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第二部
9.同族に注意
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白夜視点です。
********************************************
「随分と心の篭っていないエスコートですのね?白夜さん」
隣で控えめに微笑みながら見上げてくる女性に、白夜は感情の篭らない台詞を紡ぐ。
「ええそうですね。何故私の隣にいるのが貴女なのでしょうかと、げんなりしておりますから」
営業用の紳士な微笑みを浮かべながらしれっと白夜は否定もせずに認めた。柔和で穏やかな口調なのに、薄っすらと怒気が見え隠れしている。その様子に動揺を表すことなく、女性は鼻で笑った。
「ふふ、心底嫌がる貴方の顔ほど楽しい物はありませんわね。でも今夜はちゃんとわたくしに協力してもらいますからね?」
清楚で純白がよく似合うと褒め称えられるほど儚げな美貌を持つ女性は、その容姿からは想像できないほど毒のある含みを見せた。
白夜は笑顔で受け答えをするが、目の奥は笑っていない。非常に厄介で不本意な要求をきっぱりと跳ね除けることが出来ないのだ。仕方がなかったとはいえ、つまらない茶番に巻き込まれた事に苛立ちが増す。無論、怒りを表面には出さないが。
ごく自然に隣の女性―――高遠芹は、白夜の腕に己の腕を絡めた。正直な所彼女もやりたくてしているわけではないが、白夜に対する嫌がらせなら多少のことは目を瞑って積極的に実践していく。微笑みが崩れない所を視界の端で捉えて、芹は誰にも気付かれないように小さく舌打ちをした。
◆ ◆ ◆
本来なら婚約者の麗との初デートを楽しみながら、夜は自宅でとびっきりのワインを開けて彼女が好きな夜景を眺めてのんびり過ごすはずだった。そこそこ飲める麗とおいしいお酒を飲み、酔った彼女を介抱しながら甘いひと時を味わう予定が、突如舞い込んできた厄介な"頼み事"の所為でパアになった。白ワインが好きな麗の為にいくつか既に注文してあるワインの出番はいつになるのだろうか。
都合よくというか、麗も急な仕事で土曜のデートは延期になった。謝ってくれた麗を抱きしめながら、白夜は一言『残念ですが、次回がありますよ』と言って宥めたのだ。柔らかく抱きしめ心地のいい麗の感触を味わいながら、白夜は小さく息を吐いた。1日中一緒に過ごせる貴重な週末が延期になったのは痛い。しかもデートの代わりのように入った用事は気が進まないどころではなかった。
全力で『嫌です』と断っても思い通りにはならない相手。それが隣にいる高遠 芹だった。
高遠家の令嬢、高遠 芹、27歳。
東条グループに引けを取らない世界でもトップクラスに入る高遠財閥のご令嬢は、かつて白夜の許婚だった。
白夜の父と芹の父が所謂幼馴染で幼少の頃から親しい友人関係にいた為、白夜と朝姫が芹と知り合ったのもまだ年齢が一桁の頃だった。両家の結びつきを確固たる物にする為よりも、どっちかというと単に子供同士を結婚させたら自分達が嬉しいと言う大人の勝手な気持ちからいつの間にか許婚にされた。それは白夜が8歳の時、芹が5歳の時だった。
幼い頃の芹はまるで妖精のようだと褒め称えられるほど愛らしい少女だった。母親がフランス人ということもあり、日本人離れした愛らしい顔立ちと、天然の金茶の髪色。そして青色の瞳。フランス人形のような容姿の芹に、白夜の父はもう一人娘が出来たも同然だと喜びながら、白夜と朝姫に芹を会わせた。
