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第二部
48.贈り物
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*一部表現を変えました
********************************************
「おはようございます、麗」
耳元で甘く柔らかい美声が響く。鼓膜を打つその声に誘われるように意識を浮上させた私は、ゆっくりと瞼を押し上げた。
寝起きは悪い方じゃないと自覚しているだけあって、毎朝そこそこすっきり目覚めるんだけど、今朝は特に一気に目が覚めた。すっかり出勤用の服に着替えて、皺のないシャツに歪みのないネクタイを身に着けた東条さんは、まだベッドに横たわっている私の横に腰を下ろす。そして私の左手を手に取ったかと思うと、指にリップ音を立てながら口付けた。
・・・が、指にされたと思っていたキスはどうやら指にではなかったらしい・・・。
手がはなされた瞬間、何気なく左手を持ち上げて・・・目を限界まで見開く。
「な・・・なな・・・!?」
口を開けて唖然とする私を見て、上機嫌に東条さんが「気に入りましたか?」と声をかけた。
目を釘付けにするそれは、私の左手の薬指にぴったりとはめられた指輪で。まばゆいほど輝くダイヤモンドは、比較的小さい私の手にもバランスが良くちょうどいい大きさだった。見た目はオーソドックスでもどこか可愛らしいこの指輪って、まさかいわゆる・・・
「え、エンゲージリング!?」
驚愕をあらわにしながら東条さんに振り返る。ダイヤモンドに負けないくらい眩しい光を放ちながら、東条さんは穏やかに微笑んだ。
「はい、少々遅くなってしまいました。デザインに凝りすぎたようで、時間がかかりましたね」
何気にさらりと言われた発言を反芻する。
え、何それ。まさかデザインから考えたの?東条さんが?ってかこの指輪ってもしかしなくても特注なの!?
真っ白になって驚いたけど、目は指輪から離れない。びっくりしすぎて声も出なかったが、すぐに胸の底からじわじわと暖かい物に包まれる。
どうしよう・・・物凄く嬉しい・・・!
恋人から何かをプレゼントされるなんて今まで体験した事なかったのに、まさかこんなにも早く婚約指輪を受け取る日が来るなんて思いもしなかった。薬指にはめられたダイヤの指輪を見て、東条さんと婚約したと改めて実感する。嬉しすぎて涙が零れそうになった。
「あ・・・ありがとう。一生の宝物にするね・・・!」
ぎゅう、と力強く抱きしめる。嬉しさをハグで表現する所はもう癖みたいなもので。東条さんのワイシャツが皺にならないように気をつけながら、喜びを伝えるために抱きついた。そんな私をふわりと抱きしめ返してくれる。
心が満たされていくほどの満足感に浸っていたら。東条さんが抱きしめる腕を緩めた。そしてパジャマ姿で寝起きのままの私に蕩けるような微笑で見つめてくる。
「よくよく考えてみれば、まだちゃんとしたプロポーズをしていませんでしたね・・・改めて言います。――麗、私と結婚してくれますか?」
真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうな感覚になりながら、東条さんの声が耳を熱くする。感動しすぎて数秒じんとした暖かさに包まれた後。東条さんに視線を合わせながら大きく頷いた。
「・・・はい。ふ、不束者ですが・・・よろしくお願いします」
家事も料理も片付けも苦手ですが。
得意になれるようがんばりますの念を込めて、ぺこりとお辞儀すると。東条さんが小さく息を漏らしたのが聞こえた。顔を上げた瞬間、力強い腕に拘束される。
「幸せすぎて、どうにかなりそうです。本当は昨日の朝渡すつもりだったのですが、貴女の方が早く起きてしまわれたのでタイミングを逃してしまいました・・・。もう二度と離しませんから、覚悟しておいてくださいね」
「うん。離したくないと思われるよう私もがんばるから。えっと、いろいろ苦手な事も多いけど、ちゃんと克服できるよう努力もするし・・・!それに、白夜が離そうとしても私がついて行くから、白夜こそ覚悟しておいて下さいね?」
顔を上げて少し挑発気味に微笑むと。東条さんはくすりと笑い返した。そしてくすくす笑いをしたまま、おでこにキスをする。
「ええ、そんな逞しくて可愛らしいことを聞けるなんて、これからが楽しみですね。このまま今日は一日自宅で過ごしたいのですが・・・」
チラリ、と時計を見て私もつられて視線を移動させる。身仕度をして朝ご飯を食べていたらギリギリな時間だった
「そろそろ着替えた方がいいかもしれませんね」
「き、着替えてきます・・・!」
私は慌ててベッドから抜け出して、洗面所に篭った。
◆ ◆ ◆
クローゼットに入って出勤用の地味なスーツに着替えた私は、頭を抱える羽目になる。全身鏡の前に映る自分を見て、思わず赤面した。シャツの襟から覗く白い首に見えるのは、無数に散らばる赤い花で。ギリギリ見えるラインから、鎖骨のくぼみのあたりとか、何とかごまかせるかと思ったけどこれはもうアウトの域だよ!
