でも扱い辛く、敬遠されがちになる。馴染みのない一般人なら、普通は恐怖すら覚えるだろう。
が、垣間見た世界では、恐怖の片鱗はどこにも見当たらなかった。
次々と厄介な力を持った子供達を、白夜は独自の方法で愛した。妻に似ている部分を探し、妻に向ける愛情と変わらぬ愛を与えた。正直それは、予想外だった。
「わらわもちいっとばかし、やりすぎた感があるが……気づいたら10人目じゃったか。流石に現実では10人も産まぬと思うが……」
これならどうだ。それなら次はどうだ。
そうこうしているうちに、気づけば10人目。明らかにがんばりすぎた。
数拍、雪花は真顔で沈黙する。
何だかそれはそれでありえそうだと思ってしまったのだ。
激しすぎる愛情は、時に重くはないか。
「糖分過多で甘い物はしばらく見たくもないわ……新手の拷問か」
次の瞬間。けらけらと笑いを零し、雪花はゆったりと長椅子の背もたれに重心を預けた。
嫌悪感を見せるどころか、すべてを受け入れて、惜しみない愛情を降り注ぐ。一人ずつ違った教育法をしていくのはなかなか出来る事ではないだろう。
異端な子供を、個性的と言い、幸せそうに見つめていた顔を思い浮かべる。そこからは偽りの感情は、感じとられなかった。
現実は夢の通りにはいかない。見せた夢の世界は、可能性の一つに過ぎないのだから。
あの世界での振る舞いは、人の本質が如実に現れる。未来で起こり得る現実で、どの選択を取るか。夢だと覚えていたのもはじめだけだ。すっかりあの世界が現実の物だと、錯覚していただろう。
だからこそ、興味深くもあり、注意深くもなった。妻を愛せても、同じ愛情を子供に向ける事が出来るか。強き力を持った子供を疎み、避けるようになるか。
結果、懸念は杞憂に終わりそうだと雪花は判断した。
「まあ、ひとまずは認めるとしようかの。少々、麗以外にも目を向けろと言うべきかもしれぬが」
孫娘に対する愛は偽りも嘘もない。それが確かめられただけでも、雪花は満足だ。ひ孫の姿は近いうちに見られるだろう。
「どうやら、時柾殿はよい孫に恵まれたようじゃのお。やはり東条家との縁は、切れぬものらしいわ」
結ばれた縁はそうたやすくは切れない。
己が動かずとも、勝手に孫世代同士で縁を繋げていたとは。まこと、人との繋がりは面白い。
小さく微笑みを零した雪花は、襖を開けて勝手に入って来る桜木を振り返り、嬉しそうに目元を細めた。
◆ ◆ ◆
……何だか旦那様が、他所様のお宅でも甲斐甲斐しく世話を焼きたがるのですが、どういたしましょう。
と、微妙に実況中継風に心の中で問いかけてみる。簡単に言えば、軽い現実逃避だ。
ちょっと目線を動かせば、すかさず目当ての物を取って来る。
喉が渇いたかもと思えば、笑顔でお茶を差し出してくる。
鼻がむず痒いと思えば、ティッシュが渡される。
これらにはすべて、「……ありがとう」としか答えていない。
ってゆーか、私何が欲しいとか、一言も言っていないんだけどね!?
「もう、ありがたいけど、過保護すぎ! 一体どうしちゃったの!?」
何か変な事されたんじゃないでしょうね?
じっとりとした目でおじさんを見ると、難しい顔で頭を左右に振られてしまった。
つまり、何もしていない、と?