だが子供の頃から大人びた微笑で感情を制御し、あまつさえ実の両親にも甘えを見せない白夜は、芹を見た瞬間に内心で警戒を露にした。3歳年下の少女は確かに愛らしい容姿をしていた。妹の朝姫はその外見から天使のようだと騒いでいたが、白夜は警戒を募らせた。それは芹の方も同じだったようで、自己紹介をさせられた後に握手をした直後。子供とは思えない清楚で控えめな花のような笑顔でふわりと微笑んだ芹に、白夜は表面上はにこやかに挨拶を返した。
そして目が合った瞬間、両者は一瞬で腹の底を探りあった。
油断ならない相手――。そう結論付けて。
それから十年後、お互いの両親を言いくるめて、円満に婚約話は破談になった。残念そうな顔をする両親など知った事ではない。お互いが結婚はありえないと望むのだから、仕方がないだろう。
その原因は一言で言うと、"同族嫌悪"。要は似すぎていたのだ。
穏やかな微笑みを武器に上手く処世術を身につけた白夜と、儚げな美貌が庇護欲を誘うと勝手に周りが手助けをし、上手く相手を懐柔してきた芹。表面上は何も問題がなさそうなのに、2人きりになると途端に水と油のように嫌味の応戦になる。にこやかな微笑を浮かべたまま相容れない関係。そんな2人が結婚しても上手くいくはずがない。
10年以上経った今では滅多に連絡を取らない。そんな相手から突如呼び出されたのが今回の誕生パーティーだ。食品会社の社長令息のパーティーに白夜が顔をわざわざ出す必要はなかった。その為一応面識はあっても、麗とのデートを優先させるつもりで、不参加の連絡を入れた矢先の事だった。
(借りは作るものではありませんね・・・)
苦々しく白夜は内心で呻いた。
すっかり清算したと思っていた借りをまさかここで持ってくるとは。元々他人に借りを作る事はしない白夜だが、10代の頃婚約を破談にする為に、高遠の両親を説得するよう協力を仰いだ。元々お互いこの縁談は破談になるとわかっていたのだが、芹が高校卒業を同時に結婚するとまで話が進み、さすがに悠長なことを言えなくなったのだ。自分だって白夜との婚姻は嫌なのに、芹は白夜に強引に約束をさせた。利害が一致しているはずなのに、無理矢理借りまで作らせた芹に舌打ちをしたくなったが、白夜は意地でもいつもの穏やかさを貫いた。外見を最大限利用し、強かさを隠し持つ芹と関わりがなくなるならと、その条件を飲んだのだ。
そして10年以上経った今、その時の約束を持ち出された。
「約束は約束ですわよね?わたくしの恋を成就するお手伝いをお願いしたこと、忘れたなんて言わせませんわよ」
『いつか好きになった人を手に入れる為に協力してくれるなら喜んで』
過去の台詞が蘇った。
ギリ、と強い握力で白夜の腕を優雅に握りしめる芹に、白夜は黒い殺気を迸らせながら表面上はにこやかに頷いた。
「ご自分の恋を実らせるのに私の手助けが必要とは、貴女も随分と怖気づいたものですね」
「あら、片想いの相手にずっと恋愛対象に思われていなかった貴方に言われたくないですね。随分とかわいそうな人に成り下がったと朝姫から聞いておりますわよ?」
「いつの話をしているのでしょうか。既に彼女は私の婚約者ですが?」
「まあ。それはそれは、婚約者の女性はお気の毒に。どうせえげつない方法で逃げられないように囲い込んで捕まえたのでしょう?」
「貴女が考えるえげつない方法がどんな物かはわかりませんが。少なくとも意中の男性を嫉妬させて振り向いてほしいからと、元許婚である私に恋人のフリをさせるなんて幼稚な真似はしませんでしたね」
「・・・ごちゃごちゃうっせーわね。性格は真っ黒でも顔だけはいいんだから選ばれた事を光栄に思いなさい。このあたしに見劣りしない男で話題性があるのはあんただけなんだから仕方ないっつーの」
舌打ちをし、途端に口調が悪くなった芹は清楚な微笑みの下で憤りを露にした。どうやら図星を指されて腹を立てたらしい。
「貴女は本当にその外見で柄が悪いですよね・・・」