「無理、絶対にこのまま会社に行くなんて無理・・・!」
東条さん、何でこんなにつけたのー!?
鎖骨や首だけでも4箇所はあるのに、実は服を脱ぐともっとすごい・・・。お風呂の中であまり確認は出来なかったけど、着替えの段階で膝をがっくりとつけて穴に入りたくなるほど身悶えてしまうのだ。胸やお腹、太ももの内側とかいたるところにキスマークの痣が・・・!きっと自分じゃ見えないだけで、背中とかにもついているんだよ!
首以外は服で隠せる場所だから(一応)よしとして。とりあえず今日はスカーフとか、何かないのか・・・!
「あ、あった!さすが東条さんのお母様・・・。小物まで揃っているなんて素晴らしい」
私専用になっているクローゼットを開けると、この前着ていたワンピースやボレロのほかにも今の時季でもOKなスカーフが数枚発掘できた。地味目なグレイ色のスーツなんだけど、それにも合いそうで比較的地味で無地のものを選ぶ。あ、この素材なら柔らかくて巻きやすそう・・・。知的でクール&真面目さを出す長月にぴったりな藍色のスカーフを手早く巻いた。
鏡で確認して頷く。何とかこれでごまかせるか・・・!
そしてふと目が薬指に向いた。そしてつい顔がにやける。
きゃぁあー!嬉しい、どーしよー!!婚約指輪なんて、東条さんから指輪を貰うなんて!すっかり忘れていたけど、確かに婚約したんだから指輪はいつかプレゼントされる物だったんだよね。やはり東条さんに抜かりはないらしい。
「でも東条さん、どうしてサイズわかったんだ・・・」
ってかいつサイズはかったの?私ですらリングなんて滅多に買わないから何号かって分からないんだけど!
そしてこのダイヤの指輪・・・。明らかに高いよね?0が確実に6つは付くよね?むしろデザインから始めたって事は、デザイン代もいろいろと加算されるよね・・・。
どうしよう・・・!なくしたりしたら怖い・・・!!
「うん、特別な時にだけつけるようにしよう」
会社でこんな目立つ指輪なんて出来ないし!
後で東条さんに言ってケースを貰おう。きっと付いてきているはずだ。
そして踵を返したところで、ぱっと数ヶ月前に見た夢の光景を思い出した。
「そういえばあの悪夢・・・やっぱりあれって予知夢だったのかな・・・。でも指輪は確かダイヤと青いサファイアのデザインだったような?」
夢の中で見た私は、東条さんから確かに指輪を貰っていた。でもそれは今朝もらった指輪とはデザインが違う。でもそれも当然かもしれない。だってあれは"夢"で、たとえ予知夢だっとしても未来はほんの些細な出来事や発言、選択で簡単に変わってしまう。あるはずの選択肢が消えて別の道だって現れる。だから決まった未来なんてなくて、あるのは可能性だけ。
それなら私があの夢を見てから何か違う選択をして、今に至るのだろうか。多少デザインが違くても、実際にもらった指輪が一番だし、結果的には夢の通り私達は婚約したんだから何も問題はないだろう。
一通り光にかざしたり鏡に映したりして楽しんでから、私は東条さんが待つリビングへ戻った。
「と・・・じゃなかった、白夜。あの、指輪のケースもらえる?さすがに会社でつけて行くのは無理だし、汚したくないからこれは特別な時につけるね」
コーヒーを飲んでいた東条さんが顔を上げて、ケースを差し出した。そしてにこやかに私の指輪を薬指から抜いてケースに収めた後。どこから出したのか、別のケースをぱかりと開けて、中から出した指輪を代わりにはめた。
って、何でまた指輪・・・?