私の傍から離れようとしない白夜は、砂糖漬けになりそうな甘い微笑みを惜しみなく私に向けて、「私が好きでやっているのですから、気にしないでください」と言った。
「いや、気にするよ!? 別に私の執事とか下僕とかじゃないんだから」
どんだけマメマメ動くんだ、この人は。
助かるけれど、そんなに甘やかされると私はダメな人間になりそうだ。構ってくれるのは嬉しいけれど、白夜は人目を気にするべきだろう。
現にほら、しーちゃんとおじさんの顔を見てよ! しーちゃんは涼やかな目元を細めて楽しげに笑って、おじさんはいつも通りの難しい顔だけど。飲んでいるお茶は、二人とも同じ色。
さっきちらりと見た時、ピンときた。これ、多分せんぶり茶だ。
……って、激苦で有名なあのせんぶり茶!?
好んで飲んでいるとは考えにくい。いくら健康にいいとは言っても、普段から飲用しているわけじゃないだろう。
ということは、つまり。
私達を眺めるには、この苦いお茶を飲んで何かを中和する必要があると考えたのでは?
ちらり、と隣で優雅に座る旦那様を見やる。目が合うと愛情たっぷりの眼差しで見つめられて、瞬時に頬に朱が走るが、いかんいかん。やっぱり元凶は白夜だ。この人が垂れ流す色気に加え、甘い空気が室内に充満しているんだよ!
私はすっかり免疫がついて慣れっこだけど、これは多分、初めての人はきつい。きっと身近な人物……鷹臣君や隼人君が、デレっとした笑顔をまき散らしながら砂糖を振りまいているような物だろう。想像したらちょっと怖い。
あの二人がデレる所は見たことがない。というか、俺様な鷹臣君は想像ができないし、いつもポーカーフェイスな隼人君もデレるというよりは、本心を悟らせない笑顔のままちょっとSっ気のある発言で相手を愛でそう……
居心地が悪いと言うか、居たたまれないと言うか。
これぞバカップルとか二人に思われてるのかなー!? と、一瞬冷や汗を流した。
しーちゃん特製の夕食を食べ終わった後、座敷でまったりとお茶を啜る。
今夜は日帰りで帰ると思っていたけど、予想外に泊まっていく事になってしまった。着替えなどはいくらでも貸してくれるし、最低限必要な物はバッグに入っているから、とりあえず問題はないんだけど。でもやっぱり様子のおかしい白夜が気になる。
未来の夢って一体何だよ。自分だけそんなの見てずるくない?
でも、子供10人は嘘だよね……? 私、そんなに産むつもりはないからね!?
「難しい顔をして、悩み事ですか?」
ええ、あなたの事でね。
顔色を窺ってきた白夜に心の中で返答する。
そんな中、襖が開いて姿を消していたおばあちゃんが現れた。
「わらわもせんぶり茶を頂こうかの」
ちらりと私達に視線を向けたおばあちゃんは、そうしーちゃんに告げた。って、やっぱりせんぶり茶か! それだと、原因は私達か。
「おばあちゃん、これどうにかして!」と、白夜が違う方向を向いている隙に、口パクで訴える。いつも以上に過保護な彼を元通りに戻して! と。
けれど。おばあちゃんはそっと嘆息すると、一言「無理じゃ」と呟いた。
そんなあっさり!!
向かいの席に腰を下ろしたおばあちゃんは、苦い顔をしながらお茶を啜る。眉間に寄った皺が、やっぱりお茶の苦さを表しているようだった。そんなに苦いなら飲まなければいいのに。
「――さて、白夜殿。そなたの愛情深さはようわかった。ひとまずは合格にしといてやろう」
「ありがとうございます」
一息ついたおばあちゃんは白夜にそんな言葉をかけた。笑顔で返答する旦那様と交互に見合わせる。ん? 合格ってどういうこと?
「可愛い孫娘の婿にふさわしいか、簡単な試練を受けて貰っていただけじゃ」
疑問が顔に出ていたのがわかったのか、おばあちゃんはコロコロと笑った。どうやら満足できる結果が得られたのだろう。
ほっと脱力する。怖いじゃないか、そんなの。私は何も聞かされていないんだから。
「ひ孫の顔は楽しみにしておるが、ほどほどにの」
そう言って立ち上がったおばあちゃんは、さっと退室する。その後をおじさんが続いて、襖が再び閉じられた。
ほどほどって、やっぱり10人は多すぎって事だよね?