恐らく朝姫すら知らないであろう芹の本性を、白夜は溜息をつきながら肩を落とした。さっさと終わらせて帰りたい。
「あ、来た!いい、恋人同士に見えるようにいちゃつくの忘れんじゃないわよ?正直あんたと恋人とかって吐き気がするほど嫌だけど、我慢してあげるんだから感謝しなさい」
「それは私の台詞ですね。何故貴女みたいな2重人格で強かな可愛げもない女性をエスコートしなければいけないのでしょうか。全くもって納得いきません」
「レディに対して随分と失礼ですわね?婚約者の方に貴女の恥ずかしい過去や弱点を暴露して差し上げますわよ?」
すっかり仮面を被りなおした芹が青色の瞳を見上げて可憐に微笑んだ。
「私に恥ずかしい過去も弱点もありませんのでどうぞご自由に」
その余裕な発言に芹のこめかみに青筋が一瞬浮かび上がったが、薄暗い外でその変化に気付く者は誰もいなかった。
◆ ◆ ◆
人に囲まれながらも徐々にターゲットに近付いていく。芹に誘導されながら白夜は想い人の正体を知った。些か意外だったのか思わず唖然とした。
「・・・何よ。言いたい事ははっきり言いやがりなさい」
不機嫌な命令口調で芹が表情は変えずに呟いた。
「なら遠慮なく。今夜の主役がターゲットとは、随分と趣味が変わりましたね」
「うっさいわよ。あたしは元々かわいい年下が好きなのよ!」
数メートル離れた先で談笑している今宵の主役、某食品会社社長令息であり本日22歳の誕生日を迎えた、前埜翼だ。大学4年に進学したばかりであり、理知的な瞳が印象的な好青年。人当たりも良く先ほどスピーチをした時も礼儀正しく好印象だった。
その青年が芹の想い人と聞いた白夜は思わず同情の眼差しを翼に向けてしまう。まだ若く将来有望な青年が、この毒花のような女に惑わされてしまうのか。それを手助けしている自分も同罪だと思うと、少々気が滅入った。
「・・・こんな回りくどいことしなくても、貴女ならさっさと篭絡できるでしょうに」
その美貌を使えば簡単な事だろうと匂わせて伝えると、芹は「そう簡単じゃねーのよ」と噛み付いた。
「いい、ただでさえあたしのが5歳も年上なのよ。ここで無理矢理迫って怖気づかれたら今までの努力がパアよ。ようやく顔と名前を覚えてもらって、世間話まで出来る仲になったのに。今回の招待状も直接翼君から手渡されたのよ。あの時の笑顔はやばかったわね。危うく彼を自宅に閉じ込めたくなったわ。あと一押し何か動かす出来事が必要なの」
さらりと危ない発言を言い放った幼馴染に白夜は無心を貫き全て聞き流した。我関せずが一番だ。
「年齢はどうしようもないと思いますけどね・・・。早く終わらせましょう」
しかし近くに移動しようとした所で、知人に挨拶をされて捕まってしまった。和やかな世間話をする仲で、ちらりと後ろを窺った芹が目を剥いた。
「(ちょっと、誰よあの女・・・!あたしの翼君に馴れ馴れしく触って・・・!!)」
誰が誰のだ。
挨拶が終わり後ろを振り向いた白夜は、体勢を崩した女性が近くを通りかかった翼によって助けられていた所を目撃した。
「あれは事故なのでは?それに大した問題はなさそうですが」
そう告げて目線を逸らした時。違和感を覚えて白夜は再び後ろを振り向いた。
ワイングラスを手に持ったまま頭を下げて、初老の男性にお詫びを告げる黒いドレス姿の若い女性。遠目からでも見間違えるはずがない。いるはずのない彼女がなぜいるのか。
「麗さん・・・」
「は?知り合い?」
再び挨拶が再開されて人の輪に囲まれるまで、白夜は麗から目を離すことが出来ずにいた。
************************************************
どんだけ5歳差が好きなのでしょうか。他の作品でも5歳差がよく出てくるのですが、丁度いいと思うのは月城だけですかね?(笑)年齢差があるのも好きなのですが。
