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第二部

40.お着換えにご注意

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 な、何か喜んでない・・・!?

 鷹臣君相手ならいくらでも暴言を吐くけれど。(何せ彼はよくオヤジ発言をするから。)でも東条さんにエロオヤジと罵倒したのは初めてだった。

 やばい!つい口から出てしまった・・・!と、ちょっとだけ後悔した直後。気分を害した風でもなければ、不機嫌顔になる様子もない東条さんは、私の予想外の反応をした。

 「エロオヤジですか・・・女性からそんな発言をされたことなかったんですが」

 どこかうっとりと目を細めて感慨にふける姿は、ちょっと違う意味で背筋に寒気が走るんですが・・・わからない、東条さんが何故怒りもせずうれしそうに微笑むのかが全くわからない!

 そして、じゃあ男性からならあるの?という突っ込みは避けるべきだろうか。
 小さく呟いた東条さんはくすりと笑みをこぼすと、びくりと身構える私を逃がすまいと手首をつかんだ。

 「でも麗にそんなことを言われるのは嫌いじゃないですね」
 
 むしろもっと言ってくださいとでも言いそうな声音に冷や汗が流れ、内心で動揺が走る。
 え、まさかこの人ってマゾだったの・・・!?
 
 「・・・私はどちらかというとS寄りだと思っていましたが。」
 「!?何で心の中・・・!」
 「麗はすぐ顔に出るので、何を考えているのか位わかりますよ」

 なんと!

 よく顔に考えていることが出るとは言われていたけど、ここまで的確に当てるとは。東条さん恐るべし・・・!
 私はもう少し自分の駄々漏れをどうにかした方がいいのかもしれない。これじゃ読心術がなくってもばれまくりだ。

 でもSって・・・いや、S寄りって事は限りなく真ん中(普通)に近いSって事?それともSに限りなく近いノーマルとか?あの、私にマゾっ気はないんだけど・・・

 「えっと・・・私、痛いのいやですよ?」

 おずおずと顔色を窺いながら尋ねれば、今にも声をあげて笑い出しそうな東条さんが、くすくす微笑みながらギュウっと抱きしめてきた。

 「麗を傷つけることも嫌がることもしませんよ。私がもしサディスティックになるとしても、それは男性限定です」

 ・・・って事は、被害に遭うのは一番近くにいる司馬さんや海斗さん、それに男性社員の皆さんか。それってよかったと安心していいのか、哀れに思うべきなのか、どっちだ。

 抱きしめていた腕を緩めた東条さんは、私の顔を見ながら本日の予定を話し始めた。

 「さて、明日は一日外に出れないでしょうから、外出なら今のうちにしておきましょうか」
 「え?明日って一日中雨でしたっけ?」

 雨季だからそれもありえるけれど、そういえば明日の天気予報はチェックしていなかった。ずっと雨が降っていると外出するのが億劫になる。できれば家でごろごろしていたい。
 
 けれど、東条さんは微笑みながら「そういうわけではないですよ」と否定した。
 ならどういうわけだ、と訊き返しそうになって、口を噤む。ここで訊ねるのは自分の首を絞めることになるだけだと、私の直感が危険信号をキャッチして忠告してきたのだ。
 これ以上突っ込むのはよそう。賢明な判断をした私は、話題を逸らし始めた。

 「え、え~と、じゃ今日はこれからどこかに出かけますか?」
 まだお昼前だし十分出かけられる時間がある。外は曇り空だけど、折り畳み傘を持って行けば大丈夫だろう。

 「そうですね。帰りに食材も買っておきたいですし」
 食材か!って事はまた東条さんの手作りが食べれるって事だね!?やった!

 ・・・って、喜んじゃだめじゃんよ自分!!ここは普通私ががんばって手作り料理を披露するもんでしょう!