ニコニコ笑顔の旦那様からは何を思っているのかわからない。
一人小首を傾げる私に、しーちゃんは滞在部屋を案内すると告げて、移動を促した。
途中いくつか廊下に設置されているトラップを避けて歩く。しーちゃんも歩きながら笑顔で「あら、ネズミが」とか、「モグラまで」なんて呟きながら、何かを着物の袷から取り出して投げていたけれど。あれは一体何だったのだろうか。動きがすばやすぎて、何を投げていたのかわからない。それに小さな物音が天井からしたのは、多分気のせいだよね?
「最近おバカさんが多くってね~」なんて言っていた言葉の意味は謎だ。
すっかり夜の帳が降りた古紫家では、昼間より今の方が騒がしいのかもしれない。
そんな感想を抱いて、私達は静かな一室で一晩を明かした。
(誤字脱字訂正しました)
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自室に戻った雪花は、深く息を吐いた。
人の夢を覗き見るのは、なかなか体力を使う。そして精神にも負荷がかかるのだ。
この日孫娘の麗が、入籍したばかりの婿を連れて古紫邸に訪れるだろう事は、事前にわかっていた。
噂と書面のみで聞き知っている東条家の御曹司。鷹臣から幾度か報告は入っていたが、直接対面するのはこれが初めてだった為、多少雪花は楽しみにしていた。
常に柔和な笑顔を浮かべる端整な顔立ちの青年。滅多に声を荒げない穏やかな気性で、人徳も高い。社員からの信頼も篤く、仕事ぶりも文句なし。
出来過ぎだと思える完璧主義者と、どこかそそっかしい孫娘がうまくやっていける物なのか、この目で確かめてみる必要があった。
麗に対する愛情が本物でも、結婚後に必ず訪れるであろう試練を、乗り越えられるだけの気概があるかどうか。
一般人と変わらない子供が生まれるならそれも良し。だが、そう呑気な事を言ってはいられない。常に起こり得る未来の可能性を先見し、対処する方法を考えなければ、一族など背負ってはいられないのだ。
「白き夜の名を冠する子……常に矛盾と隣り合わせで生きる、まことに人間らしい男よのぉ」
笑顔の下には、己を律する獣を飼っている。温和な口調だが、中身はなかなか激しい愛情を持っているようだ。見た目からはどちらかというとあっさりした交際を好みそうなのに。
「いや、そうであったのを、麗が変えたか……」
ふう、と一際大きく嘆息した。
嫉妬深く独占欲も強いあの男につかまってしまったのは、果たして幸か不幸か。仲睦まじい二人を見ていれば、今は幸せだとは思える。だが、あの少々胃もたれ気味にさせられる愛情を見せつけられると、違う意味で心配になってくる。
あの男で本当に大丈夫なのか? と。
「なかなか、手強かったわな……一番扱いが難しい能力者の子供ばかりを順に見せていったのじゃが……」
強い念動力に読心術を持って生まれる子供は、一族の人間でも扱い辛く、敬遠されがちになる。馴染みのない一般人なら、普通は恐怖すら覚えるだろう。
が、垣間見た世界では、恐怖の片鱗はどこにも見当たらなかった。
次々と厄介な力を持った子供達を、白夜は独自の方法で愛した。妻に似ている部分を探し、妻に向ける愛情と変わらぬ愛を与えた。正直それは、予想外だった。
「わらわもちいっとばかし、やりすぎた感があるが……気づいたら10人目じゃったか。流石に現実では10人も産まぬと思うが……」
これならどうだ。それなら次はどうだ。
そうこうしているうちに、気づけば10人目。明らかにがんばりすぎた。
数拍、雪花は真顔で沈黙する。
何だかそれはそれでありえそうだと思ってしまったのだ。
激しすぎる愛情は、時に重くはないか。