疑問を声に出さずに東条さんを見つめると。甘く微笑みながら東条さんは私の頬を一撫でした。
「この指輪なら日常的に身につけられるでしょう?ですから、普段はこちらを必ずつけてくださいね。勿論会社でも。外すのはお風呂の時だけですよ?」
「は?え?この指輪って一体・・・」
そして新にはめられたのは、華奢な作りでシンプルなんだけど、小さな薔薇の花をかたどったようなデザインで。プラチナのその薔薇の中央には、小さなピンクの石がついている。そして花の両脇にもラインストーンのようにピンク色の石が。
めちゃくちゃラブリーでドストライクな指輪に視線が釘付けになる。え、これは何の指輪なの!
「これは・・・どうして?」
「あの婚約指輪のおまけみたいな物ですよ。普段使いできるもので虫除けにも利用できる指輪なので、絶対にとらないで下さいね?」
「虫除け?」
何の話だろうか。
「・・・で、このピンクの石って・・・」
何となく予感はしていたけど、あえて訊こう。もしかして?と目線で問うと、東条さんは笑顔で頷いた。
「ピンクサファイアです。可愛らしいでしょう?麗の誕生石はサファイアでしたしね」
やっぱり・・・!
意外なところで夢は現実になったようだ。
ダイヤとサファイアの指輪が一つだったのが、2つに分裂した。そして色も青からピンクへ。でも基本的なところは同じ。
唖然とする私は、東条さんの用意周到さに圧倒されながらも感嘆して。多分この人を先回りすることは無理だろうな、と一人で納得したのだった。
************************************************
次回は司馬視点でお送りするかと思います。
誤字脱字、見つけましたらご報告をお願いします!
*ダイアモンド→ダイヤモンドに変更しました。
*シルバーからプラチナへ変更しました。
*0を5→6に変更しました。ご指摘ありがとうございます!
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「おはようございます、麗」
耳元で甘く柔らかい美声が響く。鼓膜を打つその声に誘われるように意識を浮上させた私は、ゆっくりと瞼を押し上げた。
寝起きは悪い方じゃないと自覚しているだけあって、毎朝そこそこすっきり目覚めるんだけど、今朝は特に一気に目が覚めた。すっかり出勤用の服に着替えて、皺のないシャツに歪みのないネクタイを身に着けた東条さんは、まだベッドに横たわっている私の横に腰を下ろす。そして私の左手を手に取ったかと思うと、指にリップ音を立てながら口付けた。
・・・が、指にされたと思っていたキスはどうやら指にではなかったらしい・・・。
手がはなされた瞬間、何気なく左手を持ち上げて・・・目を限界まで見開く。
「な・・・なな・・・!?」
口を開けて唖然とする私を見て、上機嫌に東条さんが「気に入りましたか?」と声をかけた。
目を釘付けにするそれは、私の左手の薬指にぴったりとはめられた指輪で。まばゆいほど輝くダイヤモンドは、比較的小さい私の手にもバランスが良くちょうどいい大きさだった。見た目はオーソドックスでもどこか可愛らしいこの指輪って、まさかいわゆる・・・
「え、エンゲージリング!?」
驚愕をあらわにしながら東条さんに振り返る。ダイヤモンドに負けないくらい眩しい光を放ちながら、東条さんは穏やかに微笑んだ。
「はい、少々遅くなってしまいました。デザインに凝りすぎたようで、時間がかかりましたね」
何気にさらりと言われた発言を反芻する。
え、何それ。まさかデザインから考えたの?東条さんが?ってかこの指輪ってもしかしなくても特注なの!?
真っ白になって驚いたけど、目は指輪から離れない。びっくりしすぎて声も出なかったが、すぐに胸の底からじわじわと暖かい物に包まれる。
どうしよう・・・物凄く嬉しい・・・!