新キャラ登場しました、芹お嬢様。一応朝姫の親友(?)でもあります。
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「随分と心の篭っていないエスコートですのね?白夜さん」
隣で控えめに微笑みながら見上げてくる女性に、白夜は感情の篭らない台詞を紡ぐ。
「ええそうですね。何故私の隣にいるのが貴女なのでしょうかと、げんなりしておりますから」
営業用の紳士な微笑みを浮かべながらしれっと白夜は否定もせずに認めた。柔和で穏やかな口調なのに、薄っすらと怒気が見え隠れしている。その様子に動揺を表すことなく、女性は鼻で笑った。
「ふふ、心底嫌がる貴方の顔ほど楽しい物はありませんわね。でも今夜はちゃんとわたくしに協力してもらいますからね?」
清楚で純白がよく似合うと褒め称えられるほど儚げな美貌を持つ女性は、その容姿からは想像できないほど毒のある含みを見せた。
白夜は笑顔で受け答えをするが、目の奥は笑っていない。非常に厄介で不本意な要求をきっぱりと跳ね除けることが出来ないのだ。仕方がなかったとはいえ、つまらない茶番に巻き込まれた事に苛立ちが増す。無論、怒りを表面には出さないが。
ごく自然に隣の女性―――高遠芹は、白夜の腕に己の腕を絡めた。正直な所彼女もやりたくてしているわけではないが、白夜に対する嫌がらせなら多少のことは目を瞑って積極的に実践していく。微笑みが崩れない所を視界の端で捉えて、芹は誰にも気付かれないように小さく舌打ちをした。
◆ ◆ ◆
本来なら婚約者の麗との初デートを楽しみながら、夜は自宅でとびっきりのワインを開けて彼女が好きな夜景を眺めてのんびり過ごすはずだった。そこそこ飲める麗とおいしいお酒を飲み、酔った彼女を介抱しながら甘いひと時を味わう予定が、突如舞い込んできた厄介な"頼み事"の所為でパアになった。白ワインが好きな麗の為にいくつか既に注文してあるワインの出番はいつになるのだろうか。
都合よくというか、麗も急な仕事で土曜のデートは延期になった。謝ってくれた麗を抱きしめながら、白夜は一言『残念ですが、次回がありますよ』と言って宥めたのだ。柔らかく抱きしめ心地のいい麗の感触を味わいながら、白夜は小さく息を吐いた。1日中一緒に過ごせる貴重な週末が延期になったのは痛い。しかもデートの代わりのように入った用事は気が進まないどころではなかった。
全力で『嫌です』と断っても思い通りにはならない相手。それが隣にいる高遠 芹だった。
高遠家の令嬢、高遠 芹、27歳。
東条グループに引けを取らない世界でもトップクラスに入る高遠財閥のご令嬢は、かつて白夜の許婚だった。
白夜の父と芹の父が所謂幼馴染で幼少の頃から親しい友人関係にいた為、白夜と朝姫が芹と知り合ったのもまだ年齢が一桁の頃だった。両家の結びつきを確固たる物にする為よりも、どっちかというと単に子供同士を結婚させたら自分達が嬉しいと言う大人の勝手な気持ちからいつの間にか許婚にされた。それは白夜が8歳の時、芹が5歳の時だった。
幼い頃の芹はまるで妖精のようだと褒め称えられるほど愛らしい少女だった。母親がフランス人ということもあり、日本人離れした愛らしい顔立ちと、天然の金茶の髪色。そして青色の瞳。フランス人形のような容姿の芹に、白夜の父はもう一人娘が出来たも同然だと喜びながら、白夜と朝姫に芹を会わせた。
だが子供の頃から大人びた微笑で感情を制御し、あまつさえ実の両親にも甘えを見せない白夜は、芹を見た瞬間に内心で警戒を露にした。3歳年下の少女は確かに愛らしい容姿をしていた。妹の朝姫はその外見から天使のようだと騒いでいたが、白夜は警戒を募らせた。それは芹の方も同じだったようで、自己紹介をさせられた後に握手をした直後。子供とは思えない清楚で控えめな花のような笑顔でふわりと微笑んだ芹に、白夜は表面上はにこやかに挨拶を返した。