「糖分過多で甘い物はしばらく見たくもないわ……新手の拷問か」
次の瞬間。けらけらと笑いを零し、雪花はゆったりと長椅子の背もたれに重心を預けた。
嫌悪感を見せるどころか、すべてを受け入れて、惜しみない愛情を降り注ぐ。一人ずつ違った教育法をしていくのはなかなか出来る事ではないだろう。
異端な子供を、個性的と言い、幸せそうに見つめていた顔を思い浮かべる。そこからは偽りの感情は、感じとられなかった。
現実は夢の通りにはいかない。見せた夢の世界は、可能性の一つに過ぎないのだから。
あの世界での振る舞いは、人の本質が如実に現れる。未来で起こり得る現実で、どの選択を取るか。夢だと覚えていたのもはじめだけだ。すっかりあの世界が現実の物だと、錯覚していただろう。
だからこそ、興味深くもあり、注意深くもなった。妻を愛せても、同じ愛情を子供に向ける事が出来るか。強き力を持った子供を疎み、避けるようになるか。
結果、懸念は杞憂に終わりそうだと雪花は判断した。
「まあ、ひとまずは認めるとしようかの。少々、麗以外にも目を向けろと言うべきかもしれぬが」
孫娘に対する愛は偽りも嘘もない。それが確かめられただけでも、雪花は満足だ。ひ孫の姿は近いうちに見られるだろう。
「どうやら、時柾殿はよい孫に恵まれたようじゃのお。やはり東条家との縁は、切れぬものらしいわ」
結ばれた縁はそうたやすくは切れない。
己が動かずとも、勝手に孫世代同士で縁を繋げていたとは。まこと、人との繋がりは面白い。
小さく微笑みを零した雪花は、襖を開けて勝手に入って来る桜木を振り返り、嬉しそうに目元を細めた。
◆ ◆ ◆
……何だか旦那様が、他所様のお宅でも甲斐甲斐しく世話を焼きたがるのですが、どういたしましょう。
と、微妙に実況中継風に心の中で問いかけてみる。簡単に言えば、軽い現実逃避だ。
ちょっと目線を動かせば、すかさず目当ての物を取って来る。
喉が渇いたかもと思えば、笑顔でお茶を差し出してくる。
鼻がむず痒いと思えば、ティッシュが渡される。
これらにはすべて、「……ありがとう」としか答えていない。
ってゆーか、私何が欲しいとか、一言も言っていないんだけどね!?
「もう、ありがたいけど、過保護すぎ! 一体どうしちゃったの!?」
何か変な事されたんじゃないでしょうね?
じっとりとした目でおじさんを見ると、難しい顔で頭を左右に振られてしまった。
つまり、何もしていない、と?
私の傍から離れようとしない白夜は、砂糖漬けになりそうな甘い微笑みを惜しみなく私に向けて、「私が好きでやっているのですから、気にしないでください」と言った。
「いや、気にするよ!? 別に私の執事とか下僕とかじゃないんだから」
どんだけマメマメ動くんだ、この人は。
助かるけれど、そんなに甘やかされると私はダメな人間になりそうだ。構ってくれるのは嬉しいけれど、白夜は人目を気にするべきだろう。
現にほら、しーちゃんとおじさんの顔を見てよ! しーちゃんは涼やかな目元を細めて楽しげに笑って、おじさんはいつも通りの難しい顔だけど。飲んでいるお茶は、二人とも同じ色。
さっきちらりと見た時、ピンときた。これ、多分せんぶり茶だ。
……って、激苦で有名なあのせんぶり茶!?
好んで飲んでいるとは考えにくい。いくら健康にいいとは言っても、普段から飲用しているわけじゃないだろう。
ということは、つまり。
私達を眺めるには、この苦いお茶を飲んで何かを中和する必要があると考えたのでは?
ちらり、と隣で優雅に座る旦那様を見やる。目が合うと愛情たっぷりの眼差しで見つめられて、瞬時に頬に朱が走るが、いかんいかん。やっぱり元凶は白夜だ。この人が垂れ流す色気に加え、甘い空気が室内に充満しているんだよ!