恋人から何かをプレゼントされるなんて今まで体験した事なかったのに、まさかこんなにも早く婚約指輪を受け取る日が来るなんて思いもしなかった。薬指にはめられたダイヤの指輪を見て、東条さんと婚約したと改めて実感する。嬉しすぎて涙が零れそうになった。
「あ・・・ありがとう。一生の宝物にするね・・・!」
ぎゅう、と力強く抱きしめる。嬉しさをハグで表現する所はもう癖みたいなもので。東条さんのワイシャツが皺にならないように気をつけながら、喜びを伝えるために抱きついた。そんな私をふわりと抱きしめ返してくれる。
心が満たされていくほどの満足感に浸っていたら。東条さんが抱きしめる腕を緩めた。そしてパジャマ姿で寝起きのままの私に蕩けるような微笑で見つめてくる。
「よくよく考えてみれば、まだちゃんとしたプロポーズをしていませんでしたね・・・改めて言います。――麗、私と結婚してくれますか?」
真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうな感覚になりながら、東条さんの声が耳を熱くする。感動しすぎて数秒じんとした暖かさに包まれた後。東条さんに視線を合わせながら大きく頷いた。
「・・・はい。ふ、不束者ですが・・・よろしくお願いします」
家事も料理も片付けも苦手ですが。
得意になれるようがんばりますの念を込めて、ぺこりとお辞儀すると。東条さんが小さく息を漏らしたのが聞こえた。顔を上げた瞬間、力強い腕に拘束される。
「幸せすぎて、どうにかなりそうです。本当は昨日の朝渡すつもりだったのですが、貴女の方が早く起きてしまわれたのでタイミングを逃してしまいました・・・。もう二度と離しませんから、覚悟しておいてくださいね」
「うん。離したくないと思われるよう私もがんばるから。えっと、いろいろ苦手な事も多いけど、ちゃんと克服できるよう努力もするし・・・!それに、白夜が離そうとしても私がついて行くから、白夜こそ覚悟しておいて下さいね?」
顔を上げて少し挑発気味に微笑むと。東条さんはくすりと笑い返した。そしてくすくす笑いをしたまま、おでこにキスをする。
「ええ、そんな逞しくて可愛らしいことを聞けるなんて、これからが楽しみですね。このまま今日は一日自宅で過ごしたいのですが・・・」
チラリ、と時計を見て私もつられて視線を移動させる。身仕度をして朝ご飯を食べていたらギリギリな時間だった
「そろそろ着替えた方がいいかもしれませんね」
「き、着替えてきます・・・!」
私は慌ててベッドから抜け出して、洗面所に篭った。
◆ ◆ ◆
クローゼットに入って出勤用の地味なスーツに着替えた私は、頭を抱える羽目になる。全身鏡の前に映る自分を見て、思わず赤面した。シャツの襟から覗く白い首に見えるのは、無数に散らばる赤い花で。ギリギリ見えるラインから、鎖骨のくぼみのあたりとか、何とかごまかせるかと思ったけどこれはもうアウトの域だよ!
「無理、絶対にこのまま会社に行くなんて無理・・・!」
東条さん、何でこんなにつけたのー!?
鎖骨や首だけでも4箇所はあるのに、実は服を脱ぐともっとすごい・・・。お風呂の中であまり確認は出来なかったけど、着替えの段階で膝をがっくりとつけて穴に入りたくなるほど身悶えてしまうのだ。胸やお腹、太ももの内側とかいたるところにキスマークの痣が・・・!きっと自分じゃ見えないだけで、背中とかにもついているんだよ!
首以外は服で隠せる場所だから(一応)よしとして。とりあえず今日はスカーフとか、何かないのか・・・!
「あ、あった!さすが東条さんのお母様・・・。小物まで揃っているなんて素晴らしい」
私専用になっているクローゼットを開けると、この前着ていたワンピースやボレロのほかにも今の時季でもOKなスカーフが数枚発掘できた。地味目なグレイ色のスーツなんだけど、それにも合いそうで比較的地味で無地のものを選ぶ。あ、この素材なら柔らかくて巻きやすそう・・・。知的でクール&真面目さを出す長月にぴったりな藍色のスカーフを手早く巻いた。
鏡で確認して頷く。何とかこれでごまかせるか・・・!