そして目が合った瞬間、両者は一瞬で腹の底を探りあった。
油断ならない相手――。そう結論付けて。
それから十年後、お互いの両親を言いくるめて、円満に婚約話は破談になった。残念そうな顔をする両親など知った事ではない。お互いが結婚はありえないと望むのだから、仕方がないだろう。
その原因は一言で言うと、"同族嫌悪"。要は似すぎていたのだ。
穏やかな微笑みを武器に上手く処世術を身につけた白夜と、儚げな美貌が庇護欲を誘うと勝手に周りが手助けをし、上手く相手を懐柔してきた芹。表面上は何も問題がなさそうなのに、2人きりになると途端に水と油のように嫌味の応戦になる。にこやかな微笑を浮かべたまま相容れない関係。そんな2人が結婚しても上手くいくはずがない。
10年以上経った今では滅多に連絡を取らない。そんな相手から突如呼び出されたのが今回の誕生パーティーだ。食品会社の社長令息のパーティーに白夜が顔をわざわざ出す必要はなかった。その為一応面識はあっても、麗とのデートを優先させるつもりで、不参加の連絡を入れた矢先の事だった。
(借りは作るものではありませんね・・・)
苦々しく白夜は内心で呻いた。
すっかり清算したと思っていた借りをまさかここで持ってくるとは。元々他人に借りを作る事はしない白夜だが、10代の頃婚約を破談にする為に、高遠の両親を説得するよう協力を仰いだ。元々お互いこの縁談は破談になるとわかっていたのだが、芹が高校卒業を同時に結婚するとまで話が進み、さすがに悠長なことを言えなくなったのだ。自分だって白夜との婚姻は嫌なのに、芹は白夜に強引に約束をさせた。利害が一致しているはずなのに、無理矢理借りまで作らせた芹に舌打ちをしたくなったが、白夜は意地でもいつもの穏やかさを貫いた。外見を最大限利用し、強かさを隠し持つ芹と関わりがなくなるならと、その条件を飲んだのだ。
そして10年以上経った今、その時の約束を持ち出された。
「約束は約束ですわよね?わたくしの恋を成就するお手伝いをお願いしたこと、忘れたなんて言わせませんわよ」
『いつか好きになった人を手に入れる為に協力してくれるなら喜んで』
過去の台詞が蘇った。
ギリ、と強い握力で白夜の腕を優雅に握りしめる芹に、白夜は黒い殺気を迸らせながら表面上はにこやかに頷いた。
「ご自分の恋を実らせるのに私の手助けが必要とは、貴女も随分と怖気づいたものですね」
「あら、片想いの相手にずっと恋愛対象に思われていなかった貴方に言われたくないですね。随分とかわいそうな人に成り下がったと朝姫から聞いておりますわよ?」
「いつの話をしているのでしょうか。既に彼女は私の婚約者ですが?」
「まあ。それはそれは、婚約者の女性はお気の毒に。どうせえげつない方法で逃げられないように囲い込んで捕まえたのでしょう?」
「貴女が考えるえげつない方法がどんな物かはわかりませんが。少なくとも意中の男性を嫉妬させて振り向いてほしいからと、元許婚である私に恋人のフリをさせるなんて幼稚な真似はしませんでしたね」
「・・・ごちゃごちゃうっせーわね。性格は真っ黒でも顔だけはいいんだから選ばれた事を光栄に思いなさい。このあたしに見劣りしない男で話題性があるのはあんただけなんだから仕方ないっつーの」
舌打ちをし、途端に口調が悪くなった芹は清楚な微笑みの下で憤りを露にした。どうやら図星を指されて腹を立てたらしい。
「貴女は本当にその外見で柄が悪いですよね・・・」
恐らく朝姫すら知らないであろう芹の本性を、白夜は溜息をつきながら肩を落とした。さっさと終わらせて帰りたい。
「あ、来た!いい、恋人同士に見えるようにいちゃつくの忘れんじゃないわよ?正直あんたと恋人とかって吐き気がするほど嫌だけど、我慢してあげるんだから感謝しなさい」