私はすっかり免疫がついて慣れっこだけど、これは多分、初めての人はきつい。きっと身近な人物……鷹臣君や隼人君が、デレっとした笑顔をまき散らしながら砂糖を振りまいているような物だろう。想像したらちょっと怖い。
あの二人がデレる所は見たことがない。というか、俺様な鷹臣君は想像ができないし、いつもポーカーフェイスな隼人君もデレるというよりは、本心を悟らせない笑顔のままちょっとSっ気のある発言で相手を愛でそう……
居心地が悪いと言うか、居たたまれないと言うか。
これぞバカップルとか二人に思われてるのかなー!? と、一瞬冷や汗を流した。
しーちゃん特製の夕食を食べ終わった後、座敷でまったりとお茶を啜る。
今夜は日帰りで帰ると思っていたけど、予想外に泊まっていく事になってしまった。着替えなどはいくらでも貸してくれるし、最低限必要な物はバッグに入っているから、とりあえず問題はないんだけど。でもやっぱり様子のおかしい白夜が気になる。
未来の夢って一体何だよ。自分だけそんなの見てずるくない?
でも、子供10人は嘘だよね……? 私、そんなに産むつもりはないからね!?
「難しい顔をして、悩み事ですか?」
ええ、あなたの事でね。
顔色を窺ってきた白夜に心の中で返答する。
そんな中、襖が開いて姿を消していたおばあちゃんが現れた。
「わらわもせんぶり茶を頂こうかの」
ちらりと私達に視線を向けたおばあちゃんは、そうしーちゃんに告げた。って、やっぱりせんぶり茶か! それだと、原因は私達か。
「おばあちゃん、これどうにかして!」と、白夜が違う方向を向いている隙に、口パクで訴える。いつも以上に過保護な彼を元通りに戻して! と。
けれど。おばあちゃんはそっと嘆息すると、一言「無理じゃ」と呟いた。
そんなあっさり!!
向かいの席に腰を下ろしたおばあちゃんは、苦い顔をしながらお茶を啜る。眉間に寄った皺が、やっぱりお茶の苦さを表しているようだった。そんなに苦いなら飲まなければいいのに。
「――さて、白夜殿。そなたの愛情深さはようわかった。ひとまずは合格にしといてやろう」
「ありがとうございます」
一息ついたおばあちゃんは白夜にそんな言葉をかけた。笑顔で返答する旦那様と交互に見合わせる。ん? 合格ってどういうこと?
「可愛い孫娘の婿にふさわしいか、簡単な試練を受けて貰っていただけじゃ」
疑問が顔に出ていたのがわかったのか、おばあちゃんはコロコロと笑った。どうやら満足できる結果が得られたのだろう。
ほっと脱力する。怖いじゃないか、そんなの。私は何も聞かされていないんだから。
「ひ孫の顔は楽しみにしておるが、ほどほどにの」
そう言って立ち上がったおばあちゃんは、さっと退室する。その後をおじさんが続いて、襖が再び閉じられた。
ほどほどって、やっぱり10人は多すぎって事だよね?
ニコニコ笑顔の旦那様からは何を思っているのかわからない。
一人小首を傾げる私に、しーちゃんは滞在部屋を案内すると告げて、移動を促した。
途中いくつか廊下に設置されているトラップを避けて歩く。しーちゃんも歩きながら笑顔で「あら、ネズミが」とか、「モグラまで」なんて呟きながら、何かを着物の袷から取り出して投げていたけれど。あれは一体何だったのだろうか。動きがすばやすぎて、何を投げていたのかわからない。それに小さな物音が天井からしたのは、多分気のせいだよね?
「最近おバカさんが多くってね~」なんて言っていた言葉の意味は謎だ。
すっかり夜の帳が降りた古紫家では、昼間より今の方が騒がしいのかもしれない。
そんな感想を抱いて、私達は静かな一室で一晩を明かした。
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