そしてふと目が薬指に向いた。そしてつい顔がにやける。
きゃぁあー!嬉しい、どーしよー!!婚約指輪なんて、東条さんから指輪を貰うなんて!すっかり忘れていたけど、確かに婚約したんだから指輪はいつかプレゼントされる物だったんだよね。やはり東条さんに抜かりはないらしい。
「でも東条さん、どうしてサイズわかったんだ・・・」
ってかいつサイズはかったの?私ですらリングなんて滅多に買わないから何号かって分からないんだけど!
そしてこのダイヤの指輪・・・。明らかに高いよね?0が確実に6つは付くよね?むしろデザインから始めたって事は、デザイン代もいろいろと加算されるよね・・・。
どうしよう・・・!なくしたりしたら怖い・・・!!
「うん、特別な時にだけつけるようにしよう」
会社でこんな目立つ指輪なんて出来ないし!
後で東条さんに言ってケースを貰おう。きっと付いてきているはずだ。
そして踵を返したところで、ぱっと数ヶ月前に見た夢の光景を思い出した。
「そういえばあの悪夢・・・やっぱりあれって予知夢だったのかな・・・。でも指輪は確かダイヤと青いサファイアのデザインだったような?」
夢の中で見た私は、東条さんから確かに指輪を貰っていた。でもそれは今朝もらった指輪とはデザインが違う。でもそれも当然かもしれない。だってあれは"夢"で、たとえ予知夢だっとしても未来はほんの些細な出来事や発言、選択で簡単に変わってしまう。あるはずの選択肢が消えて別の道だって現れる。だから決まった未来なんてなくて、あるのは可能性だけ。
それなら私があの夢を見てから何か違う選択をして、今に至るのだろうか。多少デザインが違くても、実際にもらった指輪が一番だし、結果的には夢の通り私達は婚約したんだから何も問題はないだろう。
一通り光にかざしたり鏡に映したりして楽しんでから、私は東条さんが待つリビングへ戻った。
「と・・・じゃなかった、白夜。あの、指輪のケースもらえる?さすがに会社でつけて行くのは無理だし、汚したくないからこれは特別な時につけるね」
コーヒーを飲んでいた東条さんが顔を上げて、ケースを差し出した。そしてにこやかに私の指輪を薬指から抜いてケースに収めた後。どこから出したのか、別のケースをぱかりと開けて、中から出した指輪を代わりにはめた。
って、何でまた指輪・・・?
疑問を声に出さずに東条さんを見つめると。甘く微笑みながら東条さんは私の頬を一撫でした。
「この指輪なら日常的に身につけられるでしょう?ですから、普段はこちらを必ずつけてくださいね。勿論会社でも。外すのはお風呂の時だけですよ?」
「は?え?この指輪って一体・・・」
そして新にはめられたのは、華奢な作りでシンプルなんだけど、小さな薔薇の花をかたどったようなデザインで。プラチナのその薔薇の中央には、小さなピンクの石がついている。そして花の両脇にもラインストーンのようにピンク色の石が。
めちゃくちゃラブリーでドストライクな指輪に視線が釘付けになる。え、これは何の指輪なの!
「これは・・・どうして?」
「あの婚約指輪のおまけみたいな物ですよ。普段使いできるもので虫除けにも利用できる指輪なので、絶対にとらないで下さいね?」
「虫除け?」
何の話だろうか。
「・・・で、このピンクの石って・・・」
何となく予感はしていたけど、あえて訊こう。もしかして?と目線で問うと、東条さんは笑顔で頷いた。
「ピンクサファイアです。可愛らしいでしょう?麗の誕生石はサファイアでしたしね」
やっぱり・・・!
意外なところで夢は現実になったようだ。
ダイヤとサファイアの指輪が一つだったのが、2つに分裂した。そして色も青からピンクへ。でも基本的なところは同じ。
唖然とする私は、東条さんの用意周到さに圧倒されながらも感嘆して。多分この人を先回りすることは無理だろうな、と一人で納得したのだった。
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次回は司馬視点でお送りするかと思います。
誤字脱字、見つけましたらご報告をお願いします!
*ダイアモンド→ダイヤモンドに変更しました。
*シルバーからプラチナへ変更しました。
*0を5→6に変更しました。ご指摘ありがとうございます!
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