「それは私の台詞ですね。何故貴女みたいな2重人格で強かな可愛げもない女性をエスコートしなければいけないのでしょうか。全くもって納得いきません」
「レディに対して随分と失礼ですわね?婚約者の方に貴女の恥ずかしい過去や弱点を暴露して差し上げますわよ?」
すっかり仮面を被りなおした芹が青色の瞳を見上げて可憐に微笑んだ。
「私に恥ずかしい過去も弱点もありませんのでどうぞご自由に」
その余裕な発言に芹のこめかみに青筋が一瞬浮かび上がったが、薄暗い外でその変化に気付く者は誰もいなかった。
◆ ◆ ◆
人に囲まれながらも徐々にターゲットに近付いていく。芹に誘導されながら白夜は想い人の正体を知った。些か意外だったのか思わず唖然とした。
「・・・何よ。言いたい事ははっきり言いやがりなさい」
不機嫌な命令口調で芹が表情は変えずに呟いた。
「なら遠慮なく。今夜の主役がターゲットとは、随分と趣味が変わりましたね」
「うっさいわよ。あたしは元々かわいい年下が好きなのよ!」
数メートル離れた先で談笑している今宵の主役、某食品会社社長令息であり本日22歳の誕生日を迎えた、前埜翼だ。大学4年に進学したばかりであり、理知的な瞳が印象的な好青年。人当たりも良く先ほどスピーチをした時も礼儀正しく好印象だった。
その青年が芹の想い人と聞いた白夜は思わず同情の眼差しを翼に向けてしまう。まだ若く将来有望な青年が、この毒花のような女に惑わされてしまうのか。それを手助けしている自分も同罪だと思うと、少々気が滅入った。
「・・・こんな回りくどいことしなくても、貴女ならさっさと篭絡できるでしょうに」
その美貌を使えば簡単な事だろうと匂わせて伝えると、芹は「そう簡単じゃねーのよ」と噛み付いた。
「いい、ただでさえあたしのが5歳も年上なのよ。ここで無理矢理迫って怖気づかれたら今までの努力がパアよ。ようやく顔と名前を覚えてもらって、世間話まで出来る仲になったのに。今回の招待状も直接翼君から手渡されたのよ。あの時の笑顔はやばかったわね。危うく彼を自宅に閉じ込めたくなったわ。あと一押し何か動かす出来事が必要なの」
さらりと危ない発言を言い放った幼馴染に白夜は無心を貫き全て聞き流した。我関せずが一番だ。
「年齢はどうしようもないと思いますけどね・・・。早く終わらせましょう」
しかし近くに移動しようとした所で、知人に挨拶をされて捕まってしまった。和やかな世間話をする仲で、ちらりと後ろを窺った芹が目を剥いた。
「(ちょっと、誰よあの女・・・!あたしの翼君に馴れ馴れしく触って・・・!!)」
誰が誰のだ。
挨拶が終わり後ろを振り向いた白夜は、体勢を崩した女性が近くを通りかかった翼によって助けられていた所を目撃した。
「あれは事故なのでは?それに大した問題はなさそうですが」
そう告げて目線を逸らした時。違和感を覚えて白夜は再び後ろを振り向いた。
ワイングラスを手に持ったまま頭を下げて、初老の男性にお詫びを告げる黒いドレス姿の若い女性。遠目からでも見間違えるはずがない。いるはずのない彼女がなぜいるのか。
「麗さん・・・」
「は?知り合い?」
再び挨拶が再開されて人の輪に囲まれるまで、白夜は麗から目を離すことが出来ずにいた。
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どんだけ5歳差が好きなのでしょうか。他の作品でも5歳差がよく出てくるのですが、丁度いいと思うのは月城だけですかね?(笑)年齢差があるのも好きなのですが。
新キャラ登場しました、芹お嬢様。一応朝姫の親友(?)でもあります。
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