 でも悲しいかな、私の得意料理って鍋くらいしか思い浮かばない・・・。確実に東条さんのが料理上手だ。趣味が料理の男性って私の周り多くないか?響も姉がこんなんだから必然的にうまくなるし・・・。

 とりあえず、いつまでも寝間着のままじゃいられない。
 着替えをするべく荷物を漁ろうとしたら、東条さんが私のキャリーケースを持って別の部屋に入った。そのまま後を追い扉をくぐれば、そこは東条さんが使用しているウォークインクローゼットだった。

 「広っ!」

 6畳位はあるんじゃないの?クローゼットなのに!もはや衣裳部屋と言ってもいいんじゃないか。
 キレイにかけられたスーツやジャケット類に、シンプルだけど質がいい箪笥などが置かれている。この部屋に東条さんの主な衣類が納められているのか。
 そして鏡張りになっているスライド式の扉を開けば、そこには明らかに女性物の洋服がぎっしりと埋め尽くされていた。色とりどりのワンピースや羽織り物など、ちょっとしたお店の一角を見ている気分になってくる。これ、もしかして朝姫ちゃんの?

 「東条さん・・・これって朝姫ちゃんの洋服ですか?」
 随分あるな・・・。朝姫ちゃんは結構頻繁に来るのかも。案外兄妹仲いいんだな、と嬉しく思いながら頷いていたら。

 「いいえ、朝姫の服は一着もありませんよ。これは全て麗のために用意した物です」
 「は?・・・って、ええ!?」
 
 これ全部!?
 よく見てみると今着ているネグリジェ風の寝間着もいくつかかかっている。女の子らしいフェミニンなワンピースから、カジュアルな服に、フォーマルっぽい物まで。これ一体どうやって揃えたの・・・むしろ、誰が揃えたの。東条さんが全部私のために選んで買ったのか!

 「い、いつの間に・・・」
 呆然と立ち尽くす私に、東条さんはてきぱきと動いて一着の薄いレモンイエローのワンピースを手に取る。裾の方に白とピンクの鮮やかな花が咲き乱れているようで、初夏を匂わせる爽やかなデザインだ。
 かなり可愛いけど、着こなせる自信がまるでない・・・ウエストにそって裾はAラインに広がっているからスタイル良く見えるだろうけれど。上に羽織るカーディガンまで東条さんは選ぶと、私に着替えて見せるように促してきた。

 「って、ちょっと待って!こんな高そうな洋服、理由もなく貰うわけには・・・!」
 「大丈夫です。それらは母がデザインした物ですから。サンプルだと思って受け取ってください」
 遠慮は必要ないと頷く東条さんを見つめる。え、これをデザインしたのが誰だって?

 「おや?聞いてませんでしたか。私の母はブランドを立ち上げて一応デザイナーをしているのですが」

 は、初耳ですよー!?

 「あ、このブランド知ってる!良く雑誌でも載ってるブランドで、大学生からOL世代に大人気で・・・って、東条さんのお母様のブランド!?」

 何て才能溢れる家系なのだ。朝姫ちゃんもお店をいくつも経営しているし、東条グループの社長夫人の立場でありながらしっかりとビジネスまでされているとは。

 「ですから遠慮はいりません」と微笑む東条さんは、私のネグリジェのボタンを外し始め・・・って、待った待った!

 「何勝手に脱がそうとしてるんですかー!?」

 油断も隙もねえ!
 反射的に一歩後ろへ下がると、すぐに距離を詰められる。

 「お手伝いをした方が早いでしょう?後ろのファスナーも一人じゃ上げられないでしょうし。今更恥ずかしがる必要はないですよ」
 「そ、そういう問題じゃないの!と、とにかく着替えは一人で出来ますから、出てった出てった!!」

 無理矢理追い出してバタン、と扉を閉めるとしっかりと施錠する。

 溜息を吐きそうになるのを堪えて、東条さんが用意してくれた洋服を手に取ったら。丁度カーディガンとワンピースの間に置かれていたそれに目が留まり、指で持ち上げた。

 「え・・・・・・」

 ばさり、と裾をめくり自分が着用している下着と、カーディガンの下に畳まれていたブラを見比べて、思わず頬が引きつった。

 「私が何の柄を履いているとか覚えているって・・・!気が利きすぎるのも問題だよ!!」

 しっかりと同じペアのブラが置かれており、私は東条さんの記憶力の良さがちょっぴり(かなり)呪いたくなった。
 
















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何だか白夜がどんどん本物に近付いて・・・。
気のせいだと思いたいです;
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